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Luke + Guy
赤に染まる
ルーク怪我ネタでごわす。だいたいシリアスな話。ロニール雪山にて。




それは俺たちがロニール雪山にて自身の力を鍛えるため、レベル上げに励んでいる最中の出来事だった。
突然の魔物の咆哮。それによりどこかで発生したらしい雪崩の重々しい音がした。それ程雪山に響くこの声は俺たちが今まで戦ってきた魔物のものではないことは明白だ。…嫌な予感がする。

「何だ…?初めて聞いたぜ、今の」

「まさか…いや、そんなはずは…」

ジェイドが深刻な表情を浮かべ考え込む。どうやら俺と同じ事態を危惧しているようだ。そして、嫌な予感とは当たってしまうもので。
どすんと重い足音が辺りに響き回った。音がした方を振り返れば、先程の咆哮と共に現れた魔物の姿がそこにあった。

「ジャバウォック!?何故ここに…!」

「こいつはもっと奥地にいるはずだぞ…!どうしてこんなところに!」

ティアがその姿に驚きの声を上げる。ジャバウォック。巨大な魔物で強さも今まで戦ってきた魔物とは桁違いだ。本来はロニール雪山の奥地にいるはずなのだが、何故ここに。猛吹雪のため迷い込んだのだろうか。
ジェイドが声を上げた。

「とにかく、今の我々で勝負を挑むのは危険です!ここは一旦別れて逃げましょう!なるべく一人にはならないように!落ち着き次第各自ケテルブルクへ!」

ジェイドの言葉に皆が頷き、一斉に駆け出す。あの攻撃を受けたらただでは済まないだろう。なるべく距離を取るため背後へ注意を払いつつ、前へ前へとひたすらに走った。しばらく走りちらりと辺りを見渡すと、他の皆も上手く逃げることができているようで安堵の息をついた。
しかし、運悪くルークは狙われてしまっていた。

「ぐあっ!」

「! ルーク!」

ジャバウォックの攻撃がルークに襲い掛かったが、かろうじて回避したようだ。しかし衝撃は大きく、加えて雪に足を取られうまく立ち上がれないでいる。そこにまた強力な一撃が襲い掛かろうとしていた。俺は慌ててルークの元へ駆け寄り、ルークを抱えて上手く攻撃をかわした。

「へ…が、ガイ!」

「走れるか!?とにかく逃げるぞ!」

「あ、ああ!」

そうして俺たちは必死に走り続けた。ジャバウォックの姿が見えなくなるまで、ただひたすらに。
しばらくすると、ジャバウォックの姿は見当たらなくなっていた。どうやらうまく撒いたようだ。もう危険がないことにほっと胸を撫で下ろした。

「うまく逃げられたみたい…だな」

「しっかし、よりによって俺たちふたりが逸れちまうとはなぁ…」

「だな…俺たち、治癒術使えないしな。せめてティアかナタリアがいてくれたらよかったんだけど…みんなは大丈夫かな」

「俺たちがこうして大丈夫なんだ。みんなも無事に決まってるさ」

俺は安心させるようにルークに笑いかけ肩に手を置いた。するとルークは先程とは違う朗らかな表情を見せた。様々な死闘を乗り越えここまで生き残ってきたんだ。皆も大丈夫だろう。
気付けば吹雪が酷くなっており、さすがに身体が凍り付いてしまいそうだ。こんな吹雪の中立ち往生するのは危険なので、どこか身を隠せる洞窟を探すことにした。吹雪だけではなく魔物が襲い掛かってくる危険だって勿論ある。治癒術師がいないため無駄な戦いは避けるべきだと、なるべく魔物と鉢合わさない道なき道を歩いた。
しかし魔物に一度も遭遇せずに済むわけはなく、何度か戦闘になった。前衛ふたりだけではやはり厳しい。俺は傷を負っても集気法で回復できるが、ルークは違う。チャンバーを付けているので鋭招来で回復はできるものの僅か少量だ。限界がある。なので回復アイテムはほとんどルークに注ぎ込むことになる。しかし回復アイテムもあまり持っていないので気軽には使用できない。出来る限り戦闘を避けるしか術はなかった。

