小説
儚雨の花@
6月はキライ。だって雨が僕をダルくする
ボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥は憂鬱だった。
ここ数日の仕事の多さと相俟ってしとしとと降り続ける雨。恨めしそうに外の雨を睨んで、畳にゴロンと寝転がった
今日の仕事は終わった。……眠い。もうこのまま寝てしまおう
布団を出すのも億劫だったから、腕を枕の代わりにして広い畳の上に丸まって目を閉じた
畳独特の香りは心を落ち着かせるのに丁度いい。
雨の湿気で一層強くなった畳に身を任せ
5分も経たないうちに深い眠りの底に落ちていった。
*
どれほどの時間が経っただろうか。ふと目が覚めて外を見れば、雨は止み空はオレンジに染まっていた。どうやら半日ほど寝ていたらしい
そろそろ起きようと体を起こした時、肩口から足先にかけて何かふんわりとした物が触れていることに気づいた
「なに。これ」
持ち上げるとそれは、誰がどうみてもただの薄手の毛布。だが問題はそこではない
一体誰が僕に掛けた───
葉が落ちる音でも目を覚ます自分が毛布を掛けられても起きないなんて
───……ありえない。
スッと立ち上がり側近の名を呼ぶ
即座に奥の襖が開き、彼が応じた
草壁哲也。中学時代から気まぐれな彼の補佐を務め続ける元風紀副委員長。
そして25を過ぎた今でも誠実に彼に仕え続ける猛者だ
「へい。なんでしょうか恭さん」
「僕が寝てる間 ここに誰か入った?」
「はい。先程お茶を届けに来た者が一人。」
そいつだ
「名前は?」
「確か… 真鳥 露花という最近入ってきた新しい中居です」
新人…
「ふうん…で、その人は今どこに居るの」
「恐らく晩食の準備をしていることかと…」
「そう。分かった」
着物の裾を直し、館の主たる風格を漂わせる。向かう先は厨房だ
聞きたいことは山ほどある
恐らく疑問というより興味だろう。
ここ最近の自分は並盛と匣以外のものに興味を持てるものがなかったから暇を持て余していた。
楽しみで少し早足に廊下を歩いていると、正面を歩いてくる女に普通とは違う雰囲気を感じた。
そして直感した。
この人が、僕に毛布を掛けた人か。
一見して、別に強そうとか凄そうとかそんな感じではない。
強いて言うならば流麗な仕草と荘厳な雰囲気から強く発せられる存在感
どうしたものかと思案していると、自分より先に彼女の方が話しかけてきた
「あ…お目覚めになられたのですね、雲雀様。そろそろ晩食が出来上がりますので、梢の間へいらっしゃってください」
柔らかな笑みをたたえ、優美にお辞儀をする
髪は下に束ねて横に流し胸元までまっすぐ伸びている
着物も美しく控えめに着付けていた。
一片の隙もない彼女に雲雀はますます興味をそそられた
自分を見つめて動かない主人を気にかけてか、どうかしました?と問いかけようとするが
「ねぇ君…何者?」
彼が片手に構えるトンファーと突然の質問に、一瞬彼女はうろたえた。がしかし直ぐ何か思い当たったのか表情を引き締めた
「……何をお聞きになりたいのですか?」
やはりだ。 と雲雀恭弥が口角を上げた
「どうやって僕にアレを掛けたの。それも 僕を起こさずに」
返答次第では咬み殺す。言われずともそんな言葉が聞こえてきそうだった
「…お食事の後、朝霧の間に来ていただけますか。そこでご説明致します」
「そう。じゃあ8時にそこね」
「かしこまりました。」
女は丁寧にお辞儀をすると、また厨房へと戻っていった
何者なのか。
どうやって自分に気づかれず毛布を掛けたか。
それは…炎によるものか。
興味深い。
久しぶりに強く興味を持てるものに会った
なんとも形容しがたい期待感が彼を支配する
だから面白い。計り知れないものに出会うのは
───出会いは運命をどこへと導く…
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