910(ひいら様から)
「ジタンの髪の毛、触ってみてもいいっスか?」
ことの始まりはティーダのその一言からであった。
「は?」
驚きに目を丸くさせて、ジタンは後ろからついて来るティーダを振り返る。この日は、バッツとジタンとティーダが当番制の見回りの番だった。
「髪の毛触らせて欲しいっス」
恐る恐るというように、ティーダは自分の服の裾を掴んでいた。ティーダはジタンより一つ年上なのだが、動作が可愛らしいところがある。ジタンはそんなティーダが好きだった。
驚いたのは、いきなりの申し出であったこともあるが、それより髪の毛を触らせろという内容だったからだ。
他のメンバーにはないものだし、尻尾ならわかる。バッツなどは、珍しがって触りたがるのだ。だが、髪の毛を触らせてほしいといわれたのは初めてだった。
「いいけど……」
そう返事をすると、ティーダの顔がパッと明るくなった。彼は表情がころころ変わる。見ていて飽きないのだが、可愛らしいところは他の奴らに見せたくないと、ジタンは思う。今までそんなことを思ったことはなかった。
「ありがと!俺、ジタンの髪の毛好きっスよ」
休憩を取ろうと、先に歩いていたバッツが大声で言った。
なんとタイミングのいいことか。
「あっちのほうに泉があるぜ。おれ水浴びたい!」
バッツが駆け寄ってきてそう言うなり、彼は自分の着ている服の衿をぱたぱたとさせながら先頭をきって歩いていく。
ジタンはティーダを待って横に並んだ。
「泉で泳ぐの好きだったよな、ティーダって」
ティーダはうんとうなづいてからにっこりと笑った。
「でも俺、今はジタンと一緒にいたいっス」
「え……あ、そう」
どうして彼はこうも直球なんだろう。
喉がからからする気がした。
泉に着くと、バッツはマントや装備品を脱ぎ捨てながら真っ先に走っていって泉に飛び込んだ。バッツはジャバジャバと楽しそうに泳いでいる。
ジタンとティーダは二人並んで地面に座った。
「髪を触りたいんだったよな、ほら」
ジタンは自分の襟足の長い髪を掴んで、ティーダに目配せした。ティーダは嬉しそうにその髪に手を伸ばし、優しく触った。
バッツは仰向きに浮かび、目を閉じている。
「わ、すごいさらさらっスね!柔らかいー」
髪に指を通し梳く。金髪は日の光を反射して輝きながらジタンの背中に落ちた。
「……楽しいかい、ティーダ?」
「ん?うん、楽しい」
夢中になっているようでティーダは曖昧に返答すると、なにか閃いたのか、ジタンの顔を覗き込んだ。
「な、俺がジタンの髪の毛縛ってもいいっスか?」
言うが早いかティーダはジタンの後ろ髪を束ねる髪紐をとった。
ジタンは慌てて髪紐を追おうと手を伸ばしかけたが、ティーダの楽しそうな顔を見てやめた。いつも以上の輝くような笑顔だ。
ジタンは黙ってティーダに背を向けた。
「本当に綺麗な髪っスね」
ティーダは嬉しそうに髪を結う。ジタンはティーダの気配を感じつつ静かに目を閉じ、終わるのを待った。
「ほらジタン、できたっスよ」
ジタンは後ろに手を伸ばし、髪を掴みぎょっとした。綺麗にみつあみされている。
背後ではティーダが笑いを押し殺している。
「なにやってんだよー、まったく…」
「ごめんごめん、ちょっとやってみたかったんスよ」
ティーダが少し残念そうにジタンの髪紐を解く。その髪紐をジタンは素早くティーダの手から取った。
「バッツ!俺の髪紐水ん中落ちた!悪い、取ってきてくれよ」
ジタンはいいながら素早く髪紐を泉の中に放り込む。バッツは片手を挙げ、了解と返してから水の中に潜って行った。
「ジタン……?なにを…」
ジタンはバッツの姿が見えなくなったのを確認すると、ティーダの頬に手を添え、柔らかい唇に口づけた。
ティーダは突然のことに驚き、目を閉じるなど気の効いたこともできず、ただただ受け止めることしかできなかった。
「なんか俺、思ったよりずっとティーダのこと好きみたい」
ジタンは、困ったようにティーダに笑いかけた。バッツが水面に顔を出す。
「あはは…なんスかそれ」
ティーダは目を細めて優しく笑った。
「おーい、ジタンー!これでいいんだろ、髪紐ー」
バッツが手を振っている。ジタンはおう、と片手を掲げて答えた。
「そうだ、ジタン」
ティーダがジタンの顔を覗き込む。それはそれは嬉しそうな笑顔。
「俺明日からさ、ジタンの髪、結ったげる」
ジタンも、負けないほどの笑顔でうなづいた。
-END-
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ひいらさんから素敵小説いただいちゃいました♪
ジタンは髪いかにもさらさらしてそうですよねー、ティーダはもちろん無邪気な20歳児も可愛いです
本当にありがとうございました!
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