「あ、ガイ。ここの洞窟は?」

「見たところ異常はなし、気配も感じないな…よし、今日はここで過ごそう」

もう日も落ちてきており、辺りは闇に包まれつつあった。これ以上雪山を動くのは危険だろう。俺たちは洞窟で一夜を過ごすことにした。

「う〜…まだ寒ぃけど、吹雪に比べりゃマシだな…」

「ま、仕方ないさ。洞窟に入れただけでも有り難いと思おうぜ」

そう言いながら俺は夕飯の準備を始めた。と言ってもこの状況だ、料理はできないに等しい。持っている食料も先程までの戦闘で使用してしまい、残り僅かだ。夕飯とは言えない質素なものになるだろう。一晩程度なら食べなくても問題ないが、もしものことがあってはならない。少量でも腹に放り込んでおかなければ。それに明日の朝もあるのだ。

「食料はほとんどないな…悪い。俺が無茶な戦い方ばっかりしてたから…」

「おまえが頑張ってるのはわかってるからさ。ただ、無茶してるって自覚してるなら極力控えてくれよ?ほら、食えよ」

そう励ましながら俺はルークに食料を手渡した。
ルークは頑張ろうと思うあまり、空回りしてしまっているのだ。それが無茶な戦い方に繋がる。今すぐではなくていいけど、改善してほしいとは思うが。そんなことを考えつつ、俺も食料を口に放り込んだ。
不安感を抱かせないように、ルークといつも通り他愛のない話をした。普段と同様に笑みを浮かべながら。するとルークも安心感を得たのか笑みを浮かべた。しかし何かに気付いたルークが一変して険しい表情を浮かべ、口を開く。

「…ガイ、あんまり食ってなくないか?」

「ん?そうか?普通だぞ?」

口ではそう言ってごまかすものの、本当は普通ではない。こういった自体に慣れていないルークに半分以上の食料を渡したのだ。そのことに気付かれずに食い終わろうという俺の魂胆は甘かったらしい。昔のルークなら気付かなかったろうに。こんな時だがルークの成長を感じ取ることができ、少し嬉しく思った。

「普通じゃねーじゃん!どう見ても俺の分より少ないだろ!」

「気のせいじゃないか?おまえより俺の方が食べるの早いんだと思うぜ」

「んなことねえって!俺の方が早い!」

どうもルークが引き下がる様子はない。言い訳の言葉はいくらでも思い付くが、それではルークは納得しないだろう。どうしたものか。表情には出さず悩んでいると、ルークが思い付いたように一言。

「じゃ、半分こしようぜ」

ルークはそう言って自分の食料を少し俺に手渡した。ルークを見れば「これでちょうどいいだろ?」と言ってにかっと笑顔を見せた。俺は眉を下げ、困ったような笑みを浮かべた。全く、ルークには参ったもんだ。
しばらくして食べ終わり、外も随分暗くなったし眠りに就くことにした。しかし魔物が襲ってこないとも限らない。なので俺たちふたりは交代制で外を見張ることになった。…ルークが見張り途中で寝てしまわないか少し心配だが。
ごうごうと吹雪の音が鳴り止まぬ中、俺たちの心配は杞憂に終わり、何事もなく一夜を過ごすことができたのだった。
そして翌日。残りの食料を食べ、早速ケテルブルクへ向かうことにした。なるべく魔物が活性化しない早朝のうちに駆け抜けた方がいい。

「さぁて、さっさとケテルブルクに戻りますか!」

「だな。みんな心配してるだろうし…なるべく急ごう」

「ああ。だがまたジャバウォックに出会うかもしれないし、気をつけていこうぜ」

そして俺たちは洞窟を走り去った。ジャバウォックに遭遇する確率は極めて低い。脅威は去ったのだ。…と、俺はそう油断していたのかもしれない。
後もう少しというところで魔物の集団に囲まれてしまったのだ。隙を見て逃げ出そうにも数が多過ぎるため、すぐ追い掛けられてしまう。最後の回復手段であったグミも全て使い切ってしまったし、俺自身ももう集気法はほとんど使用できない。ルークも疲れきっており、俺がなんとかするしかない。さて、どうする。
しかし魔物達は考える時間をくれないようだ。攻撃の手は止まず、残り少ない体力で剣を振るい続ける。だが無理が祟ったのか視界が少し歪み、その間に魔物の攻撃を喰らってしまった。そして他の魔物も一斉に襲い掛かってきた。剣を振るう以前にガードの態勢も取れない。万事休すか。諦めかけた、その時。

