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Luke + Guy
幸せを運ぶ
花屋ルークで思い付いた話。




しとしとと雨が降り続き、湿気で鬱陶しくて太陽が姿を見せてくれない日が続く。天気予報を見ずとも雨を予想して出掛けていく。季節は気まで滅入ってしまうような梅雨の時期、6月。

「なぁアッシュ、誕生日プレゼント決めたか?俺、花渡そうと思ってるんだけど、今までいっぱい渡してきたし、何にしようかって悩んでてさ…」

「知るか。おまえがプレゼントするものだろう。おまえが決めろ」

「んだよ冷てぇなぁ…あっちょっと待てって!せめて何やるかぐらい教えろよ!」

「…少なくとも花じゃない。それだけ言っておく」

アッシュはそう言い残すと我先にと学校へ向かって行った。分かりきっていることだが、相変わらず素っ気のない奴だ。眉間にしわを寄せっぱなしでいつかハゲちまうんじゃねえかってくらいに。本人に言うと怒鳴られるから口には出さないが。俺も朝飯を食べ終え学校へ行く準備を始める。そろそろあいつが迎えに来る時間だ。と思ったと同時に母上が呼びに来た。

「ルーク、迎えに来たわよ」

「ああ!今行くって伝えといてくれ!」

階段の下から呼び掛ける母上にそう返事をし、ばたばたと準備を終える。忘れ物がないか確認し――にも関わらず忘れる時もあるが――鞄を手に取り階段を駆け降りた。父上と母上に挨拶を交わし、店頭へ向かう。そこには見知った後ろ姿がいた。

「おはようガイ!」

「おう、おはようルーク!」

ガイと挨拶と交わし、学校へと向かった。
ガイとは幼なじみだ。俺の家は花屋を、ガイの家は美容室を経営している。店は向かい合わせで互いの両親も仲が良い。毎日顔を合わせる。俺とガイも小学生の頃から学校へ毎朝共に登校する仲だ。時折うちの花を渡したり、ガイには髪を切ってもらったり。それが当たり前の日常だ。

「アッシュのやつ、また先に行っちまいやがった」

「ああ、さっき見たぜ。朝から眉間にしわ寄せっぱなしだなぁ」

「昔は一緒に行ってたのになぁ…」

「あいつにも思うところがあるのさ、きっと。それに高校に入ってからはナタリアと一緒に行ってるみたいだしな」

「へ?そうだったのかよ…」

家族なのに、しかも自分の兄なのにそんな話は本人から聞いたことがない。昔は無愛想にだが少しは話してくれたのに。その事実に俺は少し落ち込んだ。
俺は高校1年生、ガイとアッシュは2年生だ。俺よりアッシュの学校生活のことに詳しいのは当然かもしれないが、それでも行き場のない寂しさを覚える。高校生になってからアッシュがなんだか遠く感じるのだ。開いてしまった距離。追い掛けるけど追い付けない距離。どうしてだろうか。するとガイが気にするなとでも言うように俺の頭をぽんぽんと叩いた。ガイに励まされ俺は気を取り直して普段通り話をした。
そんなことをしてる間に学校へ到着し、ガイと別れ教室へ向かう。

「あら、おはようルーク」

「おはよう、ティア!」

ティアや皆に挨拶をし席に付いた。同時に予鈴が鳴り響き、別のクラスの奴は自分の教室に戻り、ざわめきながらも周りの皆も席に付いていく。俺も皆と談笑し、やがて本鈴が鳴り響き一日が始まった。
3時間目を終え、授業は4時間目を迎えた。科目は地理、現代社会。担当はピオニー陛下だ。陛下と呼ばれる由縁は彼の学生時代のあだ名がそのまま使われているらしいとガイに聞いた。陛下は生徒に対してフレンドリーで授業内容もわかりやすく、生徒達から信頼されているいい先生だ。
授業中に配分されたプリントを隣の席のティアと協力して解いていると、陛下が話し掛けてきた。

