40.赤い糸、そんなものでも信じて/復活/沢田
 


「もう決めたんだ」


デスクの上にあるコーヒーカップを眺めながら綱吉は言った。中身が空のそれを持ち上げて、わざとユーリから目線をそらして彼は言った。そんなことをしても無駄だというのに。


「ごめん」


その言葉とほぼ同時にコーヒーカップをデスクにおいて、彼は重い頭を持ち上げた。一瞬だけ合わせた瞳のせいでこれから何が起こるかを全て物語ってしまった。綱吉も分かっていたのだろう。だから首を横に振った。拒絶の意味をこめてゆっくりと。彼はとても悲しそうに笑った。

避けられない終焉ならば共に行こうと願う。言葉なくして彼に伝わる。駄目だと、何回も、何回も彼は首を横に振った。

彼と同じように、ユーリも分かっていたのだ。綱吉がいなくなってしまう、ということが。彼の氷のように冷たい手を握って拒絶を拒んだ。未だにコーヒーカップを眺めていて、視線を合わせはしない。


「お願い、綱吉」


それはとても重い想い。叶えてはいけない願い。それは二人とも気づいていてた。だけれど、それを選ぶことしかできなかった。彼が今さら拒絶を重ねても、すぐ先に見える光にユーリが先走るだけのことで‥未来を変えることは不可能だった。

彼は立ち上がり、ユーリの手をとった。そして、優しく、穏やかに微笑んだ。






目を開くとそこには敵。呼び出された場所とは程遠い、雨の降る其処に二人はいた。相手は複数。此方はたったの二人。もう、どうしようもない真実。知っていた未来。煩わしいことに頬を雨水が伝っては落ちて、伝っては落ちていった…―


「ユーリは戦わなくていいよ」


彼女の髪を撫でて綱吉は笑った。それはもう、本当に、いつもどおりの彼らしい笑顔で言ってくれた。対称できいない彼女の心は酷く歪んでいるようだった。…彼はこんなにも穏やかだというのに。

綱吉は歩き出した。その背中に幼さをほんの少しだけ残してゆっくりと前に進んだ。行かないでなんて言えなかった。もうそれ以上は進まないでなんて、言えなかった。

敵の瞳が妖しく揺れた。同じようにユーリの視界も揺れた。





「     」




−−−銃声が響いた。



分かっていた。誰が引き止めても約束を破っても、こうなることは分かっていた。それでも、やっぱり信じたくなかった。叫び声が届きますようにと願ってしまう。そんな冷たいところで、こんなに雨が降ってるところで眠っちゃだめだよ、と言ってしまいそうになる。

ねえ、綱吉。目を開けてください。早く起きてください。お願いします。どうか。私の名前を呼んでください。いつもの笑顔を向けてください。お願いします。お願いします。どうか。どうか。私から、綱吉を奪わないで。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


何度呼んでも世界からは何も返ってこなくて、雨の憂鬱な音が辺りを響かせて、全てを凍らせた。…‥そうだ。こんな間違いだらけの世界ならなくなってしまえばいい。ユーリは銃を構えた。この手で壊すことなんて、きっと、とても簡単だ。

だからね、綱吉。安心していいからね。君が目覚めたら、君が大好きな平和になっているからね。雨が上がったら、みんなでどこかに出かけよう。最近お仕事ばっかりで、大変だったもんね。



アイシテル



たった五文字。それなのに、何回やっても君には絶対繋がらない。





エンドレスリセット
(ならいっそのこと)
(この世界から消え失せてしまおう)


 

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