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小説
貴方との福音


トントントントントントン………
長い廊下に靴音が響く


「あのさ…獄寺君」
「……」
トントントントン……

「獄寺くーん」
「……」
トントントン…

「獄寺君ってば!!」
「へっ! あ、はいっ!?」
上ずった声とともに、彼は弾かれたように上半身を起こした。勢いで後ろの壁に頭をぶつけそうだったのでギリギリ手でガードする
「慌てすぎだって!ほら息止まってたから、ちょっと深呼吸して落ち着こう」
「は、はぁ…」
スゥーーーー………

そうそう。落ち着かない時には深呼吸深呼吸

スゥーー…………


「ちょっっ!!吸ったら吐いて!!てかしっかりして獄寺君!」
「…ッ…ハァ……ハァ……す、すみません10代目」
「もーほんと…なんか君の方が心配になってくるよ…」
「オ、オレは全然平気ッス」
平気に見えないからこうして見張っているのだが…彼は気づいていないのだろう
「ハハッ さすがの獄寺でもこういう時は緊張すんのな」
左隣で山本が獄寺の背中を叩いた
それを柔く払いのけて片手で顔を覆った
「っ……テメーは黙ってやがれ…」
「そんな心配すんなって、アイツは強えだろ。今も頑張ってんだからオレらにゃ待つことしか出来ねーよ」
「んなこた分かってる。…けどよ…」
(やっぱり心配なんだよ…)

そういってまた沈み込んでしまいそうだったのでツナが呼びかけようとすると、それより前に京子が声をかけた
「大丈夫だよ獄寺君。女の子はそんなにヤワじゃないんだから!私の時も、ツナ君が側にいるって思うだけですっごく力になったんだよ」
「京子ちゃん…」
「だからね獄寺くん。獄寺くんも、今ハルちゃんの力になれてるんだよ。」
「…笹川…」
「もう、私は笹川じゃなくて沢田だよ?」
「ああ…そうだったな」
「ったく〜ほら獄寺、背筋伸ばせよ!そんなんじゃ子供にカッコつかねーぜ?」
バシッ
さっきよりも強く、背中に気合を入れる。
そのおかげか自然と背筋もいつも通りに伸びた
「るせーよ、分かってる」
(祈って待つことだけ……それがこんなに長く感じるもんだとは…)

スッとツナの顔つきが変わる
「……ねぇ。たぶん…もうそろそろだと思う」
「10代目?」
「ツナ」

彼がそう言ったのも束の間
ドアの向こうで 元気な泣き声が聞こえて
気がついたら立ち上がってドアをぶち開けていた

「わー!獄寺君っ!!」
「ちょっ!!獄寺!?」

「ハル!!!」
看護師の制止も振り切って、一瞬開けた視界

医師や看護師たちにすぐに追い出されてしまったが、ハルは 親指を立ててグッジョブサインを出していた
(元気。大丈夫。)

それを見てやっと安心したようで、いろんな準備が整うまでなんとか彼は落ち着いて待つことができた

10分後、入ってください と看護師に呼ばれ病室の中で愛しい彼女がその手に抱いていたのは、新しい小さな命だった

「…元気な男の子だそうですよ。隼人さん」
覗き見て、思わず

(ああ、そっくりだ)

(銀の髪とグリーンの瞳
笑った顔はハルによく似てる
正真正銘オレらの子供)

今自分の目の前で生命の誕生に触れている
感動なのか、尊敬なのか、感情が混ざって溢れて どうしようもない
「……抱いても…いいか」

するとハルはニコリと産後の疲れなんか感じさせない柔らかな笑顔で微笑み、腕の中の赤ん坊を差し出した
「もちろんじゃないですか。はい、ちゃんと抱いてくださいね」

受け取るとズシリと腕に重く、とても温かい


「……よぉ…」

どうしていいか分からなくて、とりあえず話しかけたら、元気に笑って 獄寺のシャツを握った

(ヤバい……涙が出そうだ
10代目も野球バカもいんのに…おい、子供の前で泣くんじゃねーぞオレ)

