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いつまでもともに
11―4


翌日。俺様は先日貰った書類を提出する為に、それから今まで世話になったと礼をに言いに行く為に、加えて先日スーツのまま帰宅したためバイト先へ置いてきてしまった私服を取りに朝からバイト先へ向かうことにした。無事に次のバイト先も見つかったのだし。
ちなみに次のバイトはお館様が経営する会社の系列である居酒屋だ。当初は皆と協力してバイト先を探していたのだが中々良い条件が見つからず、お館様に助言を頂こうと旦那がお館様に電話を入れたことで、あっさりと決定したのだ。ならばワシの系列の店で働くがよい、と。更にそこの居酒屋の店長はあの鬼島津らしい。奇妙なところで巡り会うものだ。

「さてと。それじゃ旦那、バイト先に最後の挨拶してくるよ」

「待て、俺も行くぞ!佐助が世話になったなら俺が世話になったも同然だからな!」

旦那が準備万端でそう言い俺様を引き止めた。こうなったら旦那は断っても強引についてくるだろう。仕方ない。思わず溜息をついた。

「…はぁ…できれば会わせたくないんだけどなァ…」



旦那と共にバイト先へ歩を進め到着すると、旦那が道場破りの如く大声を発しそうだったので俺様が慌てて先に店に入り、旦那に上がるように勧めた。危ない危ない。
奥へ歩を進めれば、そこには仕事仲間達がいた。この時間は営業時間外のはずだが。うちの店の営業時間は第一部と第二部の二つある。夕方五時から七時までの第一部と、八時から十一時までの第二部という構成だ。訳ありな奴も働いている為寮も完備されている。だから何故彼らがここにいるのか。心で呟いたその疑問は彼らが答えてくれた。送別会と評して俺様を見送ってくれるらしい。その行動に俺様の心には少しじわりと何かが染み込み広がった。

「佐助、こちらの方々は?」

「ああ、旦那は初めてだったね。こいつらが俺様の仕事仲間だよ」

「なんと!そうでござるか!お初にお目に掛かる。某、名を真田源次郎幸村と申す。佐助が世話になったようで、まこと感謝致す!」

旦那は初対面である彼らに礼儀正しく挨拶をし、深々と頭を下げた。それに対し慌てて仲間達も頭を下げ挨拶を返した。続けて彼らは口々に言葉を述べる。「ござる?武士口調?かっけー!」と旦那の特徴的な口調に驚く者、「こちらこそ今まで佐助の飯には…いやいや佐助にはお世話になって」と普段通り軽い調子の者、「アンタの話は佐助先輩からいつも聞いてるッスよ」と何気にカミングアウトしてしまう者。俺様が仲間達に旦那のことを頻繁に話していたことが旦那にバレたではないか。
松永はまだ店にいないらしく、それまで暇だし送別会を始めようと提案した奴の通り俺様達は早速送別会を始めた。
普段は口にできないご馳走が机上に並べられている。中には形が崩れているのがあり、仲間達が懸命に作ったというのが伝わり思わずくすりと笑った。素直に嬉しくもあり、照れ臭くもある。俺様は仲間達と談笑しつつ食事を進めた。
しかしこうして旦那と仲間達が並ぶ絵面は可笑しくて笑いが込み上げてくる。真面目で硬派な真田の旦那と、主に不真面目でちゃらちゃらしている俺様の仲間達。全くの正反対なのだ。
俺様は仲間達との談笑を一時中断し、旦那の方に歩み寄った。

「どう?旦那。楽しんでる?っつっても俺様のために開かれた会だけどさ」

「おお、佐助!此処の方々はみな気さくで良いお方ばかりだな!」

旦那は俺様を視界に捉えると目を輝かせそう答えた。ここが旦那にとって破廉恥な場であることを忘れ去っているのではないだろうか。けれど不快感を抱かないのならよかった。俺様は安堵の息をついた。
すると先程まで旦那と談笑していた奴が思い出したように旦那に尋ねた。

「あ、そういえば幸村くん、佐助のプロフィール知ってる?」

「…と、おっしゃいますと?」

「やっぱ知らないかぁ。はい、これ」

首を傾げ頭に疑問符を浮かばせる旦那に、こいつは一枚の紙を手渡した。それをちらりと見ると俺様は思わず吹き出してしまった。何故ならそれは、俺様のプロフィールが書かれた物だったからだ。
うちの店では各々のプロフィールが掲載されている。生年月日や身長と体重、趣味や特技、好きなタイプなど。客に対しての情報だったりアピールだったり様々だ。俺様の好きなタイプの欄には、純粋無垢で癒し系、と書かれていた。旦那に掠っているようで掠っていない。そういえばこんなこと書いたっけとぼんやり思い出した。

「っていうか俺様こんな写真いつ撮ったんだろ。全然覚えてないわー」

「ここに来た頃じゃないか?これ以上ないどや顔しやがって」

「えーいいじゃん俺様かっこいいんだしさぁ!ね、旦那」

「うむ…それは当然なのだが、指名料など随分値段が高いのだな…」

俺様のプロフィールに釘付けの旦那は俺の問い掛けにさらりと答えた。当然と言われ少々気恥ずかしい。が、態度には出さず旦那の疑問に答えようとすると先に仲間が答えた。

「ああ、それね。佐助はうちの店じゃ人気が一番なんだ。だから指名料がお高いんだよ。ここら周辺の店を入れても、確か一番じゃなかったかな」

「な、なんと…!凄いぞ佐助!」

「へへ、そりゃどーも」

旦那の褒め言葉に少し照れながらも、鼻の下を擦りながら答えた。自慢じゃないが人気はぶっちぎり。それもずっとだ。他にも勿論人気の奴はいるが俺様が飛び抜けているのだ。女性達にうまく取り入ってきた結果だ。女なんて単純なんだから。と言うと非難を受け兼ねないので心に留めておくが。
それからしばらくして送別会も終幕に近付いた時、誰かが店内に入ってくる音が聞こえた。ゆっくりと優雅に姿を現した彼に、旦那は大きく目を見開き驚愕した。

