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第一章 異端の力
其の2

 そうなると、朝から気分が悪くなってしまう。それに、父の小言は長い。特に、例のことに関しては――

 イリアは、それが嫌であった。

 テーブルの上には、狐色に焼かれたトーストとミルク。それに、お気に入りのジャムが入った小瓶が置かれていた。イリアは椅子に腰掛けると天気を確認する為に、テレビをつけた。

 適当にチャンネルを回していると、気象情報が放送されていた。その情報では今日は昨日の不安定な天気と異なり、一日安定した晴れが続くという。それだけを確認するとミルクを飲みながら、更にチャンネルを回す。すると、リゾート惑星へのツアー募集のCMが流れていた。

 場所は、惑星オルファニル。其処は真っ青な海が美しく、食べ物――特に海産物が美味しいことで有名な惑星であった。CMの内容は、この惑星でダイビングを楽しむというものであった。

 イリアはトーストを齧りながら、友人達との旅行のことを思い出す。あれは、旅行という名前で表すことはできない。イリアは二人の付き添いのようなものであり、全く面白いと感じることができなかった。たまには、違う人と――そう、好きな人と行く旅行は楽しい。

 一瞬、ソラの顔が思い浮かぶ。それは、昨日送信したメールの内容を思い出してしまったからだ。しかしソラとは、互いの立場上そのようなことを考える余裕はない。無論、同じ立場であったら、何ら問題はなかった。それにソラが、イリアという女性をどのように見ているのかわからない。

 ふと頭の中に尊敬する博士の顔が思い浮かび、何度も溜息をついてしまう。イリアが尊敬している博士は頭が良く、生物研究の他に能力研究も行っているという天才。それにルックスが良く、同じ部署に限らず他の部署でも人気が高い。それだけ、その人物はカリスマ性があった。

 噂では〈ファンクラブ〉というものが存在しているが、それは本当であったらイリアは入会したいと思っている。しかし何処で入会できるのかは、わかっていない。意外に、不明な点が多い。

(もし、ラドック博士と一緒に……でも、それは夢の中の出来事よね。それでも、中には……)

 尊敬している博士と仲間達。その者達と楽しく遊んでいるのを思い浮かべ、意識が別の世界に飛ぶ。完全に意識は、旅行気分。和気藹々とした旅行。想像というか、妄想は続く――

(でも……)

 女性らしい一面を見出せない自身の外見に、嘆いてしまう。テレビで活躍している女優のように容姿端麗スタイル抜群であったら、気になっている相手に振り向いてくれるだろう。

 そのように思うが、これは生まれつきのもの。もし変えたいというのなら、整形しかない。

 その時、洗い物を終えた母親がやって来る。すると暗い表情を浮かべ、何度も溜息をついている娘の姿が視界の中に入った。その何とも表現し難い姿に、母親は肩を竦めると大声で一括する。

「何をしているの。朝から溜息なんて、縁起でもないわ。それに遅刻しても、母さんは面倒見ないからね」

「えっ!」

 母親の怒鳴り声にイリアは、食べかけのトーストを膝の上に落としてしまう。シャムがたっぷり塗られていた為“ベチャ”と嫌な音がし、スカートがジャムで汚れてしまった。慌ててトーストと剥がすが、着ていける状況ではない。それに漂う甘い香りが、何とも切ない。

 お気に入りの服が研究所に着て行くことができなくなり、イリアは顔を顰めてしまう。それを見た母親は、やれやれという表情を浮かべながらイリアに清潔なタオルを渡す。しかし、吐かれる溜息が母親の心の中を表していた。要は「いい加減にしろ」と、言いたいのだ。


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あきゅろす。
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