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小説
儚雨の花C



次の日から露花は雲雀の身の回りの世話をする事になった

雲雀直々の任命だったらしく草壁は異例中の異例だと驚いていた

もちろん、露花自身も。


日本茶を頼まれていつもの書斎に行くと雲雀は珍しく眼鏡をかけて本を読みふけっていた

「何をお読みになっているんです?」
そっと話しかけると雲雀は本から目を上げて露花に表紙を見せた
「これはただの推理小説さ。暇つぶしに読み進めてるシリーズ物」
「推理小説ですか。ちょっと意外です」
「どうして」
「なんとなくです」
清らかに笑う露花からお茶を受け取るとパタンと本を閉じた

「君には畏怖の気持ちとかはないの?」
その質問に露花は不思議そうに目を丸くした
「何故ですか?」
「今まで僕の読書中に話しかけてきたのは君が初めてだからね」
「お嫌でしたか?」
不安を滲ませ声を潜めながらそっと雲雀の眼鏡を外し、書台の上に置く
何故だか分からないが 雲雀はその干渉ともとれる行為を心地よく思う自分が少し不思議だった

「言ったよね『暇つぶし』だって。まあ僕の虫の居所にもよるけど」
「そうでしたか。なら良かったです」
変わらぬ柔和に目を細め彼女は雲雀と人一人ほどの間を空けて正座を正した
「今日は どんな暇つぶしを?」
「そうだね……かくれんぼ」
「かくれんぼ…決め事は」
「君のツルをこの部屋のどこかに隠す。僕はその間は外に出ているから、君は終わったら僕を呼べばいい」
「なるほど、分かりました」

手早く手のひらサイズのツルを折ると、各々が立ち上がり遊戯が始まった


雲雀の側近になってからというもの雲雀の戯びに付き合うことは少なくない
内容は『ダルマさんが転んだ』や『影踏み鬼』など子供がよくやるものがほとんどだが、その全てが炎や折り鶴を使うものだった。

「雲雀様、どうぞ」
襖を開き主を呼ぶ
「制限時間は5分。私は庭で数えておりますね」
「うん。」
普段は独りを好み 何人も寄せ付けない雲の守護者は、露花と戯ぶ時は子供の様な無邪気な笑顔を見せた
何故こうも違うのだろうと露花は池のコイを眺めながら考えに耽った

頭の中で数を数えながら、それに準じて手元から鯉にエサを投げる
池の中では優美に錦鯉が水紋を作っていく
落ち着くな…と思っていた時、


「見つけたよ。」


ヒュッと鶴が露花の横を滑ってきた
暫くその場に滞空すると、露花の差し出した手の平にストンと着陸した

「さすがです。2分34秒。貴方の勝ちです」
「僕に2分もかけさせるなんてね。随分めんどうなところに隠したね」
「ふふ、『部屋のどこか』と仰いましたので空中に気配を消して吊り下げておりましたが…なぜお判りに?」
「カンさ」
「凄まじいカンです…」

珍しく、彼も笑う。
滅多に笑わぬ彼が 最近表情を少し和らげる時がある

独りを好む彼が彼女と暇つぶしをするのもまた…



───彼が狂い始めたその訳は…


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