30.穴があくほど見つめてやろうか!/hackS/司
ユーリは僕の横で爆睡中。気持ち良さそうにむにゃむにゃ言っている。
無防備だ。僕に襲ってくれと言わんばかりだ。
実際、今ならキスしてもばれないだろう。服に手を突っ込んだりしても抵抗しないだろう。
其ほどまでにユーリは爆睡している。
しかし、僕にそんな勇気はない。根性なしと言われたって、返す言葉はない。女は度胸だ、なんてハッタリもいいところ。
ああ、ユーリは綺麗。
オンラインゲームでの彼女は、強気で頼もしくて……でもちょっぴり変なロール。そして男。
リアルを知った時は驚いたな。年上で女性で綺麗で穏やかで。
最初は僕の知ってるユーリじゃないと思った。性別も声も性格も違ったから。でも、心では分かってた。
それから、女だから好きになっちゃ駄目だ、って自分に何回も言い聞かせるようになった。悲しくて泣く日もあった。
でもユーリは、なによりも僕のこと好きだって言ってくれた。友達以上に想ってくれてた。
ああ、ユーリ。やっぱりキスしていいかな。起きて怒るかな。嘘泣きしたら許してくれるかな。ユーリは僕に甘いから。
「つっつっつかさくーん」
「……なに」
「んなに、じいいいいっと見られたらさ、寝れないんだけど」
「嘘だ、寝てたよ」
「熱烈なラブビームにお応えして起床しましたよ」
「なにそれ」
「あとね、顔近いよ。鼻と鼻、くっつきそうだよ……私になにしようとしてたの?」
「キス、しよって」
「っ……!!」
「ごちそうさま」
「にこっ、じゃない……ってかあああああ、恥ずかしい恥ずかしい」
「こらユーリ、背中向けないでよ。あ、嫌だったの? ごめんね……」
「違う、……スが恥ずかしいわけじゃない」
「じゃあなに?」
「昨晩、杏の寝顔見て、そのえっとあの、そ、の」
「キス?」
「……しようとしてたの。思い出したら恥ずかしくなった」
「あはは……」
「ってこらあああ、人が向き戻したのに、今度は司が恥ずかしいの!? なに、どうした」
僕が今さっきまで思ってたこと、ユーリが昨晩考えてたら、なんて都合のいい妄想。
言えるわけない!
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