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Luke + Guy
一歩、踏み出して
アブソーブゲートでヴァン師匠を倒して、それからガイがファブレ公爵から暇を与えられてマルクトに行くまでの話です。





俺たちはアブソーブゲートで激闘の末、ヴァン師匠を倒した。そして外殻大地をアッシュと協力し、無事降下させた。全て終わったんだ。
その後は各々すべき事のため解散した。解散と言っても、全員がばらばらになるというわけではない。ガイは俺と共にファブレ公爵家に戻るんだし。そうしてまたあの日々のようにとはいかないが、共に過ごすのだ。…そう思っていた。俺が想像していた日々は呆気なく砕かれたのだ。
屋敷に戻ると、父上がガイに暇を与えると言った。きっと父上なりの配慮なのだろう。ガイは元々貴族ガルディオス家の子弟だ。真実を知ったからには使用人なんてさせられないし、ガイも嫌なのではないだろうか。ガイは恭しく片膝を突き、父上の突然の言葉を受け入れた。

「ガイはこれからどうするんだ?何か目的とかあんのか?」

「ん?とりあえず、グランコクマに行こうと思ってな」

「グランコクマに?」

話を聞けば、ジェイドが人手不足だと言っていたこともあるし、ピオニー陛下にも貴族に戻らないかと言ってくれたから、ということらしい。ピオニー陛下に手紙を出して了承を得てから向かうとガイは言った。あの陛下のことだ、きっとガイを快く歓迎するだろう。生活面に関しても工面してくれるのではないだろうか。

「だから早ければ…三日ほどでここを出発することになるな」

「え、そんなに早く!?」

「ああ。荷物は今から纏めておくし」

「そっか…」

俺は眉尻を下げ俯いてしまった。一週間はまだ一緒に過ごせるのではないかと甘く見ていた。そんなに早く出発してしまうなんて。七年間一緒に屋敷で過ごしてきたガイがいなくなってしまうのは、やはり寂しい。するとガイが笑いながら俺の頭を撫でた。

「ははは!そんな顔するなって!遊びに来ることだって出来るし、おまえの方からこっちに来ることも出来るんだからさ」

「…ああ、そうだな!俺、荷物纏めるの手伝うよ」

「助かるぜ、ルーク」

それからガイは手紙を出し、早速荷物を纏め始めた。俺も手伝ったのだがほとんど役に立たなかった。ガイの荷物が予想以上に少なかったのだ。屋敷からいなくなるとは思えないほど。本当にこれだけでいいのかと尋ねると、ガイは持っていく物があまりないし、特別必要という物もないしと顎に手を当てながら答えた。それならいいのだが。

「っと、もうこんな時間か…ルーク、腹減っただろ。ここを出るまでは俺が飯作ってやるよ」

「え、マジで!?ありがとうガイ!」

「いいって!それじゃ、買い出しに行ってくるよ」

ガイはそう言って部屋を出ようとする。俺も行くと言ったが、まだご主人様のおまえにそんなことはさせられないと断られてしまった。だけど少しでも長くガイと過ごしたい俺はせめて見送りをしようと玄関までついて行くことにした。その道中、メイドが声を掛けてきた。

「あらガイ!お帰りなさい!いなくなっちゃうんだって?寂しいな〜」

「はは、そう思ってもらえて光栄だよ」

「あ、ル、ルーク様…お帰りなさいませ…わ、私はルーク様がレプリカであっても気にしませんので…」

そうぎこちなく言うとメイドは去って行った。俺がレプリカだという事実は既に屋敷中に知れ渡っている。突然『ルーク』だと思い接していた奴がレプリカだったなんてことを知らされて驚くのも無理はない。俺は偽物なんだから。これは当然の反応なんだ。極力気にかけないようにして歩を進める。

