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いつまでもともに
7―2


幸村を探し続けて既に三十分程の時が経過していた。公園や駐車場など思い当たる場所は全て見て回った。しかし、今だに彼を発見することはできない。一体幸村はどこにいるんだ。こんなにも必死に、大勢で探し回っているのに。ただ行き違っただけならいいが、最悪の事態が俺の頭の中で予想される。それを振り払うように首を横に振った。
幸村はあまりにも純粋で人を疑うことを知らない。さらに親切だ。彼に道を尋ねればきっと目的地まで直接案内するだろう。だから連れ去られた可能性も低くはない。幸村はそこまで弱々しくないしむしろ心強い。しかし俺はそう考えてしまうのだ。これが過保護と言われる所以か。ただそうなっていないことを祈るばかりだ。
そう思いつつ走り続けていると、視界の片隅に目的の人物が映った気がした。目を見開かせ振り向けば、やはりそれは紛れも無い、幸村だった。
ああ、よかった。何してたんだよ。どこほっつき歩いてたんだ。俺様は勿論、皆もすごく心配してたんだぞ。
安堵の息をつき彼に駆け寄っていけば、突如彼の身体が光に照らされた。何事かと思い光の先を見れば、それは、一台の車。

「…なっ…!!」

信号無視の車が幸村に迫っていた。
このままでは幸村は轢かれてしまう。良くて重傷、悪くて――。俺は思考を断ち切った。そんな光景は見たくない。目の前で幸村が傷付くのは耐え切れない。
俺は無我夢中で弾かれたように幸村に駆け寄っていった。これ以上ない程全力で走った。俺はどうなっても構わないから、なんとしても幸村を助けなければ。
車の速度は一向に落ちない。どうやら信号無視の車の運転手はブレーキを踏む気はないらしい。その場から動けずにいる幸村が、諦めたようにぎゅっと目をつむり衝撃に備え、口を開く。

「佐助…ッ!」

諦めるな。間に合え―――!

「旦那ァッ!!」

「ッ?!さ、す…!!」

精一杯手を伸ばし身体を投げ出して、彼の身体を掴んで抱き寄せた。そして俺の背中を車の方に向けた。これなら衝突されても幸村に対する衝撃を少しは緩和することができるだろう。
車は速度を落とすことなくそのまま俺達に向かってきた。幸村には当たらずに済んだが、俺は片足を軽く車に当てられ、痛みに少し呻いた。
そして車は停止することなく通り過ぎ、投げ出した身体はそのまま地面に叩き付けられた。俺は起き上がり慌てて幸村の安否を確認する。

「いってぇ…旦那っ、大丈夫か?!」

「さす、け……俺は…大事ない、が…」

そう言った幸村の声は弱々しくも、驚きに満ちていた。その驚きは事故に遭いかけたものではなく、別の何かに対するものだ。

「あれ?何で旦那って呼んだんだろ」

ふと自分でも不思議に思った。咄嗟に口から出た言葉は『幸村』ではなく『旦那』だった。一体何故そう呼んだのだろうか。幸村はおそらく俺の言葉に驚いたのだろう。それにしては驚きすぎかもしれないが。
とにかく幸村が無事で一安心だ。冷静さを取り戻してきたところで、俺は状況を理解し、後悔した。

「あーあ、ナンバープレート見とけばよかった…幸村覚えてない?」

「あ、う、すまぬ…俺も見ておらぬのだ」

そう言うと幸村はしょんぼりと肩を落とした。聞くだけ無駄だったか、幸村はそんな余裕は持ち合わせていなかっただろう。俺自身も幸村しか見えておらず余裕がなかったのだから。

「それより佐助……足、が…」

「え…幸村どっか怪我したの?!」

震えた声で言った幸村の全身を慌てて見回す。だが彼の身体に怪我は見当たらない。すると幸村が「さすけの、あし」と口にした。幸村が指していたのは俺様の怪我だったのか。どうやら俺様の足が車に軽く当たったのが見えていたらしい。さすがだ。
…いや、俺は何故『さすが』だと思った?確かに幸村は運動神経も良く動体視力も良い。しかし俺の中に存在する誰かが思ったような、そんな不思議な感じがするのだ。
しかし今はそんなことどうだっていい。不安がる目の前の幸村を安心させるべく、俺様は笑顔で言った。

「ああ、ちょっと打撲しただけだって」

「っ……すまぬ…佐助っ…!」

俺様の言葉を聞いて幸村は肩を震わせ俯いた。そんな彼を励ますべく顔を覗き込むと、俺は少し慌てた。

「ちょ……幸村?!」

幸村は涙を流していた。罪悪感からの涙だろうか。俺様は彼の綺麗な涙を優しく指で拭い取り、抱きしめた。すると幸村は嗚咽を漏らして子供のように泣き始めた。そんな幸村を落ち着かせるべく、俺様は抱きしめたまま彼の背中をぽんぽんと優しく叩く。
本当に、無事でよかった。
幸村を宥めつつ、ポケットから携帯を取り出して電話を掛ける。すると相手は一回目の呼び出し音が鳴り始めた瞬間に電話に出た。

「もしもし伊達?幸村、見付けたよ」

『…はあ…ったく、心配掛けやがって』

伊達は俺の言葉を聞いて安堵の息をついた。心底安心した様子だ。ああ、そうだ。他の皆にも連絡しなければ。
俺は言葉を続けた。

「でさ、ちょっと迎えに来てくれない?打撲しちゃってさ。幸村も泣いてるし、皆にも連絡頼むわ」

『何したんだよ…Where?』

呆れ気味に、だが安心した様子で尋ねてきた伊達に場所を伝えて電話を切った。電話の間も幸村の背を摩っていたが泣き止む様子はない。それどころか謝罪の言葉を呟き始めた。

「すまぬ、すまぬ……っ佐助…!」

「もう謝んなくていいって!幸村のせいじゃないよ、ね?」

幼い子供をあやすように幸村を宥めた。幸村はただひたすら、俺の胸で泣き続けた。




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あきゅろす。
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