第一章 異端の力
其の1
毎年のように訪れる、ソラにとって無意味に等しいイベント。女にとって嬉しい内容であったが、男のソラにとっては迷惑に近いものがあった。要するに、金が掛かってしまうからだ。何かにつけて「物を買って」と、せがむ女達。ソラにしてみれば、理解しがたいことであった。
――所詮、男はそれだけの存在。
そのように思ってしまうのが、正直な感想。いや、現に思っている。ソラとイリアの関係は、それに近い。「旅行についてきて」ということももとを正せば、アカデミーを卒業する為だ。
これも、イベントと言えばイベントに当て嵌まる。しかし、一部の人間に関係するイベント。それは大勢の人間が楽しむものではなく、一個人が楽しみ喜びを得られるものであった。イリアはアカデミーを卒業できれば、大きなモノが得られる。一方、ソラは何が得られるのか――
結局のところ、何も得ることができない。
――図書室で卒論を書いているだろう。
流れる景色を眺めつつ、ソラはイリアの行動を予想する。それは意外にも正解だった。イリアはクラスメイト達と図書室で卒論を書き、完成に近付けていた。「旅行に行く」それは無用の行動だろう。しかしイリアは、旅行に行きたいと言うに違いない。相手は幼馴染。遠慮はない。
カディオが運転する車の中で、ソラはブスっとした表情を浮かべる。イリアに会うことは、そういった困ったおまけが付いてくるからだ。ソラの心の中は知らないが、表情で何となく話し掛けてはいけないという雰囲気を感じ取ったカディオは、何も言わない。よって、沈黙が続く。
「カディオ、女って生き物は……」
ふと、ソラが口を開いた。発せられた言葉は、イリアに対しての愚痴のようなものであった。相当嫌な思いをしてきたのか、その言葉には刺が感じられる。その内容にカディオは苦笑いを浮かべつつ、頷きなら愚痴を聞いていく。意外にカディオは、聞き上手であった。
「どうしてこう、物を欲しがるのか」
その言葉に続き、溜息がつかれる。そんなソラを一瞥すると、イリアという女性を思い出す。彼女は、外見は普通の女の子。尚且つ何処にでもいそうなタイプで、どちらかというと大人しく口数は少ない。
もしソラの幼馴染ではなかったら、カディオは告白していただろう。そう思えるほど、ソラには勿体無い。しかし、それは初対面での印象であった。よって深く付き合っていないので、内面まではわからない。もしかしたら、ソラが言っていることが正しい場合もある。
よって、イリアに関して何も言わなかった。正しいと思っていたことが逆の作用を齎し、ソラを怒らせてしまう場合があるからだ。此処は適当に相槌を打っているのが、一番だったりする。
「幼馴染って、いたりする?」
「何だよ、いきなり」
「いや、いたら会ってみたいと思って」
「残念ながら、俺にはいないぞ。遊び友達、いたけどな」
「へえ、友達はいたんだ」
「何だよ、その言い方」
「何でもない」
ソラはフッと笑みを見せると、それ以上は続けなかった。カディオに遊び友達がいたということは、はじめて知った事実。カディオはソラと同じように、自分の過去を話そうとはしない。そこに何か問題があるというわけではなく、話すに値する内容でないからだ。それは「内容が恥ずかしい」ということらしい。
「で、さっきの内容だけどマジか?」
「お前に嘘を言ってどうする」
「いやー、黙っているつもりだったけど無理だ。第一印象と、あまりにも違いすぎる。だから、嘘だと言ってほしかった」
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