[携帯モード] [URL送信]

Yuri × Flynn
ここにいる
『手を伸ばせ』の続きになります!ようやく完結です
また長いですがよければどうぞ!






「あーやっと任務終わった…」

「今日はさすがに疲れたね…お疲れ様」

「ああ、フレンもな」

アンカに叱咤された日から数日後、騎士団は任務帰りで下町を歩いていた。オレはいつものように下町の皆に雇われて帰る途中だった。そんな時に二人を見かけたのだ。そして、汚れを知らないであろう碧色の瞳と目が合った。

「あ、ユーリじゃないか!」

「へ?お、ホントだ」

「よ、お疲れさん」

先に声を掛けてきたのはフレンだった。フレンは満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。この前のような偽った笑みではないことに安堵感を抱く。きっとアンカが何か言ったのだろう。

「ユーリ!久しぶりだね」

「そうだな、フレン」

それは眩しいくらいの笑顔で、騎士団内でもこの笑顔を振り撒いているのかと思うと心配になる。誰かに狙われていないだろうか。まあその辺はアンカと他の仲の良い奴に任せているし、大丈夫だろうが。
同期の騎士が二人に尋ねた。

「フレン、アンカ。俺達は先に戻るけど二人はどうするんだ?しばらくユーリと話してるか?」

「あー先に行っててくれ」

「話したいこと、たくさんあるからね」

二人がそう答えた。
フレンがそう言ってくれて、オレは嬉しくて不覚にもにやけてしまった。アンカが苦笑いしつつ見てきたが気にしない。

「おう分かった。じゃあユーリ、二人を頼むぜ!」

「二人じゃなくて、フレンだけな」

「はは、そうだな!またな!」

「フレンだけとか酷いってユーリ!俺も頼むわー」

アンカの情けない声を無視して、去って行く騎士達に軽く手を振った。あいつらもまた相変わらずのようだ。

「あ、ユーリ。俺らはもう準備万端だぜ?あとはユーリだけだ。やれるよな?」

「オレを誰だと思ってんだよ」

オレは不敵な笑みを浮かべ答えた。
そう、数日前に話していた通り、オレ達はフレンを助け出す。フレンのために。どうやらアンカ達は既に水面下で行動していたようだ。となればオレがフレンに手を伸ばさせ掴めば、直ぐさま行動できるわけだ。
フレンはオレとアンカが何の話をしているのかわからず、何のことかと首を傾げ尋ねてきた。オレもフレンに話してえことが山ほどあるんだと言いごまかす。話したい事があるのは事実だが。

「そんじゃ俺は下町ぶらついてくるわ。たまには二人水入らずで話しとけよ!」

アンカが気を遣ってくれたことに心の中で感謝する。親しいアンカといえど、第三者がいるとさすがに話しづらくなる。その気遣いを受け取り、フレンに気付かれないようアンカに目配せすると、彼も目配せで返してきた。つくづくこいつは良いやつだと思う。

「アンカがそう言うなら、お言葉に甘えようかな」

「そうだな。じゃあアンカ、また後でな」

「ああ!しっかりやれよ!」

「言われなくてもわかってるっての」

そしてアンカは下町の噴水広場へと去って行った。下町の皆はオレ達を自分の息子同然に育ててくれた。下町にとってもアンカにとっても有意義な時が過ごせるだろう。
アンカの発言にフレンは怪訝そうな表情を浮かべたが、そのことに気付かない振りをし、オレの部屋へと誘った。




「ここに来るのも久しぶりだね」

「お前が来るのは二ヶ月ぶりぐらいか。あ、フレンはジュースでいいよな?」

「うん、お願いするよ」

そう言ってフレンはオレのベッドに腰を下ろした。この前フレンがここを訪れたときも、椅子に座らずベッドに座ったので疑問を抱き尋ねれば「この方がユーリを感じることができるから」とさらりと答えたのだ。どこまで鈍感で無意識なんだこいつは。まあそんなところが好きでもあるのだが。

