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Luke + Guy
ひととして
妖怪パロ。ルークが妖怪でガイが人間。ルークの外見は本編と同じ17歳の姿、ガイも同様に21歳です。




街灯の光は一切なく、淡い月の光に照らされた夜道。辺りは鬱蒼と木々が立ち並んでおり、時折風に揺られざわざわと怪しくうごめく。その風の音はまるで人の声のよう。しかし道中は人気どころか動物の気配すら感じられない。不気味で寒気立つ、人々が滅多に通らぬその道を、ひとりの青年が静かに歩いていた。その青年が恐怖感を抱いている様子はまるでない。何食わぬ顔でただ道なりに歩を進めていく。
そんな彼に近付く怪しい陰。

「うまそうな魂じゃん」

突如頭上から声を掛けられ、青年は顔を上げた。暗闇の中視線をさ迷わせ声の主を探す。するとざわ、と辺りが不気味にざわめいた。同時にゆらりと黒い影を纏いながら、声の主が姿を現した。
その姿はひとりの少年。燃えるような赤い髪に、煌めくような緑の瞳。着物に下駄と村人である青年と同様の格好で、至って普通の人間だ。しかし、彼には人間には有り得ない物があった。少年に生える、獣の耳と五つの尻尾。

「俺のことかい?ははは、やめておいた方がいいぜ」

少年のその姿を見て青年は怯えることなく、人と対話するようにそう話す。笑いを交えながら人ではないものと話す光景は、常人から見れば異常だろう。多くの人は姿を見ただけで一目散に逃げ出すのだから。しかし青年は逃げ出すどころか友好的な態度を示したのだ。それには少年も驚いたのか微かに目を見開いた。

「俺の寿命はもう長くなくてね。喰らっても得はないよ」

青年はそう笑顔を浮かべながら話した。暗闇の中、少年に向けて。
すると少年は青年に疑問を抱き、問うた。

「…おまえ、俺が怖くないのか?」

「ははは!だって君の姿、明らかに俺より年下の少年だろう?だから怖くもなんともないさ」

「なっ、なんだと!?」

少年は青年の答えに少々怒りを覚え抗議の声を上げた。見下されてるということではないか。少年にとってそれは不服だった。
しかし少年はふと思った。青年はまるでからかうように答えたが、普通の人間ならこんなことは口にしない。妖怪の気に障れば忽ち魂を喰われてしまうという恐怖心があるから。だが目の前の青年は…少年はにやりと悪戯な笑みを浮かべた。
そのことには気付かず青年は話を続ける。

「だいたい妖怪は魂を取るなら問答無用で襲い掛かってくるだろ?だが君はそうして来なかった。それだけさ」

「………」

「用はそれだけかい?済んだのなら先に行かせてもらうよ」

そう言い残しこの場を去る青年を、少年は引き止めることもなくただ見つめていた。
翌日、変わらず毎晩恒例の散歩のため出歩いていた青年に声が掛けられた。声がした方に振り向けばそこには少年がいた。先日と全く同じ状況だ。少年は青年の魂を喰らおうとすることもなく、話がしたいと口にした。青年は不思議に思ったが特に気に掛けず、少年に応じた。
それからだ。ふたりの奇妙な関係が始まったのは。
最初は些細な会話だった。今日は肌寒いだとか、天気が悪いだとか、特に盛り上がることもない冗長な会話。だけど時が経つにつれ、ふたりは徐々に深く関わるようになっていった。少年が青年の散歩に付き添い歩くようになったり、ふたりとも笑顔を見せるようになったり。もちろん話題も込み入ったものになった。

「そういやあんた、寿命が長くないとか言ってたっけ。何でだ?」

「俺は生れつき病弱でさ。この世に生まれ落ちた時から決まってたんだ。人より長くは生きられない、精々三十路ぐらいまでってな」

「ふぅん。今は?」

「二十一。人生これからだってのに、参ったよ」

そう言って青年は苦笑いを浮かべた。死への恐怖や生への執着、悲しむようなそぶりも全く見せず、少年はただそんな青年を見つめるだけだった。
それから青年の家族の話も少年は尋ねたりした。母親の身体が弱いこと、父親は強くて頼りになること、気の強い姉がいること。家族の事を話す青年は非常に楽しそうで輝いており、どれほど家族が誇りか、大事に思っているかがひしひしと伝わってきた。月の光に負けんばかりに青年の気持ちが溢れ出て輝いていた。
ある日には病弱なのに何故散歩を許可されているのか疑問を抱いた少年が尋ねたり――死ぬまでに好きなことをさせてやろうと言う親心らしい――、またある日には青年が残り物ではあるが夕餉を持ってきたり、ふたりは親しくなっていった。

