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Luke + Guy
許せないこと、許すこと
久々にシリアス要素がない小説







「ほんと、ガイが喜ぶもんばっかだなぁここは…」

俺は街を散歩がてらぶらぶらしながらそう呟いた。
俺たちは今シェリダンにいる。旅の途中の一休みだ。そんなわけで俺は気分転換に当てもなく街を歩いている。
シェリダンに泊まろうと言い出した時、視界の隅でガイが本当に嬉しそうなオーラを放ったのがわかった。周りに花でも舞いそうなぐらい。音機関好きのあいつにはこの街がたまらないのだろう。何年も音機関好きなあいつと一緒にいる俺にも音機関という物の良さはよくわからないが。宿に到着して早々ガイは弾かれたように街へ駆け出していった。音機関のことになるとガイは本当に子供になる。それほど好きということなんだろう。何にせよ、幸せな一時を過ごせるというのは素敵なことだ。
街の人に音機関について尋ねてみたりしたが、やっぱり俺にはよくわからなかった。ガイに尋ねると、興奮して話が止まらなくなるので余計にわからないから街の人に尋ねてみたのだが…せっかく答えてくれたのに、少し罪悪感が芽生えた。
そうだ。いつもの礼にガイに何か音機関をプレゼントしようか。と思ったものの何がいいのか音機関については全くの素人の俺にはわからない。だから店に入って聞くことにした。

「あの、すいません!今日、金髪のやつが来ませんでしたか?」

「金髪?爽やかなあの兄さんかい?ああ、あの人なら来たよ」

「あいつ、ここで何か買っていきませんでしたか?俺、あいつに何か買ってやりたくって…けど音機関に関しては全くわからないんで」

そう言うと店員は笑った。わからないのは当然だと。というのもここにある物はマニアックな物ばかりなんだそうだ。根っからの音機関好きでないとわからないらしい。話を聞けばガイは音機関を見つめ、迷いに迷って選んだ数個を購入していったという。どうも小遣いでは足りないみたいで断念した物があるようだ。俺の小遣いを店員に見せるとガイが断念した物は十分購入できるという。じゃあそれをガイにあげよう。どうせ俺には特に欲しい物はないから小遣いも使わないんだし。

「坊やには全然わからないと思うが、あの兄さんはきっと喜ぶさ!」

「そっかな…じゃあ、それ買った!」

「毎度あり!」

俺は支払いを済ませ、購入した音機関を受け取った。これでいつもの礼ができるといいな。そう思いながら店員に礼を言って店を出た。
特にすることもないので早々と宿屋に戻るために歩を進めていると、路地裏から小声で話している内容が聞こえてきたので耳を傾けてしまった。すると、よく知った人物の名が話題に出ていた。

「あのガイって野郎、うざいよな」

「あーわかるわかる。街に住む勢いだよなあいつ。相手するのだるいんだよ。さすがの俺たちでも引くっていうかさ」

「そうそう。音機関音機関って…うるさいのなんの。よくあんなやつと一緒にいれるよな」

「しかも紳士らしく振る舞っといて女性恐怖症とか。わざとらしいし、女にモテたいだけじゃねえの?」

それを聞いて俺はかっとしてそいつらに突っ掛かった。

「おいおまえら!今なんつった!?」

そう怒鳴り込むとそいつらは少し慌てたように、だけど軽蔑の視線を向けてきた。その目に腹が立った。視界が赤く染まっていく。怒りの感情しか芽生えてこない。ガイの悪口なんて、おまえら何も知らないくせに好き放題言いやがって。

「な、何てって…言った通りさ!あのガイって野郎むかつくんだよ!うるせーし女性恐怖症とか演技だろ!」

俺の心が徐々に黒く染まっていく。怒りの余り肩が震え出す。目の前の奴らには嫌悪感しか抱けない。何を勝手に決め付けているんだ。頭が沸騰したかのように熱い。拳を握り締めた。