「ガイ!!危ねぇっ!」

「な……!」

目の前には、真っ赤に舞い散る花吹雪。倒れゆく、赤。

「ルークッ!!」

俺の叫びと同時に、ルークは力無く地面に倒れ込んだ。雪が赤に染まっていく。じわりじわりと、命が蝕まられていく。ルークの意識が遠退くと同時に、俺の意識ははっきりとしてくる。

「…ガイ……無事、か…?」

「ああ無事だ!馬鹿野郎が!無茶すんなって言っただろ!」

俺はルークに怒鳴りながら自分の上着を脱ぎ、ルークの傷にそれを結び付け止血をした。もう回復手段はないのだ。こうするしかない。俺は直ぐさまルークを背負って立ち上がった。

「ガイ…まだ、魔物が……」

「何、大丈夫さ!俺に任せてルークは休んでろ」

冷や汗をかきつつもいつもの笑顔でそうルークに言うと、ルークは意識を失った。ケテルブルクはもう目と鼻の先だ。ケテルブルクの方向にいる魔物だけでも倒すことができれば、強引にだが通り抜けられるかもしれない。この状況だ。一か八か、やってみるしかないだろう。

「神速の斬り、見切れるか!閃覇瞬連刃!」

最後の力を振り絞ってなんとか発動できた秘奥義で目の前の魔物を一掃した後、直ぐさま駆け出す。ケテルブルクだけを目指して。ちらりと振り向けば魔物達はまだ追ってくる。しつこさについ舌打ちをし、そのまま走り続けケテルブルクに向かった。
門が見えてきた。魔物達はすぐそこにいる。間に合え。真っ直ぐに駆け抜ける。しかし無情にも魔物達が襲い掛かってきた。せめてルークだけでも、と思ったその時。

「ブラッディハウリング!」

闇の咆哮が魔物達に直撃し、奴らは退散していった。声がした方に目を向ければ、アニスがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「ガイ!よかった〜心配したんだよも〜…ってルーク!?どうしたの!?」

「悪いアニス事情は後にしてくれ!ティアとナタリアは!?」

「ホテルにいるよ!急ご!」

アニスと共にホテルへと再び駆け出した。背中のルークはまだ暖かい。意識を失っているだけだ、大丈夫だ。未だ不安感と罪悪感が入り混じるが振り払った。そうしてホテルに到着すると、ティアとナタリアとジェイド、それからミュウが目に入った。

「あら、ガイ!無事だったのですわね、よかっ…ルーク!?」

「ご主人様!?どうしたんですの!?」

「ルーク!一体何があったの!?」

「話は後だ、今はとにかくルークに治癒術を頼む!」

そう言うとティアとナタリアは直ぐさまルークに駆け寄り治癒術を施した。二人の力でルークの傷はみるみるうちに治っていく。無事に出血も治まり、ルークは大事に至らずに済んだ。とにかくゆっくり寝かせてやるべきだと、俺はルークを部屋へ運ぶため抱え上げた。

「よかった…ありがとう、二人とも」

「…あら?ガイも怪我をなさっているじゃありませんこと?」

「本当ね。治癒術をかけるから少しじっとしていて」

「おっとそうだった…ルークのことで頭がいっぱいで忘れてたよ。すまないな」

痛感すらもすっかり忘れていた俺の傷もティアが癒してくれた。おかげで俺の身体に傷はもう見当たらない。
ルークを部屋へ運びながら、俺は今に至る事情を説明した。ルークと俺が共に行動することになった経緯から、ルークが俺を庇ったことまで。みんなの話を聞くと、魔物にこそ何度も襲われたが、食料はグミなども使い切ることはなく、無事ケテルブルクへ辿り着けたらしい。ティアとアニス、ジェイドとナタリアという組み合わせになっていたようだ。