「待たせたな、ほら」

「あ、ありがとうユーリ」

フレンは待っている間オレの部屋を見渡していたようだ。見慣れていて見るものなど何もないだろうに。オレもフレンの隣に腰を下ろした。

「任務は順調か?」

「もちろんだよ。ユーリは?」

「ま、それなりにやってるぜ」

「それなりにじゃなくてしっかり頑張りなよ」

「オレにとってはそれなりがしっかりなんだよ」

「何だいそれ?」

そうしてフレンと笑い合った。久々にフレンの柔らかな笑顔を見て癒される。この笑顔を見れなくなってから、騎士団を脱退したことを少し後悔した。いつも彼の笑顔に励まされていたのだ。そんなことを思いながら見ていれば、今のフレンの顔色は優れない。ストレスか疲労か。どちらにせよ助けてやらねばなるまい。
数日前にアンカから聞いた話では、フレンは何も言わないらしい。明らかに暴力を振るわれているのに。アンカの推測によれば、おそらくフレンは口止めされているとのことだ。仲間思いのフレンの性格から、話せば皆に危害を加えるとでも脅されたのだろう。それでも皆に言えばなんとかなるかもしれないのに。フレンは一人で全てを抱え込もうとしているのだ。何のための仲間なんだと問い掛けたくなるが。

「フレン、腕見せてみろ」

「へ?」

突然のことにきょとんとするフレン。ごまかそうとしているのか、それとも本当にわかっていないのか、おそらくは前者だ。明らかにフレンの目が泳いでいる。

「いいから」

「うわっ、ちょ…!」

抵抗するフレンの袖を捲り上げると、そこには数多の痣があった。ここまで酷いものだとは想像しておらず、オレは絶句した。
フレンはというと、大きく目を見開き驚いていた。オレが知るはずないとでも思い込んでいたのだろうが、長年の付き合いだ。多少の変化はすぐにわかる。

「ユーリ…知ってたんだね」

「お前が抱え込む性格してるぐらい知ってるっての。今日はそのことも、話すことが色々あるんだよ」

そう言うとフレンは諦めたように苦笑いを浮かべ、肩を落とし「そっか」と呟いて少しずつだが今までのことを話し始めた。


まずオレ達が貴族に目を付けられたのは騎士団に入隊して二ヶ月ほど経った頃。オレもフレンも新米騎士にしては才能があり目立っていた。長髪のオレ、金髪のフレンという容姿も目立っていたせいか、すぐに記憶されたのだ。
それから数週間後、オレとフレンは当初は子供がするような嫌がらせを受けていた。疎ましいとは思ったが相手にするだけ無駄だと徹底して無視を続けたのだ。その態度も気に喰わなかったのか、嫌がらせは徐々に陰湿になった。だがそれも気にすることなく騎士団で過ごし続けた。
さらに数週間後、オレが騎士団を脱退したと耳にした貴族はフレンに狙いを定めた。日に日に嫌がらせは陰湿さを増していった。フレン自身は気付いていないだろうが、優秀で着実に経験を積み重ねて昇進していくフレンの姿が、貴族にとっては目障りだったのだ。だが貴族の中でもいい奴はいた。友好関係にあった奴らがあまりにも見苦しい行為をやめるように説得したのだが、その貴族は聞く耳を持たなかった。
そしてそれから一ヶ月ほど経った頃であろうか。事件は起きた。
フレンが食事に入れられた毒を気付かず食べてしまい、高熱を出し倒れたのだ。以前のフレンなら気付いたのではないだろうか。フレンは精神的にも少し疲れていたこともあり、五日ほど寝込んだ。
嫌がらせはエスカレートしていき、暴力を振るわれるようにもなった。もちろん普段のフレンなら返り討ちにするであろう。フレンもそのつもりだったのだが、貴族共はこう言ってきたのだという。

「俺達を殴ったらどうなるかわかる?」

「シーフォの弱っちいお仲間さん達にも同じことしちまうぜ?」

そう言って下品に笑う貴族共。仲間達のことを弱いと言われて黙っているフレンではない。怒りを覚え噛み付くように言い返した。

「僕の仲間は弱くなんてない。弱いのはお前達だろう!権力に頼るしかないんじゃないのか?」

それを聞いた貴族はくすくすと笑う。フレンが「何がおかしい」と言うと、すんなりとこう言葉を返した。

「その通り!権力に頼るんだよ」

「お前が俺達を殴れば傷害事件として提出して、俺達の権力でお前の仲間を辞めさせんの。これわかる?」

「俺達が殴ったことは言ってもムダ。世間的にもそれなりにでかい貴族で信用もあるし、表向きは良い子ちゃんにしてるから誰も信じねえよ」

フレンは愕然とした。
なんだこいつらは。開き直ってるだけじゃないか。どんなに威張ろうと偉くても、結局は権力に頼るしかないなんてただの負け犬じゃないか。どうしてこんな奴らが騎士団に存在しているんだ。

「だったら…っ…僕を辞めさせればいいだろう!何故皆を巻き込む必要がある?!」

フレンはそう叫ぶように問う。すると貴族の一人がフレンに近付きフレンの顎に手を当て、くい、と上げさせた。歪んだ口元から発せられたフレンの問いに対する答え、それは――