「ル、ルーク様…ご無事で、何よりです」

「よ、よくぞお戻りになられました、ルーク様…」

白光騎士団やメイドとすれ違う度にぎこちない態度を取られ、疑いの眼差しを向けられる。レプリカだということを気にしないと本気で言ってくれた奴もいたが、片手で数えられる程だ。多くは偏見と差別を心に持つ者ばかり。それが当然なんだ。これが世間の目だ。現実は甘くない。それを身を以て知らされた。やっぱり、俺の居場所はここじゃない。ここはアッシュがいるべき場所なんだ。そう思っていると、ガイが俺の肩に手を置いて話し掛けてきた。

「気にするなってのは無理かもしれないけど、おまえはおまえだ。ファブレ公爵もシュザンヌ様も、ティア達も、おまえの存在を肯定してくれてる。もちろん俺もな。それにペールだって。大丈夫さ」

そう言われ、俺は抑揚のない声で返事をした。肯定はされているけど、この屋敷にいていいのかわからない。どうしても取り払えない不安感があった。
そういえば、ペールは俺のことをどう思っているのだろう。聞いてみよう。ガイを見送った後、いつものように庭にいるペールに会いに行った。

「よっペール!」

「おお、ルーク様!お帰りなさいませ」

「久しぶりだな。元気だったか?」

「ええ。変わっておりません」

ペールとは屋敷に帰ってきてから今まで再会できていなかった。ガイの荷物を纏めるため二人の私室に入ったがいなかったし、庭にいるのかと思ったが見掛けなかったのだ。俺の単なる見落としかもしれないが。
話を聞いてもらいたくて、旅の話をした。旅の最中屋敷には何度か寄ったしペールとも話したが、ちゃんと話ができていなかった。全てを話したというわけではないが、ペールは以前と変わらない朗らかな笑みを浮かべて聞いてくれた。ペールは何も変わってない。それがなんだか嬉しかった。そして、恐る恐る尋ねた。

「ペールはさ、俺を…憎んだりしてないのか?俺は本物のルークじゃないけど…」

「…もちろん憎むこともございました。ガイラルディア様から全てを奪い去った憎き者の息子…。ガイラルディア様がルーク様に殺意を持っていたように、いざとなれば、このペールめが寝首を掻こうとも…」

静かに、神妙な表情で語っていたペールはそこで一旦顔を上げると俺を見つめ、にっこりと柔和な優しい笑顔を浮かべて言った。

「…しかし、今はルーク様のことをお慕い申し上げております。成長されましたな」

「ペール…」

「それに、ルーク様はルーク様でございましょう?レプリカなど、お気になさらなくてよいのですよ」

ペールはそう言ってくれた。その言葉が有り難くて嬉しかった。ペールは俺を見てくれる。ガイと同じように。俺もペールが好きだ。
すると、こちらに近付いてくる足音が聞こえた。その足音の主は予想通りガイだった。腕には食材を抱えており、俺の隣にいるペールを見ると挨拶を交わした。少し話をしたが、ペールもガイに暇が与えられたことは知っていたようだ。ペールはどうするんだと尋ねると、まだ屋敷にいるらしい。どういう意図かはわからないが、何にせよペールが屋敷にいてくれることは俺にとっては有り難かった。話相手がいなくなることはないから。
ガイが料理をしてくれている間、ペールと話をした。平和で心地好くて、なんだか少し日常が戻ってきた気がした。もうあの頃のように世間知らずで傍若無人に振る舞う俺ではない。…自分は自分だと思えていた俺ではないのだ。それが少し、悲しかった。

それからあっという間に三日が経った。一瞬だったように感じる程早く。ガイとたくさん話した。ペールを交えてもたくさん。剣の稽古もした。十分とは言い難いが、俺の心が少し満たされた気がした。
ガイの出発を見送るため、二人の私室へお邪魔する。

「お、ルーク。見送りか?悪いな」

「いいって!当たり前じゃん」

そう言って俺はずかずかと部屋に入り、ガイのベッドに腰を下ろした。部屋を見渡せば、ガイの場所や机はすっきりしており、本当にここを去るんだという現実を実感させられた。こうして見るとやっぱり寂しい。ガイの場所をちゃんと見てみると、置きっぱなしのガイの音機関がちらほら目に入った。

