36.僕から強く手を握ろう/DG/アレン

夜中、AM3:28。

任務から帰ってすぐ部屋に逃げるようにして駆け込んだ。

凄く、凄く胸が痛い。

最期に壊したAKUMAの断末魔がリピートされる。

そのままベッドへ身を投げた。


「アレ、ン……?」


しまった、と思うには時既に遅く、僕の保護者的立ち位置であるユーリがむくりと起き上がった。

ベッドのスプリングがギシリと鳴く。


「ごめん、ユーリ。起こすつもりじゃなかっ……」


突然、頭をぎゅうと抱き締められた。

まだ喋っている途中だというのに。


「おかえりなさいね、アレン・ウォーカーくん」

「ユーリ……?」


彼女から甘えてくることなんて、そうあっただろうか。

いつも気の強い彼女の変化に気付いて僕は顔を上げようとした。

けど、頭を抑えられているからそれが上手く出来なくて、もどかしい。


「ねえ、ユーリ……もしかして、泣いてるの」

「あら、泣いてるのはアレンでしょ」

「僕は泣いてないよ」

彼女は腕を退けて、僕を解放した。

ベッドからすとんと降りて床に座り込む。

すると、ユーリは寝起きのあたたかな手のひらで、頭を優しく撫でた。


「……ちゃんと、理由を言わなきゃ分からないわ、私不器用だもの」


ユーリの声に心が揺れる。

エクソシストがAKUMA壊して泣いちゃ駄目でしょ。

いつかロードに言われた言葉。

僕は独りになりたくない、ユーリからはなれたくない、だから……


「なんでもありませんよ」

「嘘つきアレンは私が嫌い?」

「何言ってるんですか、好きですよ」

「じゃあもう知らない」


彼女はそう言って背を向けて眠りの体制に入ってしまった。

僕はよくわからなくなって、何も言えずにただその背中を見つめる。

壁に掛けてあるピエロの絵画がじっと此方を見ているような気がした。

僕はなんだか無性に怖くなって、彼女の名前を呼んでしまった。


「アレンは悲しくないのに泣けるのね、まあとっても器用な人だこと」

「ユーリ……」


僕はそっと彼女に手を伸ばそうとする。

でもあと少しのところで止まって、其処から先は動けない。

触れたいのに。


「きっと逃げちゃうよ」

「私が?」


背中越しに聞こえるユーリの声が震えてる。


「アレンがどんな理由で悲しもうが泣こうが、誰もそれを咎めることは出来ないの」

「それは……」


ユーリの言葉に口ごもる。

だって言えない。

言ったら僕を軽蔑して迫害して、僕は僕は僕は……


「ねえ、アレン。私がいる理由を理解してる?」


ぐるりと向きを反転して、いきなり近付いて来た。

と思ったら胸ぐらを捕まれる。


「どうして……」


ユーリの空いてる片手が勢いよく上げられた。

僕はぶたれると思ってぎゅっと目をつむった。


「私が、此処にいる理由をわかってくれないの……!」


ユーリの声が震えることと、振り上げられた手が落ちてこないことに気が付いて、僕はそっと目を開けた。

そこには涙でボロボロになった彼女の顔があった。

ユーリは僕と目が合うと、掴んでいた手を放した。


「貴方が帰って来てすぐ、この有り様よ」

「……ごめん」

「意味が分からないわ」

「ごめん、なさい……」

「ねえ、悲しいのはアレンでしょ。なんで謝るのよ」


そう言ってユーリは両腕で目を擦った。

赤い目元が濁る。


「それ、僕の涙だ」


彼女の肩がピクリと動いた。

僕は苦笑いして、頭をかく。

僕の気持ちは君にバレバレってことなんだろう、つまりは。


「僕は、エクソシストとして思っていけないことを思ってる。この思いがあったらユーリの傍にいれない、だから……言えません」


彼女の泣き顔が映し鏡みたいでとても見ていれない。

逃げるようにしてうつ向いた。

すると、ユーリは優しく僕を撫でた。


「……悼むことは悪いことじゃないよ」


嗚呼、彼女はわかっているのか、そこまで。

僕はゆっくりと顔を上げる。


「例えそれがAKUMAでも?」

「AKUMAは人間と同じでしょ、人間を悼むのはいけないことですか」


ユーリは僕を真っ直ぐ見ていた。


「それに、どんな理由でもアレンの傍は離れない。見た目が変わったりしても、たとえ悪い子になったとしても、ね」

「でも……」

「あら、アレンは私が髪を切ったら嫌いになる?」

「そんなわけない!」

「ありがとう……だから、そっくりそのまま貴方に返すわ」


ユーリは微笑んで、僕を抱き締めた。


君の体温は幸せの温度で、

そのあたたかさに
思わず涙が零れ落ちた

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