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小説
できること


どうして、こんなことになってしまったんだろう

ハルは、ただ学校帰りで 普通に歩いていただけなのに

急に視界が揺らいで
気がついたら、大きな爆発が目の前で起こって


あとで聞いたら 10年後の世界だって。



帰りたい……お父さんの、お母さんの、みんなのいる 平和な過去に

言いようのない不安が心に張り詰めて、時々呼吸が苦しくなる




それからすぐ、獄寺さんと山本さんが大怪我をして帰ってきた。


ついさっき、山本さんのお部屋にご飯を届けた時 どうしてそんな怪我をしたのかと聞いてみた
でも彼はやはり困った顔をして 獄寺さんとケンカしたんだ と言っただけで、細かいことは何も話してくれなかった

盛り付け終わった獄寺さんのご飯を見つめたまま、ハルはぼうっとその場に立ちすくむ


なぜ

どうして

一体なにが…


「…………ん」

「…………ちゃん?」


「ハルちゃんっ!」
「はっ、はひっ!?」
「大丈夫?なんかボーッとしてるみたいだったから」
心配そうに顔を覗き込む、フワフワしたブラウンの髪。彼女もまた私と一緒に10年後の世界に来てしまった お友達の京子ちゃん

「あ、いえ!なんでもないです!ハル、獄寺さんにご飯届けてきますね!」
暗い気持ちを吹き飛ばして出来るだけ気丈に振る舞った。今までも、ずっとこんなことの繰り返し

「ハルちゃん……」
心配そうな京子ちゃんの声が微かに聞こえて、胸が張り裂けそうになる


長い廊下を抜けるとそこには第二医療室と書かれた部屋。獄寺さんはここにいるとビアンキさんに聞いたのだ

コンコンと軽くノックをし、そっとドアを開ける

「獄寺さーん、晩ご飯……あれ、寝ちゃってますね」
病室へ入るとゆったりとしたリズムで寝息が聞こえてきた

脇のテーブルに食事を置いて、なんとなく近くのパイプ椅子に腰掛ける

見れば山本さん同様その身体には痛々しく幾重にも包帯が巻かれていて、どうみたってただのケンカで無い事は明白で…


どうして、またそんな大怪我したんですか
ハル、お友達だって言いましたよね?
お友達が傷ついたら悲しいってちゃんと言いましたよね
なんで、いつもいつも…


不意にじわりとこみ上げてきた熱いもの

今まで溜め込んできた悲しみとか、恐怖とか不安が、全部混ざって 溢れてくるみたいに

こらえようとした。でもダメだった

「……っ………うぇ…」
一度溢れたその液体は、止まることを知らなかった

膝の上で固く握りしめた手の上にぽたりぽたりと大粒の水滴が落ちていく


過去へ帰れない不安
また誰かが傷つくんじゃ無いかっていう恐怖
友達が怪我した悲しみ

全部が涙になって、ハルの頬を伝っていく

嗚咽を必死にこらえて、袖で口を覆った
でもくぐもった声はやはり微かに漏れていたみたいで、

静かに聞こえた衣擦れの音
わずかに揺らぐ銀色の髪

そしてその後に届いたのはふわりと包み込むような、低くて いつもの彼とは思えないほどの優しい声だった

「……どーしたんだよ」
ああ、ハル…起こしちゃいましたか…

泣いてるところを獄寺さんに見られたくなくてゴシゴシと涙を拭って顔を背けた

「いえ、なにも。すいません。ハル、起こしちゃいましたね。」
「別に。んで……なんかあったのかよ」
いつも通りぶっきらぼうに言うけれど、いつもとは違うように思う。だってなんだか胸が暖かい

