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Luke + Guy
寒空の下、温まるもの
ケテルブルクにて。ガイとの時間を邪魔されてむすーってなるルークです





「う〜…ケテルブルクはマジさみぃな…景色は綺麗で好きだけどよ」

「一面銀世界ってのは美しいもんだな…目を奪われちまう」

「でも、やっぱり俺はバチカルの方が好きだな!」

「ははは、そりゃ故郷なんだからな」

今話していた通り、俺とガイはケテルブルクを歩いている。特に用事はなかったのだが、食料も少なくなってきたし、物資の補給とついでに休息ということで立ち寄ることにしたのだ。そんなわけでジェイドはネフリーさんの元へ、ティアとナタリアとアニスは三人揃って買い物に出掛けている。そして俺とガイは久々にふたりきりで散歩がてら話をしているのだ。

「あ、そうだ!カジノ行かねぇ?俺よくわかんねぇけどちょっとやってみたいんだ」

「おいおい…あんなこと知ってたら公爵やシュザンヌ様になんて言われるか…駄目だ駄目だ!」

「ガイは知ってるくせに…ちぇっ。じゃあ広場で雪合戦でもしようぜ」

「それならいいぜ。…ってそうか、おまえ雪合戦やったことなかったな…風邪引かない程度にやるか!」

そんな話をしながら歩を進めていくと、ガイが女性に話し掛けられた。知り合いなのかと尋ねればガイは首を振った。その様子に女性はくすくすと笑い、誰なのか尋ねると、ただの通りすがりの者だと答えた。素敵な方だとお見受けしたのでつい話し掛けてしまったんだと。それに対してガイも、あなたも自分などより素敵な方ですよ、と笑みを浮かべて言うと、女性は顔を赤らめ去って行った。
本当にそんな理由で話し掛けただけだったのか疑問に思っていると、またガイが女性から話し掛けられた。それも同じような理由で。適当に理由をつけて逃げるように去ったが、またしてもガイが声を掛けられた。それも今度は複数人から。さすがにこうなると逃げることもできず相手をするしかない。適当に話を合わせやり過ごした。するとまた話し掛けられ…ということが何度か続きうんざりした。
俺はというとガイの隣にいるだけ。見向きもされない。それだけ俺が餓鬼だということだろうか。ガイばかりモテていて悔しい。ガイと女性達の話に加わろうとしてもタイミングが掴めないし、目も合わせてくれない人もいた。お呼びでないということか。
何度も話し掛けられているうちにガイも会話が楽しくなってきたのか、本当に笑顔を見せ女性達と談笑し始めた。女性恐怖症のせいで最初はビビりまくっていたガイだが、慣れてきたらしい。少し機嫌がいいガイとは対照的に、俺は虫の居所が悪かった。
ガイばかりがモテて悔しいしつまらないし、何よりせっかく久々にガイとゆっくりいろんなことを話せると思ったのに、悉くそれを邪魔されていたからだ。それはまるでおまえの居場所はそこじゃないとでも否定されたような感覚。俺が偽者だから?レプリカだから?ガイも俺を見遣ることなく女性達と話を楽しげに続けていて…少し悲しかった。
宿に帰ろう。先に。
俺はガイに何も言わずに、こっそりとその場を去った。

「……ん?…ルーク?」



特に行く宛てもなく、とりあえず広場へ向かった。そこでは子供達が元気に雪合戦をしていた。なんだか羨ましい。無邪気に友達と遊ぶことができて。俺も少しだけ…人並みの遊びをしたかった。軟禁されていたから、毎日が退屈だった。剣の稽古やガイやペールやナタリアと話したり、毎日がその繰り返し。面白いことがなかったというわけではないが…刺激があまりなかった。
ベンチに腰を下ろしぼんやりとしていると、子供達が帰宅する時間になったようで、迎えに来た母親と手を繋いで帰って行った。子供は今日の楽しかった出来事を話しながら、母親は柔和な笑みを浮かべその話を聞きながら。その光景は微笑ましかったが、俺の心に寂しさが募った。
騒がしく遊んでいた子供達がいなくなり、静まり返った広場でひとり呟いた。

「…さみぃ」

すっかり冷え切ってしまった手を摩りながら、白い息を吐いた。気付けば肩には雪が積もってしまっている。寒空を見上げれば、冷たい雪は降り続けており、止む気配はまるでない。
そういえば、ガイはどうしているのだろう。あのまま女性達と話が盛り上がり、どこか店に入って食事でもしてるのではないだろうか。俺のことはきっとホテルに戻ったと思ってるだろうから、探しになんて来ない。
俺は再びぽつりと呟いた。

