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Gift
優しい声(910/シャム様へ。相互記念の捧げ物)


違和感はそれこそ目が覚めた瞬間から。
あー、妙に熱っぽいなーだとか。
頭と喉が痛ぇだとか。
自覚症状は最初からあったんだ。
だけどどうしてか、自分の症状が風邪って言う単語と結びつかなくて、セシルに指摘されて初めて気がついた。
ああ、オレ風邪引いてるんだなって。

異世界で、召喚された仲間達と共に女神様の駒として戦う。
どこのRPGだよ!って笑い飛ばしたくなるような非日常の中で、風邪を引くなんていう日常的な事が起こるはずないって頭のどこかで思ってたのかもしれないな。

まぁ、なんにせよ。
オレは見事に風邪をひいてしまった訳で。
昔の事はあんま思い出せないけど、多分殆ど病気とかしたことなかったんだろうな。
身体を起こすだけで「なんだよこれ?」って首を傾げたくなるくらい身体がだるい事にまず驚いた。
ただ上半身を起こしたい、それだけなのにふらつく。
こんな事は少なくともこの世界に飛ばされてからは初めてで。
無理に起き上がろうと布団の上でもがいてたら、「おとなしく寝ていろ」って怖い顔したクラウドに怒られた。

そこから先のことはよく覚えてない。
寝台に押し戻されて寝かされて。
セシルに魔法で氷枕を作って貰って。
妙に熱を持った肌を冷やしてくれる氷の感触が気持ち良くていつの間にか意識が飛んでた。





「お、目ぇ覚めたか?」

気付いたらセシル達の姿はなく、代わりに何故かジタンの姿があった。


「大丈夫か?熱は………まだ下がってないみたいだな」

心配そうに伸びた手が頬に触れ、熱を測られる。
ジタンの言うとおり、多分まだ熱は下がっていないんだろう。
いつのまにか新しい物へと取り替えられていた氷枕のひんやりとした感触が気持ちいい。

「ど…して…」

あー、ヤバいッス。
咳も出ないけど、代わりに声も出ない。
一体何事かと反射的に喉に触れると、少し腫れているのがわかった。
どうにか声を出そうと躍起になっても、ひゅーひゅーと風が吹くみたいな音が出るだけ。

「無理して話そうとすんなって。フリオニールが呼びにきたんだよ」

そんな俺にジタンは小さく苦笑して、経緯を説明してくれた。
オレに何かあったらジタンを呼ぶ。
それは既にいつもつるんでいる仲間達の中で一種のルールみたいなものになっていて、多分今回もそれでジタンが呼ばれたんだろう。
あまり大勢でいても邪魔になるだけだと他のみんなはコロシアムへ出かけたらしい。

「つー訳で今日は一日オレと留守番な。後で飯作ってやるけどひとまずこれ飲めるか?」

そう言って差し出されたカップからはほんのりと湯気がたっていた。
ふわりと風に乗り、甘酸っぱい檸檬の香りが鼻孔を擽る。
相変わらず小骨が引っかかったような違和感はあるものの、眠ったお陰が喉の痛みは幾らかマシになっていた。
匂いにつられ小さく頷くとジタンは片手を背中に添え、起き上がるのを手伝ってくれた。

淡く湯気のたったカップに口をつけると爽やかな香りの中にほんのりとした甘さが口の中に広がった。
美味しい。
すっぱすぎず、甘すぎず、痛んだ喉にも優しい味に自然と口元が緩む。
寝起きで喉が渇いていたのもあったんだろうな。
気がつけばオレは夢中になって飲んでいて、あっという間にカップの中身が空になった。

「あ…りがと…」

ほんとはもうちょっとちゃんとした言葉でお礼がいいたい。
でも風邪でボロボロになった喉では上手く音にならなくて、一番ポピュラーな感謝の言葉を口にするので精一杯。。

「どういたしまして。お前の言いたい事はわかってるから無理すんなって」

思わず口をついた溜息の意味をジタンは正確に読み取っていて、慰めるようにくしゃりと髪を撫でられる。
ジタンのこういうとこが大人だなって思う。
俺より背も年も(つっても一個しか変わんないけど)もちろん手だってこんなに小さいのに、傍にいるだけで妙な安心感がある。
変に強張っていた肩の力が抜ける。
今回こんな風に体調を崩してしまって、不安だった訳じゃないけど仲間に迷惑をかけたっていう負い目は少なからず感じていた。
申し訳なく思う気持ちが消えた訳じゃない、でもジタンとこうしているだけで気持ちが軽くなってくるのは事実だ。
早く元気になって、迷惑かけてしまった分を取り戻そう。
そんな前向きな気持ちになれる。

「………ん」

安心したせいか、瞼まで重くなってきた。
ぱちぱちと目を瞬かせていると、そっと伸びてきた手にカップを奪われる。

「眠くなったなら無理せず寝とけよ、起きる頃に飯用意しといてやるから」

そのまま小さな手に視界を覆われ、意識が人工的に作られた闇に引きずられていく。

「おやすみ、ティーダ」
「………お、やすみ」

もう少し話していたいのに、だめだ。
起きてられない。
スリプルでも掛けられたんじゃないかっていうくらい眠くて、ジタンの声を子守歌にオレは意識を手放した。


end



散々お待たせして申し訳ありませんでした><
健全風味になってしまいましたが、この二人ちゃんとつきあってます。
こんなのでよかったらどうか貰ってやってくださいませ><
もちろん返品可です!


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あきゅろす。
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