「妖怪でも飯は食うんだろ?今まではどうしてきたんだ?」

「……盗んだりして食ってた」

盗むっつっても握り飯一個とかだけどな、と少年は一言。それでも盗みは盗み、青年は呆れたがふと思った。少年は妖怪なのだ。快く人々が与えてくれるはずがないのは当然だが、妖怪は人間にとって畏怖の存在。だから脅せばいくらでも奪えたのではないだろうか。しかし彼は盗んだ。それも握り飯たったひとつ。そこまで考えて、青年はふっと笑った。

「これからは俺が食わせてやるから、もう盗んだりするなよ」

「…悪い」

「ちゃんと謝れるんじゃないか。人間らしいよ、おまえ」

青年は笑ってそう言った。少年はその言葉に目を見開き、ただ驚くだけだった。胸の辺りがじんわりと温かくなる、その異変に疑問を抱きながらも。
そうして幾日が過ぎ、今日もまた彼らは顔を合わせていた。ふたりにとってこの時間はもはや日常生活の一部。ふたりは無意識に、共有する時間を心地好く感じていたのだ。

「いつもは聞かれてばかりだから、今日は俺が尋ねてもいいか?」

「ん?ああ、いいぜ」

いつも何かしら尋ねられる側だった青年が、今日は尋ねる側に変わる。彼は少年に疑問をぶつけた。
人間の魂を狙う少年…妖怪が何故自分とこうして親しくしてくれるのか。俺の魂を喰おうとしていたのではなかったのか、と。
すると少年は淡々と答えた。妖怪である自身に親しげに話し掛けてきたのは、これまで永く生きてきて青年が初めてだった。そのため興味を抱いたのだ。本来なら人間は妖怪の姿を見れば逃げ出すはず。妖怪は人の魂を喰らいそれを生命力とし存在する異質なものだ。だが青年は逃げることも怯えることもなく、至って普通に対話をしたのだ。

「それに…おまえとつるむのも楽しそうだったしな」

少年は寂しげな表情を浮かべながらそう言い、ぽつりぽつりと語り始めた。
少年は孤独だった。基本妖怪は群れず孤独なのだが、他の妖怪と面識はあり少なからず交流はある。効率よく、人間の魂を喰らうためにもそれは必要なことなのだ。
だが少年は違った。少年は優しかったのだ。それ故彼は人間の魂をろくに喰らうこともできず、非道を演じ喰らおうとしても人間達の生への執着や恐怖心、何より人間にも大切な人がおり、想い想われているのだと考えると決意が揺らぎ、結局少年は中途半端にしか魂を喰らえなかった。寿命を数年、或いは十数年削る程度。そのため自身の生命力が弱まり、十あった尾が少なくなった。人間の魂を喰えないモノは弱者と見做され、妖怪達からも見離される。そうして彼は孤独になっていったのだ。

「俺にはもう、生きてる意味なんてないんだ。ただなんとなく死にたくないから生きてるだけで。死んだっていいんだ」

少年は寂しさを押し殺してそう言った。空っぽの心で生気のない瞳をしながら。その瞳にはもう何も映ってはいない。
すると、静かに話を聞いていた青年が言葉を述べた。

「それじゃあ、あと数年になるけど、俺が生きてる間は生きてみないか?」

「…なんでだよ」

「だって、俺たちはもう友達だろ?」

その言葉に、何も映らなかった少年の瞳に、ひとりの青年が映り込んだ。



その日から数日が経ったある日の散歩道。今日まで姿を眩ませていた少年が、青年の前に現れた。青年は何も尋ねようとせず、ただ少年を見つめるだけ。それに応えるように少年は顔を上げ、口を開いた。