でも、止めようと思ってもやはり涙は止まらなかった

ポタリ。生まれたての赤ん坊の頬に涙が落ちる

「隼人さん、ハルは幸せですっ! なんたってこーんなに元気でパワフルな子供が生まれてきてくれたんですから!」
(ああ、オレもだよ)

「おめでとう!ハル!獄寺君!」
「よかったなー!目なんか獄寺そっくりだぜ」
「うん!髪もお父さん譲りだね!すごくかわいい!」
(……サンキュ)

「ほら隼人さん、泣いてたら心配しちゃいますから、笑ってください」
「ああ……わーってるよ」
片手で子供を落とさないようにしっかりと抱きとめて、もう片方の手で涙を拭った
「ふふっ、名前とか決めなきゃですね…隼人さん何かいい案あります?」
「いや……お前が決めろ」
「それがハルも色々考えたんですけどいいのが浮かばなくって……。あ、そうだ!」
彼女はポンと手を叩いた
そして獄寺の横で赤ちゃんを愛でていた彼にむかって提案した

「ツナさんっ!ツナさんが決めてください!」
「ええっ!?オレ!?」
「10代目が名付け親なら異論ねぇ!10代目、お願いします!」
突然の指名に驚くツナをよそに、両親揃って「お願いします!」とお辞儀をするのを見てツナが慌てふためく

「え、ええ!?オレそんな…」
「ツッ君、一緒に考えよう!だって名付け親なんて素敵だし!」
「そ、そっかな…じゃあ…」

京子の鶴の一声により、室内にいるみんなが産まれたてのこの子の名前を考える

その様子を見て、獄寺は腕の中の子供に心の中で語りかけた

(お前は幸せな子だな。
みんながお前の名前を考えてくれてるんだぜ。
そしたら、その名をたくさんの人に呼んでもらえんだ……)


腕の中の赤ん坊をゆらゆらと揺らしているとき、ツナが「あ。」と何かを閃いた
「じゃあさ、『はる』と隼人の『と』をとって 『はると』…ってのはどうかな…」

ちょっと安易かな…と自信なさげに呟くツナに獄寺はフルフルと震えだした

「ご、獄寺君?」
き、気に入らなかったのかな…!?

実際、そんな心配は必要なかった
パッとあげた顔は感動で彩られていた

「か、感激っス!素晴らしい名前だと思います!」
「え、ほ、本当に?」
「はいっ ハルも賛成です!なんたってツナさんが決めてくれたんですから!」
ハルも心底嬉しそうにはしゃいでいる

「じゃあ漢字はどうすんだ?」
「うーん…じゃあ、晴れるの『晴』はどうかな。ハルちゃんみたいに、いつも明るい子になるように!」
「それ、いいと思う!」
かくして産まれたての子の名前は『晴人』に決まった。

「ハルト…。……晴人。」
腕の中の子に名を呼びかけると、まるでそれが自分の名前だと分かったかのようにキャラキャラと笑った

「気に入ってくれたみたいですね」
「すげー嬉しそうだなっ!」
「じゃあ二人とも、本当におめでとう!落ち着いたらうちの子にも合わせに来てね」
「はいっ!ありがとうございました」
「ハルちゃんっ 子育てについて分からないことがあったら遠慮なく言ってね!」
「はい!ありがとうございます〜!」


大勢の人に祝福されて産まれた子
晴人 大事な人からもらった名
二人きりになった病室で、獄寺はハルの隣のパイプ椅子に腰掛けて ずっと晴人を揺らしていた
「ねぇ隼人さん、そろそろハルも抱きたいです」
「…もうちょっと」
「もぉ……仕方ないですね」
ひどく優しい顔をした彼は、もうすでに父なのだ

「なあハル」
「はい」

「晴人を産んでくれて…ありがとな」
「…はいっ!これから二人で愛情たっぷりで育てていきましょうね!」
「ああ。」

(オレらの子。愛しい我が子の成長日記。)

その日から少し騒がしくなった獄寺家には、父になった獄寺と母になったハルの三人。

愛に満ちた命の福音



End.


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