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Luke + Guy
雨が止む頃
シリアスでござんす。時間枠は第三部辺り





最近、気付いた…いや、気付いてしまったことがある。
誰もが産まれた日には、周りにいる人は皆が笑って泣いている。新たな命が誕生したことが嬉しくて、喜ばしくて。新たな『家族』が産まれたことがただ幸せで。その産まれた子を腕に抱き、誕生を祝い、泣いている。
しかし、俺が生まれた時、誰も泣いていない。喜んでいない。嬉しくもない。…祝われることすらなかった、命。
それどころか、誰も俺が生まれたことに気付かなかった。俺はアッシュの…被験者のレプリカで、代用品。存在を祝われるどころか否定される。俺自身も自分の存在にすら気付かなかった。『ルーク』ではなく『模造品』だと知ったとき、俺は自分の命を、生を疑った。何故俺は生きているのだろう。生まれたのだろう。ここにいるのだろう。存在意義がまるで理解できなかった。
俺は、一体何なのだろう。




「ガイと散歩なんて久しぶりだなー」

「確かにそうだなー。ここんところ忙しかったしなあ」

「だなー」

俺たちは今グランコクマにいる。旅の途中、久々に自由行動を取れることになったのでとりあえずグランコクマで一服しようという話になり、今に至る。
本当にガイと散歩するなんて何時ぶりだろう。屋敷にいた頃はしょっちゅうしていたが、旅を始めてからはそんな暇もなかったから随分と久しぶりだ。ガイとふたりでゆっくりできることが俺は嬉しい。たくさん話せる、一緒にいられる。だから。
何気ない話をしながらあてもなく歩を進めていると、とある家から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

「ん?なんだろ」

「覗いてみるか。すいませーん」

「あっおいガイ!」

ガイを止めようとしたがそれは叶わず、時既に遅し、家の人は扉を開けこちらを向いていた。扉を開けた男性の目には涙が浮かんでおり、疑問を抱いているとガイが尋ねた。

「どうかしたのかい?」

「おお、ガイラルディア様!ようこそいらっしゃいました!」

「へ?知り合いなのか?ガイ」

「ああ、グランコクマに屋敷を構えてから親しくなってな」

ガイは今、貴族としてグランコクマに住んでいる。ピオニー陛下やジェイドからこき使われていると聞いているが、実際そうなのだろう。さっきだってそうだ。道行く人がこちらへ視線を向けていたのだから。ガイはいつも街を駆け回ったりしていたはず。それに加えてガイには社交性がある。その内に街の皆と親しくなったのではないだろうか。
男性が嬉しそうな表情を浮かべながら涙ながらに話し始めた。

「わたくし、今日父親になったのでございます!うれしくてうれしくて…!」

「そうか!それはおめでとう!」

ガイは男性の肩に手を置き、嬉しそうに祝いの言葉を口にした。どういうことかわからずぽかんとしていると、ガイが教えてくれた。

「つまり、子どもが産まれたってことだよ」

「え!?そうなのか!おめでとうございます!」

「君もありがとう!ガイラルディア様も是非ご覧になっていかれてください!」

「ああ、そうさせてもらうよ」

そう言われお邪魔すると、母親らしき人が産まれた赤ん坊を腕に抱きながら、笑顔を浮かべ涙を流していた。周りにいるのは助産師だろうか。彼女たちも涙を流していた。皆、笑顔を浮かべて。

「あら、ガイラルディア様!うちの子、無事に産まれましたよ!」

「ああ、おめでとう!はは、君に似て可愛らしい子だ」

「そうでしょうそうでしょう!はははっ!」

そう言って母親も父親も本当に嬉しそうに笑う。彼女の腕の中にいる赤ん坊も命の泣き声を上げていた。
新しい命が、家族が誕生したのだ。嬉しく思うのは当然だ。喜ばない人はいない。そして二人とも、赤ん坊に向けて「生まれてきてくれてありがとう」と口にした。そうして頬に愛情の込められたキスをした。彼らはまた新しい人生を歩むのだろう。幸せな家庭を築いて。非常に喜ばしいことだし、他人である俺も嬉しかったのだが、少しだけ胸がもやもやした。
それから少し彼らと話をして、家を出た。