「それじゃ、みんなも疲れただろうしゆっくりしててくれ。ルークは俺が見ておくからさ」

「ガイこそ、疲れてるんじゃないの?私たちに任せて休んでてもいいんだよ?」

アニスが優しい言葉を掛けてくれたが、疲れているのはみんな一緒のはずだ。だからせめてルークと一緒にいた俺が面倒を見ないと。それにルークが目を覚まして俺がいなかったら不安に思うだろうから。

「では、ガイの言葉に甘えましょうか。いや〜私は全身筋肉痛で疲れていまして…」

「まぁ、よく言いますわ!疲れている様子なんて一欠けらも感じませんのに」

「ほーんと、大佐って不思議だよね〜…じゃあ私たちそろそろ行くね!」

「ミュウはご主人様が心配ですの…」

「大丈夫よ、ミュウ。ミュウも一緒に行きましょ。ルークの目が覚めたら連絡して。それじゃ、任せるわ、ガイ」

「ああ、それじゃあ」

みんなは普段通りそう騒ぎながらも部屋を去っていった。
しんと静まり返った部屋に残された、普段通りではないルークと俺。耳を澄ませば微かにルークの呼吸音が聞こえる。ルークが息をしている。生きているんだ。ここにいる。その現実を再確認し、俺は安堵の息をついた。
あの時、ルークに庇われたと脳がその状況を把握するのに、一瞬頭が真っ白になった。理解したくない光景が目前にあったからだ。守りたいと素直に心の底から思えるようになったルークを、自らの油断で傷を負わせてしまった。その現実を、俺は一瞬拒絶してしまった。直ぐさま思考を切り替え止血に当たったためよかったものの、あの時の油断でルークを失っていたらと想像すると…ぞっとする。
ルークの命を確認するかのように、俺はルークの心臓辺りに拳をとんと置いた。とくんとくんと鳴る命の鼓動。こいつも、俺も生きている。俺はまた、安堵の息をつき、椅子に腰を下ろして俯いた。
しばらくすると、ルークの身体がぴくりと動いた。慌てて顔を上げルークの名を呼べば、その身体がもぞりと確かに動いた。そして、ルークの瞼がゆっくりと開かれた。

「…う…あれ…ガイ…」

「ルークっ!」

「俺、どうしたんだっけ…」

ルークはそう呟きながら半身を起き上がらせた。その際ちくりと痛んだのか、僅かに顔を歪ませ傷があったであろう箇所を手で押さえた。

「あ、そうか…確かあの時…っ!ガイ!無事か!」

「それはこっちの台詞だっ!」

「いてっ!」

俺は僅かに怒りを込めつつルークの額を小突いた。まずは自分の身体の心配が先だろうが。そう言うと傷痕がないことに気付き、今いる場所もケテルブルクだとようやく気付いたようだ。

「じゃあ受けた傷、ティアとナタリアが治してくれたのか…?っていうか、他のみんなも無事だったのかよ?!」

「ああ、みんなはピンピンしてるぜ。後でちゃんとお礼言っとけよ」

ルークは俺の言葉に応え、迷惑をかけてしまったことに罪悪感を覚えたようで俯いてしまった。しかし俺はルークの両肩に手を置き、目を合わせて口を開いた。

「これからは、もうあんな無茶な真似はしないでくれよ。心臓が止まったかと思ったんだからな」

「…うん、ごめん。気付いたら身体が勝手に動いて…」

「…ま、俺も立場が違えば同じ行動をしてたのかもしれない。それにもう助かったんだから、説教終わり!これからは気をつけてくれよ?」

ルークにそう問い掛けると、ルークは頷いた。まだ若干の不安は付き纏うが…仕方ないだろう。それに俺もまたルークに助けられたのだ。

「それに…ごめんじゃなくて、ありがとうだろ?」

「…ああ!ありがとう、ガイ」

「…俺の方こそ、ありがとうな、ルーク」









一度はちゃんと書きたかったルーク怪我ネタでした。あとみんなと逸れてふたりになるネタも書きたかったのでついでに。
タイトルの赤に染まるは血の赤とルークの赤を重ね合わせてます。血に染まったルークとルークに染まっているガイ。
ちなみにミュウはルークとではなくティアと一緒にいました。アイテム袋の中に。
序盤に出てきたジャバウォックは多分テンション上がってきた(^o^三^o^)ってなって現れたんでしょう。荒らぶるジャバウォック。
2012.1.8


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