第一章 異端の力
其の5
「ところで、夕食はそれだけしか食わないのか?」
「お前と違って、小食だ」
「だから、痩せているんだよ」
「無理して食べて、身体を壊すよりはいいよ。これも、体質なんだ。お前の大食いと一緒だよ」
「おお、言うな」
「お互い様だ」
本当なら、二人の関係は有り得ないものであった。しかしそれさえ感じない仲は、大勢の人間が見習うべきことであった。「能力者だから」そのような言葉は、はじめから存在していない。ただ、一部の人間が作ったもの。そしてそれが、全ての世界に広がってしまった。
「そうだ。今日から、休みを取った」
「それがどうした?」
「いや、何処か行かないか」
「別に、構わないけど」
「よし! 行く場所が決まったら、連絡をする。と言っても、旅行に行こうとは思わないけどな」
簡単に決められてしまったが、ソラは文句を言おうとはしない。カディオなりの心遣い、そのようなものを感じ取れたからだ。カディオはそれなりに、ソラの立場のことを考えてくれている。考えているからこそ、このように軽い態度で接してくれる。もし余所余所しい態度が含まれていたら、このような関係は築いていけない。それに何処かギスギスしていて、ぎこちない。
「……有難う」
「うん? まあ、いいさ」
急に礼を言われ、カディオは困ったような表情を作る。だが、そんな不器用な友人にソラは心から感謝していた。
本当に、このような友人は有難い存在であったからだ。
◇◆◇◆◇◆
食事を終え店から外へ出ると、大気は独特な香りを漂わせていた。それは、雨が降る前兆のようなもの。
それに星空は消え去り、厚く暗い雲が立ち込めていた。いつ泣き出してもおかしくない天気に、ソラは濡れて帰らないといけないのかと溜息をもらす。一方カディオは車に乗り込むとエンジンを掛け、内蔵されているコンピュータに行き場所を打ち込むと窓を開き、声を掛けてきた。
「さっきの話だが、記憶なんて案外いい加減なものだ。時間が経てば、思いだすかもしれない。まあ嫌なことは、すぐに忘れてしまうんだけどな。何かあったら、俺に連絡をよろしく」
その言葉にソラは、目を丸くしてしまう。カディオが、このようなことを言うとは――だが、その優しさに気付くと「すまない」と、言葉を述べる。どうやら、余計な迷惑を掛けてしまったらしい。
「暴力は、やめてほしいな」
「俺がいつそんなことをした」
「覚えていないんだ。それならいいよ」
「おいおい、最後まで言ってくれよ。気になるし。それに、俺は滅多に暴力は振るわない……はず」
「じゃあ、言わせてもらうよ。あれは、数日前の出来事だった。状況は、今日と同じだったかな」
そう言うとブスっとした表情を作り、暴力を振るわれた日のことを話しはじめた。淡々と話される内容に、カディオの顔が徐々に青さめていく。しかし、ソラは話を止めようとはしない。
「思い出した?」
「わ、悪い」
「お前は、馬鹿力なんだから気をつけてくれよ」
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