Luke + Guy
さよならは、言わない
学パロで卒業ネタ。卒業式が終わった帰り道、という設定です。実話を元にしてます。
「しっかし、ルークと一緒に帰るのもこれが最後か〜」
「なんか呆気ないな。実感ねえよ」
「はは、それは俺もだ」
いつもと変わりなく俺はガイの隣で帰路を歩いた。ただいつもと違うことは、俺たちふたりはそれぞれ手に卒業証書の入った物を持っているということ。胸には後輩達に付けてもらった卒業祝いの花が付いているということ。
「もう明日からあのクラスで騒ぐことがないなんて信じらんねぇや…」
「そうだなぁ。あいつら、明日もまた教室にいそうな気がするよ」
「ははっ。もう先生にも会えないんだよなぁ。結局ジェイドには迷惑かけっぱなしだったなー…3年間も世話になることになるとは思ってなかったけど」
「俺もまさか3年間も一緒とはな…嫌味ったらしいこと言うけど、いい先生だったな、ジェイド」
「だよなっ!にしてもガイとも3年間一緒のクラスになるとも思ってなかったぜ」
「俺も。意図的なんじゃないかって思ったぐらいだ」
俺たちは思い出話に花を咲かせながら、最後の帰路を踏み締めて歩いた。もうこうしてガイと一緒に制服姿で登下校することは、二度とないのだ。クラスの皆と馬鹿騒ぎすることも、授業中に寝てジェイドに怒られることも、食堂へ皆と駆け出すことも…そんな日常はもう二度と、戻ってこない。そう思うと、卒業なんてしたくなかったと、後悔が頭を過ぎった。それでも、別れなければ前には進めない。過去ばかり見ていても前には進めないのだ。過去のことは勿論蔑ろに出来ないし、そうはしないが、大切なのは今だ。
思いを馳せていると、知らぬ間に駅に着いていた。
「なんだかあっという間だなぁ。もっとゆっくり歩けばよかったか?はは」
「いつもならまだかーって言いながら歩いてたのにな。不思議だよなー」
春は桜並木の下を、花粉がつらいと嘆きながらも舞い散る美しい桜吹雪に見とれながら歩いた。ガイも花粉症になっちまえ、と言いながら。夏は暑くてたまらなくて、汗だくになりながら歩いた。汗も滴るいい男だとからかい気味に言われて怒鳴った。秋は調度よい気候に穏やかな気持ちで歩いた。紅葉の色が俺たちみたいだ、と笑いながら。冬は寒くてたまらなくて、震えながら歩いた。武者震いだと強がれば、ガイに何にだよと突っ込まれた。巡る季節をふたりで歩いた、そんな日々。
俺とガイは同じ路線だが一駅違いだ。先にガイが降りることになっている。ガイは電車を降りると、いつも俺を笑顔で見送ってくれた。軽く手を挙げて。
吹きすさぶ寒風が俺たちの身体を冷たくする。心を少し凍らせる。辺りを見渡せば俺たちと同じく卒業を迎えた生徒たち。制服の胸には花が咲いていた。彼らが流している涙もまた、卒業のあかし。
肌寒さを感じる風も、以前に比べると暖かさを感じた。春が近い。春先、通学路にはまた見慣れた花が咲き誇るだろう。儚くも美しく舞い散る桜も。自分の胸に咲く花にそっと手を添えた。俺たちにも、また新たな花が咲く。人によって異なる、色とりどりの美しい花が。
「…ほんとに終わっちまうんだな」
ぼそりと寂しげにそう呟いた。俺たちの学校生活は本当に終わってしまうのだ。ここに来てようやく実感できた。制服ももう着ることはない。学校指定のこの鞄ももう手にすることはない。馴染んだ教室でみんなと授業を受けることも、弁当を食うことも、放課後にみんなとだべることも、二度とない。そう考えるとちくりと胸が痛んだ。
「…ああ、そうだな」
ガイが俺の言葉に、一言答えた。その声は俺と同じく寂しげで、感慨深げで。何かを噛み締めるようにガイは言った。ガイも、みんなも、きっと同じ気持ちなのだ。寂しいのは俺だけじゃない、名残惜しいのは俺だけじゃないんだ。卒業、したくなかった。
しばらく待っていると、乗るべき電車がホームに到着した。さあ、帰らなければ。
「乗るぞ、ルーク」
「…ああ」