「何も知らないくせに好き勝手言ってんじゃねぇ!さっきの言葉取り消せ!」

「何だよお前!なんか文句あんのか?俺たちがあいつをどう言おうと勝手だろ!」

「…うるせぇッ!!」

俺は激昂して奴らに殴り掛かった。もう我慢ならなかった。独断の偏見でガイの悪口を言う奴らが腹立たしくて憎くて。あいつがどんな思いをして生きてきたか何も知らないくせに。
一人が殴られると当然二人も俺に殴り掛かってきた。俺はそれをかわしてすれ違い様に一人の足を払う。すると面白いようにそいつは顔から地面へ突っ込んだ。ざまあみろ。そう見下していると最初に殴った奴が今度は体当たりをしてきた。俺は耐え切れずその場に崩れた。その隙を狙って一人が殴り掛かってきたが腕を掴んでそいつの仲間に向けて投げ飛ばす。二人が倒れ込んでいる間に一人をのしちまえばいい。そう思ってそいつの腹に蹴りを入れると咳込みながら膝を突いた。この間に後ろで倒れ込んでいた二人が殴り掛かってきているだろうと思いその場にしゃがみ込む。すると予想通りで俺の頭上を拳が通り過ぎ、膝を突いている奴を二人は殴って気絶させてしまう。一人撃破。と、少し油断してしまったせいだろうか。怒りに満ちた奴に一撃喰らってしまい口の中を切った。しかしそんなものはお構いなく俺は直ぐさま反撃に転じた。今度は二人が連携攻撃を仕掛けてきた。少し殴られたり蹴られたりしたがカウンターで一人を倒れ込ませた。後は一人。そいつをきっと睨み付けると怯えたように口を開いた。

「ど、どうせ図星だから殴り掛かってきたんだろ!?図星当てられると悔しいもんなぁ!」

「ふざ…けんなッ!!」

俺はそいつに全体重を掛けた怒りの篭った重い拳を喰らわせた。そいつはあっさりと仰向けにばたりと倒れ込んだ。こんなところか。ああ、胸糞悪い。倒れ込んだ三人を見つめそう思ったと同時に、俺ははっと正気に戻り血の気が引いた。

「あ…俺、何してんだよ…!」

路地裏でとはいえ喧嘩をしてしまった。シェリダンの人達にはお世話になっているのに俺はなんて短絡的な行動を取ってしまったのだろう。怒りで我を忘れていたとは言えこの街に住まう人を傷付けてしまうとは。どうしようと慌てふためいていると、突然俺の身体が少し宙に浮き、首に何かが掛けられた。

「よう坊主…やってくれるじゃねぇか」

後ろから声がした。と同時に首が締め付けられる。そして全てを理解した。俺の身体が宙に浮いたのは、今後ろにいる大男に持ち上げられているから。そいつの腕に首を絞められているんだ。

「可愛い子分に何してくれたんだ…?こいつらが一体何をしたってんだ!あぁ!?」

「それ、は……!あ…がっ…!」

理由を答えようにも首が締め付けられているせいかうまく声が出せない。とにかくこの状況から解放されようと大男に何とか後ろ蹴りを入れるがまるで効かない。何度も何度も繰り返すが大男は堪えていない。精一杯蹴っているのに。化け物かこいつは。その間にも俺の首は締め付けられていく。苦痛に顔を歪めた。徐々に呼吸が浅くなり、声を発することすらできなくなる。

「…っ…ぁ…!」

首を締め付けている腕にも必死に殴ったり爪を食い込ませたりしてみるがまるで歯が立たない。抵抗したせいか先程より首をより強く絞められ、一気に呼吸が不可能な状況に追い込まれた。苦痛のあまり涙が浮かぶ。視界が薄くなる。意識が朦朧とする。
もう駄目か。そう諦め意識を手放す寸前、突然苦痛から解放され地面へ倒れ込む。同時に大男も倒れ込んだ。一体何が起きたんだ。咳込みながらも振り向けば、夕日に赤く照らされたそこには。

「ガイ様、華麗に参上!」

「ガ、イ……おま、え…何、で…げほっげほっ!」

全てを言い切る前に俺は更に咳込んだ。呼吸が出来るようになったが突然だったため苦しい。するとガイが俺の横にしゃがみ込み、背中を摩ってくれた。その間にガイは辺りを見回し状況を理解したようだ。怒っているんだろうな。しばらくして呼吸が落ち着くと、ガイが口を開いた。

「ったく、この街で喧嘩するなんてどういうつもりなんだ?ルーク」

怒りが含まれた口調でそう責められた。当然だろう。ガイにとってこの街は特別なんだ。そんな街で騒ぎを起こされるのは不愉快に決まっている。ひどい罪悪感のため弱々しい口調で俺は事情を説明する。

「…ごめん。こいつら三人がガイの悪口言ってんのが聞こえて…カッとなって俺が殴り掛かったんだ。それでこの大男が子分に何してくれたんだって首絞めてきて…三人とも気絶させてから街で騒ぎを起こしちまったって事の重大さに気付いて…。謝っても謝り足りないけど、…ごめんなさい」

俺はそう言って大きな罪悪感でガイに目を合わせられず俯いた。あの時俺が聞き流せばよかったのに、突っ掛かってしまったから。怒りで周りが見えていなかった、なんて、言い訳にしかならない。あまりの罪悪感に押し潰されそうだ。ガイも呆れているに決まってる。するとガイが俺の頭に手を伸ばしてきた。殴られる。衝撃に備え思わず目をぎゅっとつぶるが、何も来ない。不思議に思い恐る恐る目を開くと、ガイは俺の頭を撫でた。