「おいガイ。音機関忘れてるぜ」

「ん?ああ、忘れてるわけじゃないさ。置いてくわ、これ」

「何でだよ?大事なもんだろ」

ガイにとって音機関は命にも等しい存在…なのかどうかはわからないが、きっとそれに近い存在だろう。幼い頃にガイの音機関を壊してしまってこっぴどく叱られたことがある。本当に大好きで大切なんだということは深く理解している。そんな音機関を置いていくなんて、どういう風の吹き回しなんだ。

「その音機関見て俺を思い出してくれよ。好きにしてくれて構わないぜ」

「思い出してくれって、ガイのこと忘れるつもりなんてねぇぞ」

「はは、それもそうか。ま、置かせておいてくれや。俺の心が宿ってるからな。おまえの側にいさせてくれ」

ガイはそう言うと手荷物を持った。どうやらもう出発するらしい。時間を見れば出発時刻になっていた。ガイとこうしてこの部屋で談笑することはもうなくなるのだ。名残惜しいが、行かなくては。そう己を奮い立たせ、立ち上がった。

「ああ、わかった!そんなに言うなら俺の部屋にひとつ置いとく」

「そりゃ光栄だな。ありがとな、ルーク」

そう嬉しそうに笑みを浮かべて言うと、ガイは俺の頭を撫でた。しばらくこういった日常だった行為もなくなるのだ。寂しい。
父上と母上に別れの挨拶を済ませたガイと共に屋敷を後にし、港まで見送る。七年間共に過ごしてきた日々も今日で幕を閉じる。そう、七年間も過ごしたのだ。言葉にすると短期間に感じるが、思い返せばとても長い。走馬灯のように思い出が甦る。これからは、ガイがいない日々が幕を開けるのだ。

「この街ともお別れかぁ…長かったなぁ。すっかり愛着が芽生えちまった」

「七年以上もいたんだし、愛着沸いて当然じゃん!何だよ、芽生えちまったって」

「いや、最初は愛着なんて沸くわけないって思ってたからな〜…感慨深いよ。素敵な街で好きだぜ、バチカル」

「当然だろ!バチカルだぜ?」

「何だよ、バチカルだからって理由は」

いつもと変わらず話をして歩を進めていると、港が見えてきた。港には先にペールが到着していた。ペールは深々とガイに言葉を述べ、朗らかな笑みを浮かべた。ペールにとってガイは孫のような存在なのだろう。表情に寂しさが見え隠れしていた。そうして話をしていると、俺たちを遮るかのように船が出発の合図を告げた。

「とと、もうそんな時間か!乗り込まないとな」

「また遊びに来いよな!待ってるからな、ガイ!」

「ああ、おまえも遊びに来いよ!また連絡するよ、ルーク」

思い出と気持ちを握り締めた拳をお互いぶつけ合った。お互いの思いを、存在を確認して。交換して。
ガイがバチカルの地を離れ、船に乗り込んだ。それと同時に船が出航する。ペールと一緒にガイを見送る。大きな声で、大きく手を振りながらガイに別れを言った。ガイもそれに応え、同じく大きな声で大きく手を振りながら俺に別れを言った。腕が痛くなるまで、ガイが見えなくなるまで手を振り続けた。そうして、ガイの姿は俺の目に映らなくなった。
ガイは踏み出したのだ。新たな道を。俺も立ち止まってはいられない。一歩、踏み出さなければ。ガイが与えてくれた、歩き方を覚えたこの足で。




一歩、踏み出して




ファブレ公爵邸でぶらぶらしててガイの部屋じっくり見てたら、音機関が置きっぱなしなことに気付いてそれで思い付いたネタです。置きっぱなしじゃなくてシステム上ああいうふうになってるんでしょうけど、妄想のネタになりました本当にありがとうございました
2012.4.22


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