「なんでもないです。あ、晩ご飯テーブルの上に置いておきましたから冷めないうちに食べてくださいね。食べなきゃ治りませんから!」

チクリ

自分の言葉が自分自身に刺さった気がした


誤魔化そうとした感情が、なんとか押し込めた気持ちが、こらえきれずに 溢れそう

部屋を出ようとドアを向いたのになぜか身体はその先へ動かない。足が震えて、まるで自分の足じゃないみたい

ポツリ。一筋伝った水滴がが床へ落ちた

「………泣くな」

どうしてそんな心配そうに言うんですか…
心配してるのは…こっちなのに

ゆっくり振り返り、そのまま再びパイプ椅子にストンと落ちた

必然的に目の前には包帯を巻かれた獄寺さん
またその姿を直視したことで、ハルの涙のダムが脆く決壊した

「う……だっ、だって!!なんでそんな大怪我してるんですかぁ…!!」
「ちょ……だから おい、泣くなって…」
獄寺さんが焦ってハルを宥めている
泣いてるのは獄寺さんのせいでもあるのに

「…ハル……もうイヤです。こんなっ風に…怪我してくるのなんて…!」
袖に涙が染み込んでいく

傷だらけになる友達にハルは何もしてあげられないそれならハルはどうしたらいいんですか

気がつくと獄寺さんは身体を起こしていて、おなじみの 眉間にしわを寄せた仏頂面でハルをじっと見ていた

キズバンが貼られたままの彼の唇が
静かに、それでいて確固たる意志を込めて言葉を紡ぎ出した


「あのな。

これから先、こんなことはしょっちゅうだ」

ドクン と心臓が跳ねた
ハルのその様子を見てか、獄寺さんは力を抜くようにふっと息を吐いた

「負けやしねー。オレには10代目を過去に帰す義務があんだ」
そのグリーンの瞳には覚悟が灯っていた

「だからこんなことでいちいち泣いてんじゃねえ。お前は、やれる事をやってりゃそれでいーんだ。アホみたいに笑ってれば、それだけで10代目も他の奴らも安心できんだろ」

それで十分だ


最後に小さく呟かれたその言葉は、いとも容易く ハルの中でわだかまっていた大きな氷を溶かしていった


泣くなとたった今諭されたばかりなのに
ハルの目にはまた新しく涙が滲んでいった

不安とかそういうのじゃなくて

多分これは 安心の涙───


「ほら、涙拭け」
獄寺さんが目の前にティッシュを差し出してきた。それを受け取って思いっきり鼻をかんでゴミ箱に捨てた

「なっ!」と獄寺さんの顔が若干ひきつる
だってもう、ハルは泣いてないですもん!

ばっと顔を上げて獄寺さんを見た

もう傷だらけの獄寺さんを見ても呼吸が苦しくなったりはしない

「ありがとうございます、ごくでらさん。ハルはいつもの元気なハルに戻りました!」
自然に浮かぶ笑顔、何日かぶりの心からの笑顔でお礼を言えば、獄寺さんは「そーかよ」と背を向けながら素っ気なく言った

相変わらず素直じゃないです。


あ、そういえば
ふと疑問とそれに関するナイスな提案が浮かんだ

獄寺さんは両腕包帯ぐるぐる…
お箸とかスプーン 持てるんでしょうか

「獄寺さん、ご飯一人で食べられますか?ハルが あーんしてあげてもいいですよ?」
スプーンを取ろうとすると、すごい勢いでそれを奪われた
「あー!何するんですか獄寺さん!せっかくハルが…」
「っ……いらねーよ!一人で食える!!」

そしてハルは獄寺さんに病室を追い出された

まあ出る間際に散々悪態ついてきましたけど



ドアを閉めて、ぐ〜っ と伸びをした


「う〜〜!!ハルがんばりますーーーー!!!」

廊下で叫んだそのせいで
実はアジト中にハルの声は響いていたらしく

あるものは朗らかに笑い
あるものは安心したように微笑み
あるものは何やってんだと呆れのため息を漏らした


ハルは、また笑う

笑顔でいることで誰かの心を支えることが出来るなら
みんなで無事に過去へ帰るための力になるのなら


この日から
ハルと京子の笑顔が、アジトに満ちた


反発することもあった
事実を知った時、自分の不甲斐なさと 笑顔でいることの大きな意味を改めて知った


────絶対。みんなで帰るんだ


みんなの意志が一つになった時
大きな力となって動き出す



────みんなで遊園地、行くんですから。




End.

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あきゅろす。
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