第一章 異端の力
其の6
予想通り、カディオは食いついてきた。すると勝手にマウスを奪い取り、メールを読みはじめる。失礼にも程があるが、彼にプライベートをどうこう語るのは無意味に近い。よってソラは反論せず、好きなようにさせた。
カディオから玩具を取り上げたら、何かと煩い。そのようなところだけを見れば子供っぽいと思ってしまうが、カディオにも良いところは存在する。だからこそ、ソラは多少の我儘は受け入れてきた。
「おっ! イリアちゃんのメール発見。やっぱり、メール交換をしていたんだな。仲がいい証拠だ」
「何だよ、その“やっぱり”って」
「いや、アカデミーの一件」
一瞬、ソラの表情が曇る。カディオは思わず口をつむぎ、しまったという表情を見せる。地雷を踏んでしまった――そう感じ取ったカディオは素直に謝るも、ソラからの返事は一切なし。
「気にしている?」
「何を?」
「いや、だから……」
しかし、それ以上の言葉を続けることはしなかった。地雷を踏んだ時点でソラは機嫌を悪くしており、カディオと視線を決して合わそうとしない。ソラはカディオに「怒る」という感情表現を表すことは意外にも多かったが、決して心の底から怒っているわけではない。
それは一種のコミュニケーションのようなもので、数日も経過すれば互いに忘れてしまう。
しかし、それは些細な出来事の場合。今回の場合は、それに当て嵌まらない。それだけ、傷は深い。本気で――いや、その手前だろう。それを感じ取ったカディオは身震いをすると、言葉を続けなかったことに胸を撫で下ろす。この先を言ってしまったら、何が起こるかわからない。
――力は、感情に左右されやすい。
このようなことで力を使用するソラではないが、もしもという場合がある。不安定な感情は物事を悪い方向へ運び、最悪な結果に結び付けてしまう。しかしこの場で力を使われようとも、カディオは文句を言わない。不安定な感情は、自分ではどうしようもならない。たとえ、訓練していようも――
だが、ソラは認めない。友人を傷つけてしまった罪悪感に苛まれ、気まずい関係となる。無論、カディオはそのようなことは認めない。カディオにとってソラは大切な友人であり、悪友に近い存在。
それに――
(ラタトクスの方が、人間らしく見えるんだよな)
心の中で呟くと、視線を逸らすソラの目の前に顔を持っていく。すると何を思ったのか、満面の笑みを浮かべながら不思議な踊りをはじめた。突然の変化にソラは驚き、思わず身を引いてしまう。
「な、何だよ」
「元気を出してもらおうと」
「逆に、気分が悪くなるよ。お前って、本当におかしなことをするよな。時々、理解できない時がある。そのようなところは、気をつけないと。女の前で踊ったら、一発で嫌われるぞ」
「そういうお前も、眉間にシワばかり浮かべるな」
そう言うと、思いっきり背中を叩く。突然の攻撃に防御態勢を取れなかったソラは、息を詰まらせてしまう。手加減なしの馬鹿力で殴られた為に、背中と胸に突き刺すような痛みが走る。
思わず「骨が折れた」と心配してしまうも、骨が折れた時に感じる激痛ではない。だが、背中に手形が残っているだろう。
「おい!」
「おっと、それでこそいつものお前だ」
文句を言おうとした瞬間、カディオの言葉がそれを遮る。それは、予想外の台詞。カディオが発したとは思えない台詞にソラは噴出すと、腹を抱えて馬鹿笑いをした。それを見たカディオは肩を竦めると、ホッとした表情を作る。その顔こそ、ソラに相応しいものであった。
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