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第一章 異端の力
其の7

「小匙だったの?」

「文字は読もうな」

「インスタントコーヒーは、大匙じゃないの?」

「全部が全部、同じ分量じゃないよ。これは、本場のコーヒーだから。タツキからの貰い物だけど」

 無意識に発せられた“タツキ”という名前に、イリアは納得してしまう。度々台詞の中に登場し、嬉しそうに話しているソラ。無論、両者の付き合いが長いというのは知っている。タツキもイリアに、何度も会っている。それに世話になり、時折相談に乗ってもらっている人物だ。

「タツキさんって、いい人よね」

「どうしたんだ、いきなり」

「うん。ちょっと……」

「何かあるのなら、直接聞くといいよ」

「大丈夫?」

「タツキは、煩く言わないよ。それに、イリアが行くのなら文句は言わないと思う。そういう人だから」

 その言葉に、イリアは頷く。確かにソラが言っているように、タツキはイリアが出会ってきた人物の中では一番付き合いやすい。何より、親身になって相談に乗ってくれるのが有難かった。だが同時に、タツキの職種も気になってしまう。それにより、急に悲しい表情へ変化していく。

「ねえ。タツキさんって、彼氏いるの?」

「それを知って、どうするんだ。確かに、タツキには彼氏らしい人物はいるらしいけど。でも、付き合ってはいない。本人は、否定しているからね。オレとしては、いい関係だと思うよ」

 早口そのように述べていくと、苦いコーヒーが入ったマグカップ持ちキッチンへと向かう。徐に中身をこぼすと、新しく淹れ直す。あのまま飲み続けていると、本気で病気になってしまうからだ。

「……御免」

「飲むことができないコーヒーが出てくるとは、普通は思ったりしないよ。次は、自分で淹れるよ」

「……うん」

「で、アカデミーは?」

 ソラは、淹れ直したコーヒーを飲みつつ訊ねる。いつもであったら、このような時間帯にイリアが訪れるということはない。アカデミーを休んで来ているということはないと思うが、勝手に休んだと判明したらイリアの両親が何と言うか――彼等は、ソラに必要以上に厳しい。

「今日は平気よ。アカデミーに行くのではなく、今日は研究所に行くの。だから、心配ないわ」

「そっか。イリアは、見習いだね」

「学生だからそんなに深い研究はできないけど、卒業したら立派なカイトスになってみせるから」

「あ、ああ……イリアは、真面目に勉強しているから、なれるよ。ところで、イリア。その……いや、何でもない」

 心の底に詰っていたモノを質問しようとしたが、寸前で止めてしまう。今、気にしていることをこの場でハッキリさせてもよかったが、答えを聞くのが怖かった。“何故、能力研究の道を進まなかったのか”ということを――もし自分に引け目を感じその道に進まないというのなら、イリアの人生を狂わせてしまった。一時期、能力関連の勉強をしていたと聞く。

 それが何故、急に道を変えたのか。真実を知りたい。だが同時に、聞きたくないという思いもある。

「聞きたいことがあるなら、聞いてよ」

「本当に、何でもない」

「それならいいけど」


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