「さみぃ…」

「なら、早く戻ろうぜ、ルーク」

「へ?」

声がした方を振り向けば、ガイがいた。呆然としていると、ガイが俺の肩に積もった雪を掃ってくれた。

「ガイ…」

「悪かったなルーク。せっかく誘ってくれたのに」

来るのが遅かったのは女性達との話が長引いてしまったためなんだ、とガイはそう謝罪の言葉を口にしながら俺の隣に腰を下ろした。ケテルブルクに到着して、ガイに散歩に行こうと提案したのは俺なのだ。散歩をしていれば身体も温かくなり寒さを和らげることができるし、ガイとなら暇にならないし。もうひとつ理由があるのだが…まぁとにかくそう思って誘ったのだ。しかしうまくはいかず、俺の身体は温まるどころか冷え切ってしまった。心までもが。

「俺の方こそ悪かったな。おまえがあそこまでモテるとは思ってなかったなー。俺、お邪魔だったなー。ガイひとりだけで歩いてても全然暇じゃなかったもんなぁ」

目を細めて嫌味ったらしくガイに目をやり言ってやると、ガイは苦笑いを浮かべた。我ながら酷いことを口走っている。自分から誘っておいてガイだけで歩いていればなんて、自分勝手で我が儘にも程がある。だけど俺が今、鬱憤や不安を晴らすにはこの方法しかなかった。

「おいおい、拗ねるなって!こっちも大変だったんだぜ?女性恐怖症が治ったわけでもないのに彼女達に囲まれて…」

「ふんっ。ちょっとデレデレしてたくせによく言うよ」

「うっ…それは、その…だなぁ…」

ガイは俺の言葉に複雑な表情を浮かべ、頭を掻きながらまた苦笑いを浮かべた。ガイは女嫌いだと思っていたが、本人は女が大好きだと宣言していた通り、女を好む。女性恐怖症なのに、だ。だから先程女性と話している時は少し怯えながらも喜びのオーラを纏っているのが感じられた。仕方のないやつだ。

「…せっかく久しぶりにガイと二人でゆっくり話ができると思ったのによ」

ぼそりと呟いた。これがガイを誘ったもうひとつの理由だ。旅は忙しく屋敷にいた頃のように話す機会はすっかりなくなってしまっていたから、またゆっくり話したいと思っていたのだ。結局それも叶わずだが。

「はは、そう思ってくれてたのか」

「な!き、聞いてたのかよ…」

聞こえないようにぼそりと呟いたはずがガイはしっかり聞いていたようで羞恥心を抱いた。動機が子供っぽくて知られたくなかったのに。からかわれてしまう。しかしガイは嬉しいと言った。どうやらガイも俺と同じことを思っていたようで、ほっと胸を撫で下ろした。
するとガイが立ち上がり、俺を見てにっと笑い口を開いた。

「雪合戦、やりたいんだろ?」

「へ…あ、うん」

「ならやろうぜ。この広場は俺たち以外誰もいなくて貸し切りだしさ。な?」

「ガイ…ああ!」

俺はガイの言葉に大きく頷いた。
ガイは俺がやりたいことを叶えてくれる。実現可能なことはほとんど、無茶なことでも叶えてくれたこともあった。俺のために。それが嬉しかった。
俺とガイは馬鹿みたいに笑って雪合戦をした。むきになって本気でぶつけ合ったりもした。身体に当たる雪はひんやりと冷たかったが、心は暖かかった。
楽しい時間はあっという間に経ち、気付けば空は闇に染まりつつあった。

「もうこんな時間か…身体が温まったな、はは!」

「そうだな!雪合戦楽しいな…って、げ…!今日の飯の当番俺じゃん!」

雪合戦が予想以上に楽しくて、当番のことなど忘却の彼方だった。急いでホテルに帰らなければ。ジェイドとアニスからまた嫌味を言われてしまう。

「おっとそうだったか。じゃあ急がないとな!」

ガイはそう言って片目をつぶった。それとほぼ同時に俺たちは走り出した。
闇に染まりつつある空と一面の銀世界に、綺麗な赤色と黄色が映えた。









随分前に書いてあった『嫉妬』を書き直したつもりが全くの別物になりました。どうしてこうなった
ルークは断髪して確かに変わったけど、まだちょっとガイに我が儘言ってたりしたらかわいいですね。そういうとこがまだ子供というか…
2012.5.28


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あきゅろす。
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