「あ、そういえばルーク、もう少しでガイの誕生日じゃねえか?プレゼントはもう決めたのか?」

「え、ああ、はい…一応花を渡す予定なんですけど、何の花にするかはまだ…」

「あら、じゃあ誕生花とかはどうかしら」

誕生花。そういえばこれまでガイに誕生花を渡したことはなかった気がする。幼い頃はアッシュと一緒に同じ花を渡したり、母上に勧められた花だったり、自分でなんとなく選んだ花だったり…明確な理由で渡したことはなかったかもしれない。
ティアの言葉にピンときた俺は、一瞬で誕生花を渡すことを決めた。先程まで悩んでいたのが嘘のようだ。助言してくれたティアに礼を言うと、陛下が自身のスマートフォンを取り出し何やら弄り始めた。

「ピオニー先生?」

「ん?いや、善は急げって言うだろ?だったら今調べりゃいいじゃねえかってな」

「先生、今は授業中です!いくら教師だからって…」

「教師だからこそできる特権だろ!今使わなくてどうする」

「使うとこ間違ってるだろ陛下…」

我が道を通す陛下に呆れながらも率先して調べてくれることに感謝した。いつでも生徒の力になってくれるのだ、陛下という人は。しばらくすると誕生花を発見したようで陛下が声を上げた。授業中だと言うことを忘れていそうだ。

「おっ、見つけたぞ。何個かあるが良さそうなのは…」




それから時は経ち6月8日。ついにガイの誕生日がやってきた。今日は土曜日で学校は休み。ガイがうちに遊びに来ることになっている。というか休日も含め毎日顔を合わせているので、遊びに来ることも普段と変わりないが。そわそわと落ち着きを無くしながらガイを待った。
日付が変わった瞬間に直接言ったのだが、プレゼントはまだ渡していない。夜中だし騒ぐと近所迷惑になるから。そう言った理由で今までも夜中に顔を合わせることはほとんどないのだ。
しばらく待っていると外から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。直ぐに階段を駆け降り、休みなので降ろしていたシャッターを開ける。

「よっ、ルーク」

「ガイ!ほらよっ、今年のプレゼント」

俺はガイに会って早々に手に持っていた誕生日プレゼントを渡した。それは素朴だが白く可憐な花の束。

「これは確か…クチナシ、か?ありがとうルーク」

「へへっ」

先日学校で既に他の人から渡されたプレゼントと被っていたらと危惧していたが、どうやら杞憂だったらしい。それにガイが笑ってくれた。それだけで十分だ。
そういえばアッシュは何を渡したのかが気になり話を聞くと、あいつは以前からガイが欲しがっていた高価な腕時計を渡したという。なんだか敗北感と劣等感を覚え少し落胆していると、ガイが高額な物をくれとは言ったことないだろと慰めてくれた。気持ちが大事なのだと。確かにそうかと納得し、その言葉で俺はあまり気にしないことにした。
――少しはルークと話してやれよ、とプレゼントを渡す際アッシュがガイに言われたということを知るのは、まだもう少し後の話。

「で、クチナシの花言葉は何なんだ?」

「え?えーと…いや、やっぱ教えてやんねぇ」

「何だよ、いいじゃねぇか」

「よ、よくねーよ」

「ははは、照れるな照れるな」

「照れてねー!」

なんだか恥ずかしくてどうにも教える気になれない。毎年花を渡す際は花言葉を必ず教えているのだけれど。きっとガイには教えない。
クチナシの花言葉。それは、




幸せを運ぶ




家が向かい合わせっていうのが書きたかったので書けて満足。向かい合わせっていいっすよね…
ルークを両親に対して本編通りにするかでちょっと迷いましたが現パロだし敬語はやめようという結論に。
ちなみにアッシュは思春期なんでルークに冷たくなっちゃってるんです。大人なガイがうまいことしてくれるでしょう
ガイがクチナシの花言葉を本当に知らずに聞いたのか、それとも知っていて聞いたのかはご想像にお任せします。
2013.1.26


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