「散歩に出てよかったなールーク!幸せな瞬間に出会えてさ」

俺は、望まれていない命なんだ。あの子や、今もどこかで産まれてくる子と違って…泣いてくれる人も喜んでくれる人もいなかった。俺はただ生み出された…いや、創り出された存在なんだ。ガイやあの子たちと同じ人の命では、ない。生きているようで死んでいる命。心には何もない。どうして生まれてきたのだろう。必要とされているけど、されていない。俺の命って、一体なんなんだ。

「…ルーク?聞いてるか?」

「……」

「おい、ルーク!」

「…っ!な、なんだ?ガイ」

ガイに肩を揺さぶられて初めて話し掛けられていたことに気付いた。慌てて返事をするが、ガイは訝しげに俺を見てきた。その視線が、今の俺には痛かった。存在を疑われているような、そんな気がしてしまって。

「…おまえ…」

「あ、えっと、ごめん!ちょっと用事思い出しちまったから先に帰るよ!」

「あ、おいルーク!」

適当に理由を付けて俺は逃げ出した。これ以上一緒にいてしまうと、信じられなくなってしまいそうで怖かった。最悪だ。最悪だ。親友を疑ってしまうなんて。信じると誓った親友を。救いようがない。
俺はただ、街を駆け抜けた。瞳から何かが溢れ出てきた。何でもない、何でもないんだ。そして、雨が降り出した。空から、瞳から、心から。



「あれ、ルーク…帰ってきてないのか…」

宿に帰ると、ルークがいなかった。部屋を見ても帰ってきた様子はない。外は相変わらず雨が降り続いている。
雨が降り出したのは、ルークが先に帰ると言って半ば逃げるように俺の前から走り去ってからだ。本来ならルークは宿に着いていてもいいはず、というか当然なのだが。どこに行ってしまったのだろう。あの時のルークは、明らかに様子がおかしかった。…何を考えていたのか大体予想はつくが。
とにかく探しに行くか。そう思い、傘を手に外へ出た。




あれからどれだけの時間が経ったのだろう。雨は強くなり続ける。止む様子はまるでない。俺の心も、瞳から溢れるものも。
雨が降り始めて街の人々は慌てて帰路へついていく。家に入っていく。それが俺を拒絶しているように思えてしまって。すべて被害妄想なのに。俺は何を考えているのだろう。
俺は、最低だ。あの赤ん坊に嫉妬したのだ。俺が言ってほしい言葉をあんなに簡単に言ってもらえることができて。俺がいくら強く望んでも手にできないもの。
ぼんやりと空を見上げた。雨が俺の汚れた心を洗い流してくれるようで。もう涙なのか雨なのかわからないぐらい濡れてしまった。
ガイの前から逃げて、それから今までずっと街の隅っこに座り込み膝に顔を埋めている。道行く人は俺に気付かない。人が少ないせいもあるけど。もう雨が冷たいとも思わなかった。きっと風邪を引くだろうな。熱も出るんだろうな。みんな呆れて世話もしてくれないんだろうな。それでも、よかった。今の俺は、そこにいるだけ。それだけでもよかった。けど、足りないものがあった。満たされないものがあった。
俺はなんて我儘なんだろうと思った。
雨は、止んでくれない。
しかし、突如として雨が降らなくなった。雨音はするのに。何だろうと思い、顔を上げてみれば、そこには。

「…よっ、ルーク」

「……ガイ……」

ガイが、そこにいた。俺に傘を差して、いつもと変わらない笑顔を浮かべて。
よく見ればガイの両肩や足のあちこちが濡れていた。街を走り回っていたのだろう。…俺を、見つけるために。

