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小説
こもれびより


ああ、なんていい日
外はポカポカ暖かくて、風はさわやかで
こんな日はつい………






「ただいまー」
春の陽気の中、彼…獄寺隼人は帰宅した
夜遅くまでかかるだろうと踏んでいた案件が、なんと午前中に片付いたのでそのまま直帰してきたのだ。

が…家の中に妻の気配がない

「…いねーのか」
せっかく、うまいケーキ買ってきてやったのに

つまらなそうにぼやきながらケーキは冷蔵庫へ。ハルが帰ってきたら一緒に食えばいい と結論付けてネクタイを緩める

いやに静かな家の中。
やっぱりあいつがいねーと静かだ……と一人ごちる
スーツをハンガーへかけようとリビングへ入ったその時だ。

獄寺は、視界に入ったその光景に絶句した。

リビングには大きな窓があり、そこからは小さい庭が見えるのだがその庭先にいたのは…

「ハ……ハルッ!!」
ガラッとサッシを開け放って庭へと駆け出す
そう、彼が捉えたものは 庭に横たわるハルの姿だった

必死にハルの体を揺さぶる
「おい、起きろハル!どうした!!」
抱え起こして何度か名前を呼ぶと、彼女はゆっくりと緩慢な動きでまぶたを開いた
「はえ……、あ、はやとさん?」
「ハル、お前大丈夫か!?」
彼らしからぬ慌てっぷりにハルは一瞬で状況を察し完全にまどろみから目覚めた
「あの、隼人さん。ハル別に倒れてたわけじゃ…」
「どっか痛てーとか………は?」
ハルの言葉にようやく正気を取り戻した獄寺が呆気にとられたまま反芻すればハルはいたって冷静に、諭すように状況を説明しだした

「そーです、ハルはただちょっと日向ぼっこしてたんです。あんまり天気が良かったので」
「ひなた…ぼっこ…」
この語句が正しく獄寺の頭に届くまで数秒
遅れて理解した彼は盛大なため息とともに脱力した。
その様子を見てハルはクスとのどを鳴らして笑った

「ってめー…紛らわしいことしてんじゃねーよ」
寿命何年縮んだと思ってんだ
ついでに笑ってんじゃねぇアホ女

ペシッとおでこをはたくが気にした風もなくハルはコロリと再度芝生に寝転んだ
「だって、あんまり隼人さんが必死にハルを心配するんですもん。ハピネスな気分にもなります」

彼女があまりにも楽しそうに笑うから
獄寺もついつられて顔が緩みそうになる。

「そりゃ心配すんだろ。コッチはいい迷惑だっつーの」
「ふふっ、まあそんなこと言わずに、隼人さんもどうですか?」
ハルに腕を引っ張られればそのままストンとハルの隣に寝転んだ

寝てみればなるほど、心地いい
庭に植えてある木が丁度日陰になって、吹き抜ける風が眠気を誘う

「ね?眠たくなるでしょ」
「……そうだな」
悔しいが、認めざるをえない
ていうか今すぐ寝れる

「にしても不用心だろ。庭先で女が一人で寝てるなんて」
「ノープロブレムです。ここは生垣が隠してくれるのでお外からは見えないんです♪」
「いや、そーいうことじゃなくてな」
「あ、瓜ちゃんです!瓜ちゃんも一緒に寝ましょ〜」
「オイ、人の話聞けよ」
獄寺の話など右から左で 部屋の中にいた瓜を手招いている。
それに気づいた瓜が軽快にトコトコと走ってきて、通り道にいた獄寺をしっかり踏みつけハルの胸にダイブした

「だぁっ!こんのクソネコ…」
「にょおーん?」
そんなとこで寝てるのが悪い。とでも言いたそうな感じだ。むしろそう言っていると断言すらできる

するとハルが誇らしげに言った
「ほら、これなら安全でしょう?」
「何がだ」
「だって隣に10代目の右腕とその相棒ですよ?こんなに安心なことってないです」
上機嫌に鼻歌を歌いながら瓜の喉を撫でる
瓜も大きくあくびをして喉をゴロゴロ鳴らしながらハルに頭を擦りつけた

「ふあぁ…ハルまた眠くなっちゃいました」
「お前なぁ、さすがに10代目の右腕でも寝てたら何の役にも立たねーよ」
「そんなことないですよ…少なくともハルは………」


暫しの空白
ハルの言葉の続きがないのを不審に思って顔を覗き込めば、小さく寝息を立てていた

「おい…『少なくともハルは…』なんなんだよ。気になるじゃねーか」
と話しかけても彼女は既に夢の中

仕方ねー、続きは起きたら聞いてやる


意図せず出たあくびひとつ
そういえば仕事続きでロクに寝ていないんだったと獄寺は思い出す
とたんにずしりと体が重くなった気がした


「チッ……しょうがねーから一緒に寝てやるよ」
前髪を優しく除けて、そこにキスを落とす
すると彼女はニヘっと頬を緩めて獄寺に抱きついた。どうやら寝ぼけているらしい
「おやすみなさい…はやとさん…」
「ああ…おやすみ」

穏やか日差しの下
獄寺家の庭には男と女とネコ一匹


こもれびよりは幸せのしるし


End.


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あきゅろす。
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