「なぁ、あんた。…生きたいか」

「…そりゃ、ね。やり残したことも、出来てないことも山ほどある」

「なら、やるよ」

ざわ、と辺りがざわめいたと同時に少年の身体から微かに淡い光が漏れだした。それはやがて目が眩んでしまうほど輝き出し、青年の身体へ吸い込まれるかのように入り込む。それはまるで、いのちの輝き。そうして少年と青年の身体から朱色の光が消えると、辺りは不思議な程静まり返っていた。
突然の出来事に呆然としていた青年は我に返ると、自分の身体の異変に気付いた。

「身体が…何をしたんだ?」

「…俺が持ってる妖怪の力と魂を生命力に変換して、あんたに分け与えたんだ。あんたはもう病弱体質じゃないはずだ。これであんたは、普通の人間と同じように生きられる」

「…おまえ、尾が…」

青年が指差したその先に、あるはずの少年の尾が全て消えていた。そして獣の耳も。妖怪の象徴とも言えるものがどこにも見当たらなかった。

「さっき使ったのは禁忌の力。これはその代償なんだ。妖怪の力は完全に消えちまって、俺は人間に戻ったんだ」

「人間に…戻ったって、どういうことだ」

少年は苦笑いを浮かべながら、青年の問いに答える。
元々少年はひとりの人間だったのだ。家族や友人に囲まれ笑顔で日々を幸せに暮らす、至って普通の人間。そんな彼にある日不運が襲った。夜道を散歩中に狐の魂に憑かれてしまったのだ。少年は必死に抵抗したがその抵抗も虚しく、心身ともに支配され、たちまち人間ではなくなり妖怪へと変貌してしまった。
だが何年も生き続けるうちにいつしか狐の魂は消え失せており、今度は少年自身が妖怪となったのだ。狐の魂に乗り移られていながらも、完全には支配されておらず意識下に存在していた、少年の強い精神が。

「今の俺はあんたと同じただの人間。多分寿命も変わらないだろ」

そう言う少年からは今までの妖気はまるで感じられず、ひとりの人間そのものだ。彼はそう言い残すと、寂しげな笑みをふっと浮かべて踵を返した。突然の行動に青年は慌てて少年を呼び止める。

「ちょっと待ってくれ!おまえ、どこに行くつもりだ?宛てはあるのか?」

「宛てなんてねぇよ。妖怪として何十年も生きてきたんだ。家族も皆死んでるだろうし、放浪してどこかで朽ち果てるよ。…今までありがとな」

「それじゃあ、うちに住めよ!」

「…はぁ?!」

先程までの寂しげな表情とは打って変わって、少年は青年の想像を超えた言葉に驚愕の表情を浮かべ、思わず声を上げて振り向いた。

「何でそうなるんだよ!おかしいじゃん」

「だって俺たちは友達だろ?友達をうちに迎え入れておかしいことなんてあるか?」

「…!」

青年は少年を真っ直ぐ見つめ、いつも少年に向けていた変わらぬ笑みを浮かべながらそう言った。青年にとって少年が妖怪であろうと人間であろうと些細なことなのだ。どちらにしても、青年にとって少年は友達に変わりないのだから。
少年は今にも泣き出しそうな、しかしどこか嬉しそうな複雑な表情を浮かべていた。

「またひとりで生きてくなんて、寂しいこと言うなよ?ほら、そうと決まればさっさと行こうぜ!」

「え、ちょ…まだ決まったわけじゃ…引っ張るなって!」

彼はまた、歩き出す。妖怪ではなく、









「そういや今の今まで名前聞いてなかったな。おまえは?」

「俺はガイ。ガイラルディア・ガラン・ガルディオスだ」

「ガイ、か…俺はルーク。ルーク・フォン・ファブレ」

「ルークか。これからよろしくな、ルーク!」

「よろしく…つったってまだ住むって決まったわけじゃ…ってだから引っ張るなっつーの!ガイ、ほんとに病弱体質だったのかよっ!」




妖怪パロでした。確かぬら孫見ててやりたくなったんじゃないかと。妖狐にしたのは私の好みですね!はい!ちゃんと何にしようか妖怪調べたんですけど結局これだよ!
最初はガイが妖怪でルークを人間にしようかと思ってたんですが逆も良くね?と思い逆にしました。
ちなみにガイは家に帰った後妖怪のことを家族に話してました。両親からはそりゃよかったな〜と暖かく言われ姉のマリィさんからは叱られ。マリィさんは認めてくれてちゃんとルークとは家族になれますよ〜幸せ(´∀`)
2013.5.1


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あきゅろす。
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