「フレン・シーフォ。お前のその希望に満ちて前しか向かない忌まわしい顔が、絶望に染まっていくのを見たいからだよ」

「…っ!!」

フレンは目を見開いた。残念ながら貴族の言う通り従うしかない。周りを巻き込むわけにはいかないから。貴族はフレンの仲間思いな性格を逆手に取ったのだ。怒りに震える拳を奴らに浴びさせることもできず、フレンはただ立ち尽くした。

「結局は、身分なんだよ。汚らわしい下町生まれの下衆めが」

そう言うと貴族はフレンを痛め付けていった。
その行為は日々続いていった。貴族のストレス解消にもなっていたのだろう。ユーリは少しばかり殺意を覚えた。
それからオレが偶然見掛けた貴族に責められていたところ。フレンはとにかく早く立ち去りたかったと言う。こんな情けない顔をユーリに見られたくなかった。偶然だが助けてくれたことに対する嬉しさと、ユーリを巻き込んでしまった罪悪感がせめぎ合い、感情がぐちゃぐちゃになった。だから逃げるようにその場を去ったのだ。ちゃんと笑えたのかと不安でたまらなかった。
けど、本当は会いに行きたかった。下町に行けばユーリに会えるけど、自分の情けない姿を見てほしくなかったから行くことはできない。そこで思い付いたのが手紙だった。手紙なら顔を見られる事もなく、悟られる事もないからユーリに心配をかけることもないだろう。だから送り続けた。ユーリから返事が来ないことをわかっていながら。ただの自己満足だった。やり場のない感情をどうすればいいのかわからなかったのだ。そうフレンはつらそうに語った。
後のことはアンカに聞いた通りだ。フレンを助けるために行動したが、逆撫でることにしかならずフレンをさらに傷付けてしまった。アンカはそう悔いていた。
だが今日はフレンの傷を癒す。いや、癒すことはまだ無理かもしれないが、助けるのだ。アンカは準備はできていると言ったが、一体どんな方法を取ったのだろうか。とにかく、それを無駄にしないためにも、フレンのためにも、オレが繋げなければ。そう思い、話し終え俯いたままのフレンに話し掛けた。

「なあフレン。もしお前と同じ状況にオレがいたとしたら、お前はどうする?」

「な…助けるに決まってるじゃないか!」

オレの問いにフレンは驚いた表情が浮かんだ顔を上げ即答した。フレンは自らの立場を理解しているようでしていない。だから客観的に考えさせればわかってくれるはず。そのためフレンの位置をオレに例えた。オレがそんな状況になるなんて万が一にもありえないが。
フレンの瞳を見つめオレは続けた。

「それを助けられないのが、そいつが助けを求めてくれないのがどれだけつらいか、わかるか?」

「…っ!」

そう言えばフレンは息を呑んだ。どうやらようやく理解してくれたらしい。フレンが傷付くことで周りの皆も傷付くのだ。助けられない、自分達は力不足で無力だと自責して。追い詰められているのはフレンだけではなかった。実際オレやアンカも焦りを感じていたのだ。
フレンは黙って俯いた。口を開こうとしないのは人間の防衛本能なのだろうか。そこは踏み込まれたくない領域であり、しかし助けてもらいたい思いがあり揺らいでいる。自らが犠牲になれば他の皆は傷付かないと思っていたのに傷付けてしまっていたなんて。そんな未熟な者が助けを請うてもいいのか。フレンはそう迷っているのだ。

「フレン」

オレはベッドから立ち上がってフレンの前に立ち、彼の名を呼んだ。そして、手を差し延べる。
フレンはゆっくりと顔を上げ、オレの手を見つめた。その瞳は悲しみや自身に対する怒りで染められていたが徐々に穏やかに、そしていつもの澄んだ綺麗な瞳になった。

「ユーリ」

オレの名を呼び、一息をつく。彼の口から発せられた言葉、それは――

「助けて、くれ」

手と手が触れ合った。
どんなに手を伸ばしても届かなかった。彼がこちらの手を掴まないから。頼ろうとしないから。だが今は頼ってくれた。彼はようやく助けを求めたのだ。そんなフレンの手を引っ張り、優しく抱き寄せた。

「世話かけさせやがって」

「うん…すまないユーリ。ありがとう…」

「礼を言うのはまだ早ぇぞ」

するとタイミング良く、ノックの音が聞こえた。扉を開けるとそこには――


続き>>


[古]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!