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第一章 異端の力
其の4

 今まで二人で楽しい会話をしており、イリアと呼ばれた少女は仲間に入れてはくれなかった。それだというのに、このように心配していると装う。そのいい加減な態度に、イリアは言葉を返すことを躊躇う。所詮、どのような言葉も無用。二人にとっては、どうでもいい内容だ。

 それに弾む会話を邪魔してはいけないということで、イリアは何も言わずに此処に来ていた。少しの間なら大丈夫だと思っていたのだが、その考えは甘かった。イリアは沈黙を続けながら暫く友人達の表情を眺めていると、更に言葉が続けられた。それは、痛々しい言葉だ。

「本当に、何かがあったら困るのよ」

「そう、取調べとか面倒なのよね」

「長時間、同じことを聞かれるし」

「特に、オヤジだったら最悪よ」

「汗臭いしね」

 語られる会話に、イリアは渋い表情を作る。困るというのは、何に困るというのか。それは本人達の私生活に関わることであって、イリアには関係ない。要は、自分中心に物事を考えていた。そんないい加減な二人とは違い、イリアは一般的に見られる普通の女性であった。

 故に、言い訳は苦手。しかしこのまま何も言わなければ、もっと嫌味を言ってくるだろう。そう判断したイリアは、仕方なく小声で「気分転換に、散歩をしていた」ということを伝えた。これで、二人は席に帰ってくれる。そう高を括っていたイリアであったが、そうはいかなかった。

「散歩? それならそうと、言ってほしいわ。まったく、捜す身にもなってほしいものだわ」

「ご、御免」

「でも、無事だとわければいいじゃない」

「そうね。で、さっきの話の続きなんだけど――」

 予想通り、相手からの反応はこのようなものであった。その冷たい態度にイリアは、本当に友人なのか疑ってしまう。所詮、勉強やレポートを見せる関係なのだろう。そのように考えると、実に切ない。

 何事もなかったかのように、立ち去る二人。やはりはじめからイリアのことなど、心配していなかったようだ。この旅行に、どのような意味があったのか。ただの付添い人か、それとも――

 予定も大幅に狂い、計画なんてないに等しい旅行。大きな原因は友人達のいい加減さ。あれもこれもと計画にない行動を詰め込み、結局予定していた日数では納まりきれなかった。こうなると、金銭面でも問題が生じる。

 そうなればやることはただひとつ。あまり買い物をしていないイリアにお金を貸して欲しいと相談、いやこの場合は「友人という名を利用し、貸してもらおうと計画した」が正しい。

 無論、断ることはできない。仕方なく金を貸すことにしたが、返金は期待できない。暫くすれば借りていたということを忘れ、再び貸してほしいとせがむ。便利な頭の持ち主だからだ。

(何だろう……)

 嫌なら嫌だと言えばいい。それを言うことのできない優柔不断な性格に、イリアは嫌気が差してしまうが、どうすることもできない。クラスメイトからは「強く言った方がいい」と言われているが、卒業までの辛抱だと諦めている。

 イリアは窓の近くまで歩いて行くと、漆黒の空間を見詰める。宇宙空間に美しく光り輝くのは、他のシャトルにコロニー。または、宇宙ステーション。だが一番に目に飛び込んできたのは、連邦の艦隊。

(何処かで争いごとかしら?)

 その行動に、少し心配になってしまう。連邦の行動を心配する人は珍しいが、イリアの幼馴染みがその連邦に所属する部門にいるからだ。そんなことが関係したのか、無意識に幼馴染みの名前を呼ぶ。イリアはそれに気がつくとハッとなり、慌てて回りに視線を走らせた。

 だが、仕事をしているサラリーマンには聞こえてはいない。聞かれていなかったことに胸を撫で下ろすと、再び時間を確認する。五時を少し回った時刻。この時計はシャトルが到着するレミエルの標準時間を表したものであるから、やはり迎えの心配をした方がよかった。


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あきゅろす。
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