「貴殿は…松永…久秀、殿…ッ!」

「おや、私の事をご存知だったか」

「あ、あー、ええ。ちょっと話したんで」

俺様は咄嗟にそう言った。仮に松永が前世の記憶を持ってないとしたら怪しまれてしまう。旦那はぎこちなくも挨拶をし頭を下げた。

「し、失礼致した。某は真田源次郎幸村と申す」

「私も卿を存じ上げているよ、幸村君。佐助君から話はよく聞いている」

松永が真意の読めぬ笑みを浮かべそう言葉を返すと、旦那は再び驚き、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。まさか俺様が話をしていたとは予想外だったらしい。旦那の知らないところで俺様はよく旦那の話をしているのだが。

「佐助君がそれ程深く付き合う人物がどのような者なのか、実に興味深かったのだが…ふむ。それを今、理解したよ」

松永がそう言いつつ値踏みするかのような視線を向けた。居心地を悪く感じた俺様は、その視線からさりげなく旦那を背後に庇う。すると松永はふっと笑った。それに対して俺様が怪訝な表情を浮かべると彼は謝罪を述べた。

「いや失礼。どうも不思議な安心感が芽生えてね。佐助君は幸村君の話題を出すと、とても幸せそうにしていたのだよ」

「ちょ、ちょっと松永サン余計なこと言わなくていいって!恥ずかしいじゃん!」

「まことか?佐助。俺は嬉しいぞ!」

「だぁ!もう!またバレた!」

旦那と俺様のやり取りを遠巻きに見ていた奴らのくすくすという笑い声が耳に入ってきた。羞恥と照れでそいつらに声を上げ文句を言えば、口角を上げながらも黙った。仕方のない奴らだ。
ふふ、と含み笑いを漏らした松永が口を開く。

「ともかく、だ。二人ともお幸せに、ね」



「佐助、松永殿には前世の記憶があったのか?」

「いや…俺様にもわからないんだよ。あいつは行動が全く読めない。記憶があったのかなかったのかは定かじゃないよ」

旦那の疑問に俺様はそう答えた。今までの行動を思い返してみても、記憶についてはわからない。これから先、顔は合わさないだろうし、直接尋ねたとしても曖昧に答えるだろうから、真実は闇の中だ。
旦那と俺様は既に帰路についていた。あれからまたしばらく皆と談笑した後、お開きとなった。長期間働いたあの場も、仲間達と離別するのも名残惜しく、少し寂しく感じた。環境も良く、仲間達もいい奴らばかりだったから。最後に礼を言い、俺達は店を後にしたのだった。

「そういえば佐助。お前は何故このバイトのことを隠していたのだ?」

「うーん…何て言うかな…破廉恥!って騒ぐだろうしってのも理由の一つだけど、何より旦那が汚れちゃうような気がしたんだよね」

「汚れる?どういうことだ?」

「んー、旦那はわかんなくていいの」

そう言うと旦那は納得しかねた表情を浮かべたが、佐助がそう言うなら、とそれ以上は踏み込んで来なかった。俺様自身もうまく説明できる自信がないので、それが有り難い。
すると旦那が考え込む仕種を見せたので俺は何かと尋ねた。旦那は口を開き、さらりと驚きの発言をした。

「いや…あのような店に行かずとも、金を払ったりせずとも、ずっと佐助と居られる俺は幸せ者だな、と思ったのだ」

「……も、旦那ってさ…」

俺様は旦那の言葉に思わず赤面した。それを隠すように片手で顔を押さえた。相変わらず旦那は笑顔で恥ずかしいことをいともたやすく言ってくれる。
男前で女性を無意識に口説き落とせそうだと思いきや、恋愛事には耐性が皆無でそもそも女性が苦手。一瞬で赤面し破廉恥だと騒ぎ立てる旦那は可愛いものだ。
その他にも可愛い一面がある。俺様しか知らない一面だって。勿論格好よさもある。彼の優しさも、強さも、弱さも、愛し方も、生き方も。全てが愛おしく感じる。ずっと側で見てきたのだ。そうして思い返し、再度自覚した。
俺はやっぱり、このひとが好きだ。









ようやく佐助視点の前世の話。幸村のと比べてえらいあっさりしてますが
ひろしの台詞、宴で佐助に言う台詞なんでこの話だと時間枠的におかしいけど、死ぬ以前にどこかでひろしに会った時に言われたってことで(´∀`)
ひろしが記憶を持っていたのかそうでなかったのかはご想像にお任せします。
ちなみにホストの店の営業時間やらプロフとかは実際にホストについて調べて参考にしました。おかげで全く縁のない知識を知ってしまった()
幸村が佐助の気持ちを聞いてないって首を振ったのは少ししか聞いてないからです。才蔵達も佐助の気持ちは佐助自身が伝えるべきだと考え全てを伝えてません。彼らは来世があると信じたんですね。
2012.11.12
加筆修正:2013. 7.22


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