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第一章 異端の力
其の1

 変わり映えのない、朝を迎えた。今日の空は雲ひとつない、快晴であった。イリアはいつも通りの時間帯に起床すると、部屋の窓を大きく開いた。すると清々しい朝日が、朝の澄んだ風と共に室内に入ってくる。大きく欠伸をすると、寝ている間に固まった筋肉を解す。

 久し振りの自宅のベッド。イリアは、熟睡することができた。しかし完全に疲れたということではなく、身体が重く筋肉痛に悩む。それらは一回の眠りで、改善されるものでもない。

「もう少し、寝ていたいな……」

 机の上に置いてあった研究資料が風によって捲れ、パラパラと音をたてている。イリアはそれを手に取ると、いつも使用しているカバンに詰め込んでいく。今日は一ヶ月ぶりに銀河連邦の管轄下に置かれている、生物科学研究所(サイエンス・ラジック)に行く日であった。

 忙しい反面、イリアは嬉しいという感情が強い。イリアが通うアカデミーと連邦の研究所は、共同研究を行っている。その為、学生のうちから研究所に出入りする生徒は珍しくない。イリアも、その中のひとり。クラスメイトの中にも大勢いたが、回数でいえばイリアの方が上だ。

 その理由として、イリアは研究を進めるのが早かった。それに、アカデミーでの研究も満足な結果を出している。父親の職業が関係していると思われるが、それは全くの誤解だ。全ては、本人の努力の賜物だろう。宇宙港での友人のやり取りを聞けば、それは火を見るより明らか。

 真面目な性格は、このような時に得する。イリアは、アカデミーの卒業に必要な単位は修得している。よって、後は卒論を提出だけでいい。その為、アカデミーではなく研究所を優先できた。今日も講義が行われるが、出席日数も問題がないので安心して研究所に行ける。

(頑張らなきゃ)

 しかし研究所では、学生として扱ってはもらえない。一般の者達と同じ立場で、アカデミー以上に忙しい。それに発言力は弱く、見習い以下の立場といえた。それに、雑用や徹夜などが多い。しかし研究内容には差別がなく、認められたければ実力を示さないといけない世界。

 科学者(カイトス)として生きていくには、それを覚悟しないといけない。それだけ、他の職業とは違う。

 休憩を行う暇は無いに等しいが、研究はやりがいのあるものばかりであった。中には、歴史に名を残せるかもしれない研究もある。その為、進んで研究所に行きたいと言う者は多い。しかし、実力で成り立っている世界。行きたいという希望が叶う生徒は、意外にも少ない。

 卒業後は普通の職業に就いてもいいと考えている者も中にはいるが、少しでも肯定的な返事を行うと考える暇も与えられずに、強制的に連邦の研究所に引き摺り込まれてしまう。つまり今研究所に通っている学生は、卒業と共に研究所勤めをしないといけない制約つきだ。

 無論このことに対し不満を洩らす者もいたりするが、入ってしまえば部署を移るのは自由なので不満を洩らすのは最初のことだけだ。それに、最高クラスの研究設備が整っている施設。本音で「嫌だ」と言うも者は、滅多にいない。殆どの者は「此処で働けて嬉しい」と言う。

「どれを着ていこうかな? 久し振りの研究所だし……これが良いかな。あっ! でも、こっちも良いな」

 クローゼットを開けると、お気に入りの服を選び出し着替えることにした。そして鏡に自分の姿を映すと、その服が似合っているかどうか、様々な方向から確かめる。研究施設に行くだけだというのに、何故服装に拘るのか――この辺りも“女心”というものが関係している。

「よし。これなら、大丈夫ね」

 資料と私物が入れられた鞄を脇に抱えると、一階へ向かう。すると母親から、父親は仕事に行ってしまったということを聞かされる。しかしそれは、イリアにとってはどうでもいいことであった。もし顔を合わせるようなことがあれば、昨日の続きを小言のように言われてしまう。


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あきゅろす。
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