電車に乗ると、昼時だからか人が少ない。俺たちは空いている席に座り、窓の外を眺めた。これが最後の景色だ。目に焼き付けるようにしっかりと見た。
「これが今の俺たちが見る最後の景色になるな。しっかり見とけよルーク」
「言われなくてもわかってるよ!…はぁ」
俺は溜息をつき、ガイにもたれ掛かった。別れるとなると、やっぱり悲しい。
「おいおい、どうした?俺と別れるのが寂しいってか?」
「…うん、まぁ…」
「ははは、寂しがりめ」
そう笑うとガイは俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。卒業式だから、という理由で普段より整えてきた髪があっという間にぐちゃぐちゃだ。高校生らしくはしゃぐのもこれで最後だから、いつもなら怒るが今日はガイにされるがまま。
しばらくすると、ガイが降りなければならない駅に到着した。ガイが立ち上がり電車を降りる。俺は見送るために電車内の扉の前に立った。
「それじゃあな、ルーク」
「おう!またあし、た……じゃないんだっけ、ははっ」
俺は苦笑いを浮かべ頭を掻いた。明日はないんだ。明後日も、明々後日も。毎日こう言って別れていたから自然と口から出てしまうのだ。ガイを見遣ればほんの少しだけ、悲しい表情を浮かべたように見えた。
笑みを浮かべ、俺は改めてガイに言う。
「ほんと、3年間ありがとな。ガイ」
「ははっ、なーに言ってんだ!永遠の別れみたいによ。明日にでも会えるだろ?」
「そうだけどさ…」
「ま、電話でもメールでもいいから今まで通り連絡して来い。待ってるからな」
「…ああ」
電車が出発の合図を鳴らした。もう扉が閉まってしまう。
「…じゃあ、ルーク」
「またな」
ガイがそう言って軽く手を挙げる。いつものように。見慣れた光景。そして俺も。
「…またな」
そう笑顔で言うと、扉が閉まり電車が出発した。俺とガイはお互いが見えなくなるまで、お互いを見ていた。
そうして見えなくなって、俺はまた腰を下ろした。外の景色を眺める。眺めていると、雨が降ってきた。しかし雨にしては静かだ。不審に思い目を擦ろうとすると、頬が濡れていることに気付く。
「…くそっ…」
雨などではなかった。それは紛れも無く俺の瞳から零れ落ちていた。雨よりもっとたちが悪いものだ。卒業式じゃ泣かなかったのに。電車内に俺以外の人が乗車していなくてよかった。
涙を拭っていると、携帯がちかちか光っているのが目に入った。メールだ。誰からだろうと開けてみると、そこには。
『ルーク、今、泣いてるんだろ』
「…ばかじゃねぇの…!」
止まりかけていた涙が再び込み上げた。
それはガイからだった。
『泣いてねぇよバカ』
『意地っ張りめ。おまえがそう言うってことは泣いてるんだなやっぱり』
『うるせえな、ガイも泣いてんだろ』
『俺は泣いてないよ。ルークじゃあるまいしな』
ガイの変わらぬ余計な一言。普段なら腹を立てているが、今はそれが嬉しかった。心がじわりと温かくなる。
『うるせえな。そろそろ着くからメール切るぜ』
『おう。またな』
ガイの返事を確認し俺は携帯を収め、電車を降りた。あとは自宅に帰るだけ。一歩一歩踏み締めて、家路につく。前だけを見つめて。
ガイは一足先に社会人に、俺は大学生になる。お互いに環境が違うため、次に会えるのがいつになるかはわからない。だけど、いつか必ず会えるはずだから。
次に会える日には少しでも、成長していたい。あいつに相応しい親友でありたい。だから俺は、前に進むよ。
さよならは、言わない
次に顔を合わす時には、少し立派に。
卒業ネタでした。高校卒業の時、相棒と別れてから帰りの電車でほろりと泣いた私です。゚(゚^o^゚)゚。実話の部分はそこです。二度と会えないわけじゃないけど悲しいもんはやっぱり悲しいわけですよ…ぐすぐす
2013.3.12
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