「ガイ…?」

「俺のために、ありがとなルーク。こんなこと言うことじゃないかもしれないが…おまえがそんな行動を取ってくれたなんて嬉しいよ」

ガイはそう言って笑みを浮かべた。疑問に思っているとガイがその疑問に答えた。仲間の悪口を言われて腹が立つのは皆同じ。だが言葉を取り消すように突っ掛かっていくなんてことをしてくれた。やり方に少し問題はあるが、傷付けられたのは自分じゃないのに危険な真似に出るなんて、その純粋な気持ちが嬉しかった。ガイはそう答えた。

「けど、時と場所と場合によっては聞き流すことも大事だぞ」

「…うん。ほんと…ごめん」

「ははは!もういいさ。街の皆には謝ろうぜ。こいつらにもな。俺も一緒に謝ってやるからさ。な?」

ガイはそういつものように笑い掛けてくれた。俺は社会的には悪い行いをしてしまったわけだが、その笑みを見て安心した。罪を認め、許してくれたひとがいる。それだけで安堵できた。ルークの傷の手当もしないとな、とガイは俺の身体を見ながら言った。そういえばそうだった。痛みもあまり感じず忘れていたのだが怪我を負っていたのだ。一旦宿へ戻り、傷の手当をすることにした。
宿へ戻るとティアがいたので治癒術を施してもらう。怪我の理由を尋ねられたので正直に答えれば、ティアは呆れた表情を浮かべたがすぐに笑みを浮かべ、あなたたちは本当に仲が良いのねと言った。
そして俺は街の人へと謝った。騒動を起こしてしまってすみませんと。すると街の人は皆口を揃えて気にするなと言ってくれた。むしろすっきりしたと口にした人がいたので詳しく話を聞けば、街の皆も腕はあるが乱暴者で人の陰口ばかり言うあいつらに困ってたらしい。そんなあいつらには俺たちが宿へ戻る前に意識を取り戻したので事情を話して謝ろうとしたのだが、その前に俺たちに怯え逃げていってしまった。そのことを街の皆に話せば爆笑の渦。あいつらのみっともない姿がよっぽど愉快みたいだ。逆にお礼を言われてしまった。それどころかお礼に音機関でも、と貰ってしまった。ガイはそれに大喜びだ。そうしてほくほくとしたガイと共に宿へ戻る途中に俺は思い出した。先程の音機関で何か胸に引っ掛かっていたことがあったのだ。

「そうだ!忘れてた!俺、ガイに渡すもんがあったんだ!」

「渡すもの?何だ?」

「ほら、これ。おまえが欲しがってたって聞いた音機関」

俺はポケットから取り出した音機関をガイに渡した。するとガイは興奮混じりに礼を言った。そして俺にはわからない単語を言い出す。また始まった。いつものことなので呆れながら聞き流していると、ガイが今度この埋め合わせをすると言った。

「おまえ、自分の小遣いでこれを買ってくれたんだろ?今度は俺もおまえのために何か買うよ」

「い、いいってそんなの!大体俺、欲しい物ってないし…」

俺はどの街へ行っても得に購買意欲をそそられるものがなく、小遣いを持て余している。本当に欲しい物がないのだ。趣味に使えと言われても趣味なんて剣術しかないし、かといっても剣は武器だから共通資金で購入しているし。だから俺に使うなんて何もない。しかしそう言ってもガイは引き下がらない。

「だったら飯でも奢るって!おまえが食いたいもん何でも頼んでくれていいぞ」

「うーん…じゃあ、そうする!」

「よし!決まりだな」

そしてお互いに笑い合った。ガイが困るぐらいいっぱい食ってやろう。そう思っているとガイが口を開いた。

「あ、そうだルーク。俺も言い忘れてたことがあるんだ」

「え、何だよ?」

「俺もルークの悪口を言われてたら、おまえと同じ行動を取ったかもしれない…ってな。それだけさ」

ガイは笑みを浮かべて片目をつぶった。俺の行動をフォローしてくれたのだろう。というより本気なのかもしれない。ガイは怒らせると怖い。それは俺が一番身に染みているしよく知っている。自分のことは構わないが仲間が侮辱されるのはガイにとって許せないことなのだろう。俺にとって許せないことと同じで。
月の光に照らされなお輝く金髪を持つガイを見て、ルークはガイを誇りに思った。いつまでも輝ける親友を。月の光に照らされ目立たずとも存在を知らせる鮮やかな赤髪を持つルークを見て、ガイはルークを誇りに思った。大切なことを胸に秘める親友を。









音機関を渡すのを忘れていたのは私です
短編になりそうと書き始めて結局短編になりませんでした詰め込みすぎなんだよいい加減学習しろよ!あたしってほんとバカ
2012.3.21


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