42.たとえばココアのような/復活/沢田


「綱吉!」

「んー」

「ちょっと出掛けてくるね」

「どこに」


ゲームをしていた手を止めて洒落た格好をしている彼女を見る。ああ可愛い、可愛い。俺が選んだ服を着こなせるのはユーリだけだと思うよ。にしてもそんな格好をして一体どこに行くんだろう。どこを歩いて誰に見せるんだ。ユーリは俺のだろ。此処から出ちゃいけない。俺と一緒じゃなきゃ!


「書店に」

「誰と」

「隼人と」

「俺は?」

「え、」


俺の質問に、綱吉は行かないでゲームしてるでしょとユーリは苦く笑って笑って笑って笑って笑って……笑った。

そんなことないよと言うとユーリは困った顔をして、来るのかと訊ねてきた。

なんて勘違いをしているんだ、君は。俺と獄寺君が一緒に買い物をしていて、ユーリは俺を見付けて走り寄ってくる。そういう取り決めだろ。

来るの、じゃない。君が後から俺を探して俺の元へ来るの、だろ。


「つ、な?」

「他の人間のところに向かう足ならいらないだろ。必要ないでしょ。それに心配しなくていいよ、こうすればずっと傍にいれるしさ。俺、ユーリの面倒ちゃんと見るから大丈夫だよ」

「っ……!」


彼女の腕を引っ張って座らせる。引き出しから取り出したカッターナイフを足に突き付けて笑ってみせる。だって仕方ないよ、痛みに耐えるユーリの表情が可愛すぎるんだ。笑いたくもなるって。だって仕方ないよ、ユーリが俺を置いていくなんて言うからさ。


「つなよし」


彼女は不意に俺の名前を呼んで(驚くほど優しく)微笑んだ。足から血を流して痛そうな表情をしていたというのにどうしたことだろう(ユーリらしいと言えば其れまで)。

彼女はなにも無かったかのように床が汚れるよと呟いて穏やかにまた笑った。不可思議に思った俺は抵抗しないのかと訊ねる。


「何言ってるの。なんで綱吉に抵抗しなきゃいけないの。そりゃ痛いけど、綱吉に傷をつけてもらえるのなら喜んで受けますよ。さあどうぞ、足の一本二本。なんなら心臓もご提供しますよ」


彼女がそう言い切ったと同時にカッターナイフが手から滑り落ちた。切り刻んでしまいたい気持ちがなくなったわけじゃない。ただ、ユーリが綺麗に笑うから俺の行為が間違っているんじゃないかと思ってしまう。


「ユーリは獄寺君が好きなんじゃないの?」

「一体どこからそんな話が上がったの。ああ誰かに言われた? リボーン、山本、ハルやランボ達? そしてなんでそんな話を信じたの。私には貴方のことしか見えませんって呆れられるほど伝えてるのに。」


このお馬鹿、とユーリは俺を抱き締めて血まみれの足を蹴った。珍しく(何故か)照れているらしく、ユーリは俺の心内を把握していないよう。

ああよかった。ユーリはやっぱり俺のだ。そして俺はやっぱりユーリのだ。本当よかった。

故意に傷付けた足首に触れると彼女は少し身体を固めて抱き締める力を強めた。痛みのせいか淡い吐息を擽らせ俺の全身を震わせた。甘い甘い甘い。


「嫉妬してくれたんだ、よね」

「似てはいるけどそんなに可愛いもんじゃないと思うな。もっと掘り下げて広げてぐちゃくちゃな感情、かな。ユーリは俺とだけ出掛ければいいし、ユーリは俺だけの傍にいればいいよ。他の人間のところに行くなんて、俺の目の届かないところに行くなんて許さない。だってユーリは俺のこと」

「好きだよ。って言うと安っぽいと思って、最近言うの止めてたんだけど不安にさせちゃったみたいだね。大好きよ、綱吉。貴方は私を形成する全て。」





貴方は私の証。



(君を構成する全てのものが愛しくて)
(壊れそう)(壊したい)



(隼人には断っておいたよ)
(ん、)
(今日はどうしようか)
(なんでもいいよ。外行くのダルいけど)
(‥…綱吉好き!)
(わかったからくっつくなって!ゲームができないだろ)
(む、綱吉好きー!)
(はいはい)


傍にいて当たり前の、甘い存在。


>病んでるってこんな感じ?

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