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Luke + Guy
いつかたからものになる時間
やまもおちもないただ冗長な話。ふたりの日常みたいな感じです。ほのぼの。





人の喧騒はまるで聞こえず、優雅な時を過ごす俺。なぜならファブレ公爵邸にて音機関を絶賛制作中だからだ。
音機関のことを考えているだけで幸せを感じるのだ。実際に自らの手で造ることに、夢中にならずにはいられない。組み立てずとも観賞するだけで心が躍る。ああ、なんて素晴らしいのだろう音機関。

「ガイ、ここにいたのかよ」

「ん?おうルーク。どうした?」

「暇」

俺の問いに不満げにたった一言答えると、ルークは俺の隣に寝転んだ。勿論俺のベッドの上にだ。俺は地べたに腰を下ろし音機関と対話していたのだ。ご主人様を床になど寝かせられない。そのご主人様はそもそも床でなど寝たくないと怒るだろうけど。

「まーた音機関かよ。毎日毎日飽きねぇなあ」

「本当に好きなものってのは夢中になれるもんさ!見ろよこの形!光沢!!どこを見ても素晴らしい!」

「あーあーあーあーわかったよ!うぜーなぁ…」

ルークは普段通り心底だるそうに口にした。自分が嫌なこと、鬱陶しいと思ったことは容赦なく口に出す。それがルークなのだ。ルークが夢中になれるものが剣術しかないのだ。それがなければ俺やペールと話すか寝るか。退屈なのも仕方ないだろう。みな簡単に軟禁と言うが、ルークにとっては苦痛でしかないのだ。

「ガイ、退屈だから何か話せよ」

ルークがそう吐き捨てた。またルーク坊ちゃまの無茶ぶりが始まった。何もかも突発的すぎるのだ、ルークの我が儘は。…なるべく叶えてやりたいとは思うが、現実はそう甘くない。俺は何もかも叶えてやれるような万人ではないのだ。

「退屈なのは毎日じゃないか」

「だからだよっ!毎日毎日つまんねーんだもん!せめてバチカルだけでも歩き回れたらなぁ…」

ルークは心底からそう言った。
そうだ。せめてバチカル市内だけでも見回ることができるならこんな退屈しないだろうに。街にはルークが知らないものがたくさんあるのだ。案内してやりたい。街へ繰り出したルークはきっと無邪気な子供のようにはしゃぎ、心を躍らせるに違いない。その様子を想像し、俺は微笑んだ。
しかし、大事な一人息子を危険に晒したくないと思う親心もわからなくはない。親心子知らずとはまさにこのことだ。

「だなぁ。それならここまで退屈しないだろうに…だがまぁこれもファブレ公爵やシュザンヌ様がおまえを心配してのことさ。あともう少しの辛抱だよ」

「もう少しが長ーんだって!…ちっ、つまんねー…何か事件でも起きねえかなぁ…」

「事件が起きて困るのは俺だぞ?」

「知るかよんなもん」

ルークの横暴な言葉に、ははは、と俺は音機関をいじりながら笑った。ルークが我が儘で横暴なのはいつものことなのだ。軟禁されている反動だろう。年頃の少年が誰とも遊べず屋敷に閉じ込められ、自由などない状況ならこうなっても仕方がないのでは。元々貴族のため遊ぶなど禁じられているようなものだが、皆最初は子供なのだ。
音機関をかちゃかちゃと、聞き慣れた…俺にとってはもはや快音という程の音を耳に入れながらそう思った。ルークもこの音は当初耳障りだったようだが、さすがに何年も俺と共に聞いていると聞き慣れたようで気にしなくなった。ルークをちらりと見遣れば、深く溜息をつき、暇を潰すように目を閉じた。毎日屋敷にいるとすることは限られてくるのだ。仕方ない。
俺は再び音機関に意識を戻すと、作業を再開した。



「よーし出来た!!うぅ〜ん我ながら素晴らしいな…!おい見ろよルーク!」

完成させた音機関を自画自賛し、興奮冷めやらぬ中ルークに話し掛けた。しかしルークの反応はない。面倒くさいから無視を決め込んでいるのかと思い、ルークと目を合わせるべく彼を見ると。

「…あれ?」

ルークは寝息をたてていた。人のベッドで気持ち良さそうに安らかに。静かになったと思ったらあのまま夢の世界へ旅立っていたのか。こういうことは日常茶飯事なのだが、今回は音機関に意識を集中させていたためまるで気付かなかった。
ルークがううんと寝返りをうった。そこで俺はルークが毛布も何も掛けずに眠りについていることに気付く。身体を冷やしてしまったらどうするんだ。以前腹を出して…いや、いつも出しているか。とにかく暑いからと言って布団を掛けずに一晩眠り、翌朝腹を冷やして風邪を引きかけたことを覚えていないのだろうか。

「ったく、相変わらず手間のかかる坊ちゃんだよ。仕方ないなぁ…」

俺は呆れつつも苦笑いを浮かべながら毛布を掛けてやった。ルークは起きる様子がなく、もぞ、と動いただけ。安心しきっているように感じた。
この何気ない日常を大切に思い返す日が、いつか来るのだろうか。その時にはきっと、俺の心は――。ルークの頭を優しく撫でながら、そう思った。




いつかたからものになる時間




第二部以降はガイは貴族でグランコクマで過ごすんだし、もうこんな日々は戻ってこないんだなーと思うと寂しくなりました。短髪ルークと過ごすガイも見たかったなあ。
2012.8.15


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あきゅろす。
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