41.I LOVE YOU と言ってみた/復活/沢田
 
 

気持ちがいっぱいになりすぎてさ、前も後ろも全然見えなかったんだ。だから俺はユーリを苦しめ続けていたことに気付かなかった。全然。

いつも笑ってるから大丈夫だって勝手に安心して、日本に置きざりにしたんだ。彼女、毎晩泣いてたなんて知らなかった。リボーンが教えてくれなかったら今でもきっと知らないままだったよ。

ああ、ダメツナの名はいつまで経っても廃れないな…。


「ツナヨシ様……」

「ん?」

「随分と暗いお顔をしていらっしゃいますわ。何か嫌なことでもございましたの」


なんでもないよと俺は苦く笑うと目の前の女は悲しそうに笑って見せた。みんなこうやって勝手に心配して勝手に離れていくんだよな。本気で心配してるなら此処で押しが入るだろ。それは俺だけの勝手気ままな理論か。どうでもいいやつには本音なんて話したくもないし話されたくもないとか、さ。

ああ俺だけが駄目だなんてそんなことはきっとないんだ。ユーリはいつも「綱吉は駄目じゃない。駄目か駄目じゃないかで評価出来るような愚かな人間じゃないよ」って笑顔で言ってくれてた。今思うとキツいこと言ってたんだな。あはは、ユーリらしくて可笑しいや。


「ツナヨシ様、泣いてるのですか」

「……出ていけ」

「は、はい!」


俺の急な言葉に文句も言わず女は慌てて部屋を去る。

そんなに怖いのか、俺ってそんなに怖いのか。まさか違うなきっと、絶対。ボンゴレファミリーのボスが怖いんだ。俺じゃない、誰もダメツナの俺なんて怖くない。ボンゴレファミリーって名前が怖いんだ。只の浅蜊なのに。

そっか、そうだな。ユーリだけだね、俺のこと……ダメツナの俺のこと好きでいてくれたのは。あ、涙流れた。

ハイパーモードは今一だ! とかなんとか言いながら抱き着いてきたのはユーリくらいか。そして俺が生きてきたなかで出逢った一番意味不明な人間だね。ダメツナの俺を好きな時点で大分意味不明だけどさ、もっと意味不明なのは行動とか言動とか感性とか。


「お前また女泣かせただろ。マフィアは女を大事にするもんだって何回言わせりゃ気が済むんだ」

「あんなのただのご機嫌取りに必死な機械…。そんなの抱けないし抱きたくない。気持ち悪い、吐き気がする。無理。つかリボーンは俺の心境分かってんだろ、それでそんなこと言うのかよ」

デリカシーないなと俺は笑う。ノーノックノーマナーで許されるのはこいつが俺の家庭教師だから。そして俺以外でユーリの生存を認めてくれる唯一の存在。


「ツナ」

「嫌だからな。忘れるとか女子供作るとか。絶対ユーリが居なきゃヤダ。無理、できない。俺を誰だと思ってんの、ダメツナだよ。絶対無理。」

「ツナ、いい加減にしろよ」

「リボーンがいい加減にしろよ。ユーリ連れてきてよ、返してよ。ユーリいないと俺の人生滅茶苦茶なの分かってんだろ。お前には愛人がいるからいいだろうけどな、俺は違うんだ。俺はマフィアとは違うんだ。只の冴えない男なんだ。一回好きになったらずっと其処から動けないんだ。連れてきてよ、返せよ…ユーリを返せ」

「今更そんなこと言ってんじゃねーよ」


リボーンが俺に銃を向けて真っ直ぐ睨み付けてくる。ああ、ユーリ。ごめんな、俺は君が嫌いだと口にしていた愚かな人間なんだ。ごめんな。駄目か駄目じゃないかって言うよりユーリがいるかいないかの差なんだけども、やっぱり君が嫌いな愚かな人間には変わりないよ。


「リボーン、やっぱり疲れた」

「ふざけんな。ユーリはもっともっと疲れてたんだぞ。そんくらいの疲労でテメェは死ぬ気か」

「だから只のダメツナだって」

「そういうこと言ってんじゃねぇ」


リボーンは苛ついたのかなんなのか俺の胸ぐらを掴んで…ってそれだけか。掴んでそのまんまだ。殴りもしないでただ俺を見てる。ああなんだ、コイツも疲れてんだな。あ、涙流れた。


「お前が嘆こうが喚こうが死のうが苦しもうがユーリは目覚めないんだからな。目覚めるなんて迂濶なことはできないんだ。あいつが背負ってきたことをまた見させるなんて……お前は殺すより惨いことしたんだ」

「わかってる、わかってるつもりだ」

「ああ、つもりだな」


ユーリの見てきた世界は計り知れないってリボーンや骸から何度も何度も聞いてきた。でもそんなこと本人から一度だって聞いたことはない。あんなにずっと一緒にいて、ただ俺の名前を呼んで、ずっとずっと傍にいるって、手離してもいつか絶対帰ってくるって…‥思ってたのに。


「リボーン、ユーリに逢わせてくれ。じゃないともう本当に自決する。俺はお前を殺して押し退けるなんてできないからさ」

「ダメツナが」

「うん、俺はダメツナだよ」


苦く笑って俺は一歩前に出た。けれどもそれ以上のことはなくて、リボーンは退かずに俺に紙を差し出した。遺書でも書けというのだろうか。それなら喜んで書くとしよう。


「読め」

「ユーリの字」


指でなぞり文字を辿る。インク越しに伝わる彼女の気持ち。ああ、読み終えた俺に何が残っているというのだろうか。涙がどうしようもなく溢れてくる。悔しい悔しい、愛してる。止めることのない気持ちをユーリにどうすれば伝えられるのだろうか。手紙を読んで、それだけなんて。


「最近定期的に頭が痛くなります。血だってたまに吐きます。歩けなくなる時もあります。胸が小刻みに痛みます。でもこんな状態になっているのに何故か死なないの。もしかして綱吉がこの世界にいるからしら(=私の存在理由)なんてね。きっと綱吉がこれを読む頃には中途半端に壊れてるんだろう、私。どんなときでも綱吉と同じ世界にいて同じこと感じたいのになあ。上手くいかないや。どうして離ればなれになんかにするの。こういう判断を下した運命が憎くて仕方がないよ。優しい綱吉が大好き。貴方の判断が憎いわけないじゃないからね。貴方の答えはいつだって完璧だし、貴方は私の世界よ。憎いわけないじゃないからね。ただ少し悲しかった。要らないのかな、貴方の世界に私は要らないのかな。ああ触れたいよ。見つめたい見つめられたいよ。好きだよ好きなの、綱吉。早く迎えに来て、でも、さようなら……次の世界ではちゃんと生きてまた逢おうね」





世界は、
(俺と君を敵と見なした)
(見放した)(愛してるくせに)



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