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Luke + Guy
断ち切ることなど敵わぬ連鎖
エンゲーブにて。ちょっとほのぼのした話を書きたかったので。




ここはエンゲーブ。緑豊かで気さくな村の人たちの温かさに包まれた小さなのどかな村だ。俺たちは物資や食料を補給するためエンゲーブに立ち寄ることになった。
かつて外の世界を知らない俺がティアと共に飛ばされた時、初めて立ち寄った村だ。商品である林檎を勝手に食べてしまったり、その場で現金を支払うことを知ったり、チーグルを捕まえてやると意気込んだり、この村には様々な思い出がある。何度もお世話になった。
休息も必要だろうと今日はここで一泊することになったので、宿の手配はティアとナタリアが、物資を揃えるのはジェイドとアニス、食料を揃えるのは俺とガイ。そういう分担になった。そして俺たちは各々の役割のため一旦解散した。

「あ〜久々にゆっくりできるぜ〜!」

「ここのところ戦闘続きだったからなぁ。羽を伸ばせるのは嬉しいな」

そう言って俺とガイは伸びをした。ずっと戦闘続きで心身共に疲労が重なっていた。こうして休息の場を設けることができて一安心だ。疲労を癒せる。しかもエンゲーブというのどかで平和な村で。さっさと食料を手に入れて宿で昼寝でもしよう。そう思い歩を進めていけばすぐに食材屋に着いた。

「いらっしゃい!エンゲーブ産の新鮮な野菜だよ!」

店の人が明るい声が響き渡る。買いに来たわけじゃない人すら呼び寄せるそれはまるで魔法のようだ。俺はその声に聞き覚えがある気がして声の主へ視線を向けた。そして鮮明に思い出した。俺が勝手に商品を食べた時の店の人じゃないか。

「いらっしゃい!…ん?あんたは確か…」

「あ!あの、あの時はすいませんでした!林檎、勝手に食っちまって…」

突然頭を下げて謝罪の言葉を口にした俺を不思議な表情を浮かべて見るガイ。そういえばガイには話していなかったか。事情を説明するとガイは笑って俺をからかい、そして俺と同様に頭を下げた。

「すみませんね。こいつ箱入り息子のお坊ちゃまだったもんで…」

「もういいって!あの時は流石に腹が立ったけど、今は逆に世話になったりして感謝してるぜ。兄ちゃん、いい顔するようになったな」

店の人は笑顔を浮かべてそう言った。男前になったとも言われ、俺は照れ臭くて否定しつつ目を逸らした。ガイに顔が赤いぞとからかわれた。とにかく食材を買おうと言うと、いくら美味そうだからって食べるなよと店の人からもからかわれる始末だ。恥ずかしい。そんなことがありつつも俺たちは食料を買い揃え宿へ戻った。

「さて、どうするルーク」

「村を見て回ろうぜ。のどかな村だし空気もうまいし、部屋にこもってちゃもったいねぇや」

「休まなくていいのか?ルークらしくねえなぁ」

「確かに最初はそう言ったけど気が変わったんだ!余計なお世話だっ!」

そう怒鳴るとガイは笑って謝った。悪いと思ってないくせに。まったく。
行き先も決めず適当に村を歩き回る。自然に恵まれていてなんだか落ち着く村だ。そう思いながら辺りを見渡すと、農作業をしている人が目に留まった。汗水垂らして作業をしている姿が疲れていそうだったのでその人に話し掛ける。

「こんにちは!…あ、あの…いい天気ですね!」

「不自然だぞ、ルーク…」

「うるせっ!」

そんな俺たちのやり取りを見てその人は農作業を中断し、笑いつつも挨拶を返してくれた。農作業について尋ねると豊作だという。チーグルに荒らされ一時はどうなるかと思ったが、解決してよかったと。

「君のおかげで解決したと聞いてるよ。ありがとう」

「そ、そんなことありません!俺はただ……あの!そんなことより…よかったら、俺も手伝います!」

意を決してそう言うと、村の人は大いに喜んでくれた。ほっと胸を撫で下ろした。もし断られたりしたらと少し不安だったのだ。
もちろんガイも手伝うことになり、農作業をさせてもらうことになった。慣れない作業で苦戦したが、これは楽しい。こうやって農作物は耕され、収穫され、世界中を渡り歩くんだと思うと感慨深いものがある。様々な料理に使用され、人々の力となるのだ。世界は広大だと改めて実感する。農作業をしている最中にもいろんな話を聞いた。俺がいかに世界に目を向けていなかったかよくわかる。俺はまるで鳥かごの中にいる鳥だった。農作業の手伝いを終えると、お礼にと先程収穫されたばかりの新鮮な農作物を頂いた。お礼目当てで手伝ったわけではないのに。断ろうとすると、君達は世界のために頑張ってくれてるんだろ、これくらいのことはさせてくれ、と言われた。そう言われてしまっては仕方ないので有り難く受け取った。お礼を言い、俺とガイはまた別の所を見物することにした。

「綺麗な川だなぁ。透けて見えるぜ」

「そりゃ、エンゲーブだしなぁ。空気も綺麗なんだし当然だろう」

「お!あんた達か!よかったら釣りしていかねぇかい?」

川をふたりで見ていると今まさに釣りの最中の人に話し掛けられた。

「釣りかぁ。おまえ、やったことなかっただろ?やってみようぜ、ルーク」

「ああ!やる!是非やらせてください!」

そう言って俺たちは言葉に甘えて釣りをすることにした。何が釣れるだろうか。自身の立場上、これから先も経験できないであろう経験に心が踊る。
釣りを始めて10分が経った。

