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第一章 異端の力
其の6

 カデォオは猫のような瞳と長い耳を持つ〈セラフィム人〉と、身体能力の高い〈クリホォール人〉のハーフ。外見上はクリホォール人の血が強い為、ハーフと本人から聞かなければ其方の種族に見えてしまう。だが両方の種族の良い所が出ており、握力は右に出る者がいないほど高い数値を持つ。何よりリンゴも、片手で割れるほどだ。そのような人物が殴ったら……それは、恐ろしい。

「わかったよ」

「その言葉、信じるよ。じゃあ、オレ帰るから」

「おう。またな」

 カディオは、車の中から手を振る。そしてソラは、同じように手を上げそれに答えた。カディオの車が走り出したす。その姿を見送るとソラは、脇に抱えていたヘルメットとグローブを身に付け、家に向かいバイクを走らせた。冷たい風が服の隙間から入り込み、気温以上に寒く感じる。雪が降るのではないかと思われる気候に、何気なく視線を天に向けてしまう。

 繁華街は、騒がしいほど賑やかであった。数日後には、一大イベントが控えているからだ。〈ネヴェリルト〉直訳すると〈雪の妖精〉となるらしいが、この名前をつけた人物は、ファンタジーのセンスあるとソラは思っている。また〈恋人達のひと時〉そういう呼び名もあった。

 バイクを止め、人の流れに視線を止める。この寒さならネヴェリルトの時は雪が降り、辺り一面銀世界になるに違いない。白銀の世界に、愛を語り合う恋人達。彼女がいないソラにとっては、それは無縁の話。

(プレゼントは、せがまれるだろうな)

 しかし、毎年イリアにプレゼントを贈っている。“幼馴染”という理由で、ただ何となく。しかし、プレゼントを贈る自体は嫌ではない。ただその行為は、変に誤解を招く場合がある。

 「恋人を作ったのか」そのように言われたことは、何回かあった。何より、時期が悪すぎたりする。ネヴェリルトの日にプレゼントを贈る相手は、一般的に“恋人”と相場は決まっている。一昨年から別の日に贈ることにしているが、それが逆効果だとソラは気付いていない。

(今年は、何が良いのか……)

 これといって、ソラは女性が喜ぶ物を知らない。適当に買いそれを贈っているのだが、イリアは何も言ってこないので一応気に入っているのだろう。はたまた、言わないだけなのか。

(今年は悪いから、どういうのが良いか聞くか)

 しかし、聞いたところで明確な回答を得ることができるのか。それとも逆に、高額な品物を要求されるのか。ふと、空港でのやり取りを思い出す。ネヴェリルトの時のプレゼントの他に、別の物も買わないといけなかった。イリアに、大量のプレゼントを贈る。正直、気が重かった。

 溜息をつくとソラは、バイクを走らせ繁華街を抜けた。レストランから家まではかなりの距離であったが、運良く降られずに家に着くことができた。ソラが暮らすアパートは、繁華街から少し離れた場所に建っている。近くには人工的に植えられた木々を主体とした公園があり、人が暮らすには最適な環境だ。

 その公園の近くの駐車場に、バイクを止める。ヘルメットを脱ぐと、白い蒸気が立ち昇った。それ程気温の差が激しいのだ。吐き出された白い息を眺めつつ、本格的な冬の到来に思いを馳せる。

(あそこも、今頃は……)

 それは、故郷のことであった。今暮らしている場所のように、冬が厳しい場所。いや、故郷の方が雪深い。冬の訪れと同時に、一面が銀世界へと染まる。どちらかというと、此方の方が暮らしやすい。

「……誰だ」

 その時、鋭く刺すような気配を感じた。条件反射で戦闘態勢をとり、辺りを注意深く観察する。だがすぐにその気配は消え、静寂が戻った。一体、何だったのか。ソラは最近、妙に神経が過敏になりすぎていた。多分、精神に堪える出来事が多すぎるのだろう。昨日も、今日も――


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