「こんなとこにいたのか、ルーク。どうりで探しても探しても見つからないわけだ。手間かけさせやがって…ほら、帰るぞ」

ガイがそう言って俺に手を伸ばす。俺に傘を差しているせいかガイの身体が濡れていく。俺のことなんていいのに、もうびしょびしょなんだから。いくら濡れても変わらないのに。どれだけ涙を流しても何も変わらない。そう伝えようとしたけど、何故か声が出ない。だから大人しく手を伸ばした…けど、掴んでいいのだろうか。こんなどうしようもない俺が、最低な俺が、ガイの暖かくて優しい手を掴んでいいのだろうか。こんな汚れた手で。手を引っ込めようとすると、ガイが強引に俺の手をつかんだ。

「ほらっ、さっさと行くぞ!風邪引いちまう」

そう言ってガイは俺の手を引っ張って立ち上がらせた。そうして隣に並んで、宿屋へ向かって歩き出す。俺に傘を差してくれているせいかガイの身体はあっという間にびしょびしょになった。それに更なる罪悪感を覚えた。しかしガイは気にする様子はなく、前を見続ける。…俺は、前を向けない。すると、ガイが口を開いた。

「…生まれてきてくれてありがとうな、ルーク」

「…へ……」

突然すぎて、頭が真っ白になった。
今、ガイは何て言った?俺が欲しかった言葉を。

「…ガイ、今、なんて…」

「お、やっとまともに喋ったな?言葉の通りだよ。おまえがここにいてくれて、俺は嬉しいんだよ、ルーク」

ガイはそう言って俺の方へ視線を向けた。そして続けた。

「確かにおまえが生まれた時は、誰も泣かなかったかもしれない。喜ばなかったかもしれない。けど、おまえの生を喜ぶ人は、ここにいるぞ。俺だけじゃない。ティアやナタリア、ジェイドやアニスも、おまえがいてくれることが嬉しいんだ」

「大事なのは生まれたときに喜ばれるとかそういうんじゃない。今ここにいることを喜んでくれる人がいる、認めてくれる人がいる、大切に思ってくれる人がいる。そういうことじゃないのか?」

「…ガイ……」

ガイは笑顔を浮かべた。
…確かにガイの言う通りかもしれない。例え産まれたときに喜ばれても、存在を認められても、ずっと喜ばれるような命でない場合だってある。死を望まれることだってある。
けど、そんなこともなく存在を認めてもらえていて、喜ばしいことだと言われることは、なんて幸せなことなのだろう。

「だからさ、生まれてきてくれてありがとうな。ルーク。おまえがいてくれるから、今の俺がいるんだ」

そう言ってガイが俺の頭を撫でた。お互いに雨で濡れているからか冷たかったけど、ガイの暖かさが伝わってきた。いつも優しくて、俺の存在を認めてくれる。こんな親友が側にいたのに、どうして気付かなかったのだろう。俺はバカだ。いつも自分のことばっかりで、周りに目を向けていなくて。ガイはいつも、俺が望むものをくれるじゃないか。

「これからもずっといてくれよ?いてくれないと、俺、悲しくて泣いちまうぞ?」

「…ああ…っ!」

声が震える。視界が滲む。けどなんとか返事ができた。…涙を流しながら。
降り続ける雨に紛れて涙が流れ出てくる。視界が滲むのは雨のせいだ。涙のせいなんかじゃない。

「ほら、前見ろルーク!もうちょっとで宿だぜ。帰ったら風呂入らねぇとな。風邪引くぞ」

「……っ…」

「ははは、寒くて震えてんのか?なら急ぐかルーク!」

そう言って傘を畳んでガイは俺の手を引き走り出した。こちらを向かずに。涙に気付かないふりをして。ガイのいつもの態度が、うれしかった。
ガイの言葉で、救われた。俺を闇から引きずりあげてくれた。だから俺は前を向いて進めるんだ。
雨が、止んだ気がした。





雨が止む頃




それは、ガイが俺を迎えに来てくれる時。





KOKIAの曲聞いててふと思い付いたネタでした。何聞いてたんだっけなあ
私からもルークに生まれてきてくれてありがとうと言いたいです。゚(゚^o^゚)゚。
2012.3.6


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