「…全然釣れねぇじゃん!」

「おいおい、まだたった10分しか経ってないぞー」

「はははっ!兄ちゃんは気が短いんだな」

直ぐに釣れるものだと思っていたがしばらく待たないといけないらしい。釣りは辛抱強く待つことが大事だと。釣れるまで退屈だと思っていると、ガイの竿が引いた。直ぐさまガイは竿を引き上げた。

「おっ!見ろよルーク、釣れたぜ」

「ちぇっ!なんでガイのとこ行くんだよ!俺の竿に来いよな」

「じゃあルーク、競争しようぜ。どっちがより多く釣れるかさ」

「望むところだっ!」

ガイから持ち掛けられた勝負を受けて立ったが、やはりまるで釣れない。水面は自然に身を任せぷかぷかと揺れるのみ。竿は波紋を起こす様子もなく、びくともしない。そんな俺に対してガイは大漁だ。俺の竿にかからないのはもしかして俺が魚介類を嫌っているからか、そうなのか。そう思い始めた矢先、ぴくんと竿が引いた。ようやく当たった。目を輝かせ心を踊らせながら引き上げるとそこには…何もいなかった。どうやら引き上げるタイミングを誤ったらしい。空を仰いで怒鳴った。

「何なんだよもー!せっかく釣れたと思ったのによ!勝負引き受けたのに収穫ゼロとか俺マジかっこ悪いじゃん!」

「はっはっは!そんな日もあるもんだからなぁ。落ち込むなよー、兄ちゃん」

「ちぇっ。楽しみたかったのにさぁ」

「そう拗ねるなって!今日はきっと魚運がなかったんだよ。今回は諦めようぜ」

ガイの言葉に渋々ながらも頷き俺たちは貸してもらった道具を片付ける。ガイが釣り上げた魚だが、少し多いので誘ってくれた人に半分程差し上げることにした。お互いに礼を言ってその場を去った。次訪れた時は絶対ガイよりいっぱい釣ってやると密かに心に決めて。
俺は他に困っている人がいないか辺りを見渡した。すると目に留まった人がいたので話し掛ける。

「あ!すいません!何してるんですか?俺でよかったら手伝います!」



もうあれから数時間が経つ。ルークはずっと村の人の話を聞いて回ったり、汗水垂らしながら仕事を手伝ったりしている。もちろん俺もだが。最初に休もうぜと言っていたのははてさて、一体どこの誰だっただろうか。…ルークも成長したなぁ。そうしみじみと思った。
昔からルークの側にいた俺にとって、あいつがどれだけ成長したかよくわかる。まるで母親のような心境だ。…いや、せめて兄か。
ルークは辺りを見渡し、困っている人や大変そうな人がいないか確認するとこちらに駆け寄ってきた。

「今日はお疲れさん、ルーク」

「ああ、ガイもな!」

「はは、汗も滴るいい男だなールーク!」

「う、うっせぇ!」

照れるルークをからかいつつ宿屋へと向かう。するとルークが夕日を見つめながら穏やかな表情を浮かべ、口を開いた。

「こういう暮らしもいいよな。いつかしてみたいよ。…無理だけどさ」

そう言ったルークはどこか寂しげで。
ルークはレプリカでなく、ひとりの人間として生まれて人生を送りたいのだろう。被験者とレプリカ、価値観や自身の存在理由。そんなことに囚われることなく、自由に。

「無理なことはないぞ?次に生まれ変わってきたら、可能性は十分にあるぜ」

「生まれ変わったらって…そんなの保障ねーじゃん」

「そう言うなよ。近い未来か遠い未来かはわからないが、いつかきっと普通の暮らしができるさ。ルークが望むならな」

「そういうものなのかな…」

ぼそりと呟くように言ったルークにそういうものなんだよ、と応えた。
生まれ変わりや輪廻転生などないと答える人や信じない人はいるだろう。それはそれで構わない。だが俺は信じたい。そんな奇跡があることを。何度生まれ変わっても出会えることを。その方がきっと面白いに違いないから。俺は俺、ガイラルディア個人としてあるけれど、前世でもルークと親友だったのかもしれない。そんな可能性は否定できないはずだ。

「じゃあさ、俺、生まれ変わってもガイと親友がいい」

ルークは先程とは違い凛々しい表情を浮かべそう言った。そして俺の方へ顔を向けると、にっと笑った。それに俺も同じく笑みを浮かべながら頷く。

「ああ。俺もそれがいいな。生まれ変わってもルークのこと心配だしな?」

「大きなお世話だっ!」

からかうように言えばルークは凛々しい表情をすぐに崩し、いつもの表情に戻った。屋敷にいた頃毎日目にしていた表情。
ルークはあの頃に比べると随分成長した。しかし今だ心配なのは事実だ。ひとりで悩んで抱え込んだりして、卑屈で…まだまだだ。

「それに生まれ変わっても親友がいい、じゃなくて、生まれ変わっても親友さ」

そうだろ?とルークに問い掛けると、ルークは笑顔で大きく頷いた。お互いにこうして認め合える関係がどれほど幸せなことか。こうした関係は引き継がれ、未来永劫変わらないのだろう。
俺はそれを誇りに思う。ルークと永遠の友でいられることを。









ルークとガイは何度生まれ変わっても繰り返しても、どんな形であれど親友っていう関係がずっと続くんでしょうね。
ジェイドも「ルークとイオンさまは遠い昔親しかったのかもしれない」って言ってましたけど、二人だけでなくルークと仲間たちもみんなそうだったんだと個人的には思います。そう考える方がロマンがあるじゃないですか!ロマン!
2012.6.29


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