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第一章 異端の力
其の7

 ソラは肩を竦めると、アパートの入り口に向かい歩き出す。部屋があるのは、五階建ての最上階。パスワードを打ち、電子ロックを解除すると中に入れる構造。手馴れた手つきでパスワードを打ち込み、ドアを開ける。その瞬間、密閉された空間に漂っていた空気が流れ出す。

 部屋に入ると、明かりを点けずに真っ直ぐベッドがある部屋に向かった。無造作にヘルメットとリュック、そしてグローブを床の上に置く。椅子を引き、テーブルに置いてあるパソコンの電源を入れメールのチェックをする。一件だけ、受信されていた。相手は、イリアだ。

 内容は、例の卒論のことであった。


『やっぱり、卒論を手伝ってください。

とても大事な約束をしてしまいました。

それを叶えるために、ソラの協力が必要なの。

朝のことは、御免なさい。

でも、本当に重要なことなの』


「……まったく」

 その文章を読んだソラは両手で顔を覆い、考え込む。これは相変わらずのことであったが、別に嫌な思いはしない。

 しかし、いくら休暇中とはいえ、何か重要なことが起これば休暇は取り消し。すぐにその場所に出向き、任務を遂行しなければいけない。それだけ、ソラが置かれている立場は束縛が多い。

 更に続きには、こう書かれていた。


『これは、私の一生がかかっています。

勿論、就職なども関係しています。

だから、できるなら断ることはしないでほしいです。卒業は普通にしたいと思っているから。

でも、それが難しいの。将来、科学者を目指すのが理由だと思うけど。

それでは、返事を待っています』


「此方の都合も……」

 テーブルの隅に置いてある写真立てに、視線を向ける。そこに映し出されているのは、笑顔のソラとイリア。それに、ソラの父親とイリアの両親。写真の下には自宅前と書かれており、写した場所は確かイリアの自宅であった。しかし、それは過去の良い思い出になってしまった。

 写真の日付から、これを写したのは五歳の頃。ソラは父と共に惑星シルアを離れ、レミエルにやってきた時期だ。偶々隣の家に暮らしていたのが、ランフォード親子。この写真は両家族が出会った記念と、これから先仲良くやっていこうという願いから撮られた物であった。

 だが、今はどうか。ソラの父親は死んでしまい、独りぼっちになってしまった。それにイリアの父親とは、あまり良い関係ではない。全ては、この力の所為。このような力がなければ、今頃は普通の生活を送っていた。

 そして、母も一緒に――

 外では雨が降り出し、雫が屋根から滴る音が耳に届く。その音にハッとなり、ベランダに出してある植木鉢を仕舞いに椅子から腰を上げる。窓を開けると、降りはじめの独特の香りが鼻腔を擽る。

 丁寧に、植木鉢を部屋の中に入れていく。その時、その中のひとつが莟をつけていることに気付く。純白の花を咲かす〈スノーホワイト〉という名前がつけられた花。窓を閉め指定の場所に植木鉢を置くと、その小さい莟を観察する。何故かとても懐かしく思い、買ってしまった花だ。

 ソラは植木鉢を持ちパソコンの前に座ると、それをテーブルの写真立ての前に置いた。物思いにその莟みを指で突いていると、幼い頃の自分がこの花を貰った相手に発した言葉を思い出す。

(確か、綺麗ですね……だっけ)


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あきゅろす。
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