256.久しぶりに聞いた声は/oliver

僕は喋ることも笑うことも泣くことも怒ることもできない。ただ、此の唯一の居場所で歌うことができる。生まれた時から決まっていたんだと思う。でもこの声は誰にも届かない。誰にも届かないけど、僕は歌う。

夕日が波にキラキラ光りながら反射していく。もう時期夜が来る。夜が来ると少しだけ寂しくなる。寂しくなるけど、お月様が出て僕と一緒に歌ってくれる。草の踏みしめる自分の足音が耳をかすめて、より一層孤独を感じる。猫の一匹でも隣にいてくれたらいいのにな。僕は歌い続けながら、丘下のさざ波を眺める。

春は好き。匂いが優しい。それにあの人が言っていた。春は新しい季節だから生まれ変われる。ああ、そうだ。あの人は今頃どうしているのかな? どこかで誰かと幸せになってるのかな? 僕のことなんて忘れて、誰かと……やだな泣くつもりなんてなかったのに。あの人が迎えにこないのは、そんな理由じゃないってもう僕は気付いたんだ。それでも歌うのは、僕には歌だけだから。

雨は少し憂鬱になる。別れを思い出す。しょっぱい涙みたいだ。泣き止んで泣き止んでって歌うけど、簡単にはいかないな。僕だって人のこと言えないから、文句言う筋合いはないのかもしれない。雨の音で掻き消された僕の声は僕自身にも届かない。ただ喉の震えが響くだけ。

ある明け方に、一羽の鳥が僕の処に飛んできた。どうやって此処に来たのか尋ねても教えてくれない。素知らぬ顔で僕の帽子を突っついて、一鳴きすると其処に落ち着いてしまった。理由を尋ねてもやっぱり答えないその鳥は、僕のことを馬鹿にしたように楽しそうに鳴くんだ。

その様子があの人と重なって、あの人の名前を歌ってみた。すっかり目覚めた草木に朝日が笑ってる。僕はつい嬉しくなって、あの人のことをいっぱい歌うんだ。すると、僕を小馬鹿にする鳥は「オリバー、オリバー」って僕のことを呼ぶんだ。自己紹介もしてないのにおかしいなって思って、帽子を外して、その上にちょこんと座ってる鳥と目を合わせる。

「ジェームズ?」

その名前を口にした時、僕の呪いは解けたみたいに語り出した。ジェームズと呼んだ鳥は嬉しそうに僕の周りを旋回して、「やっと会えたね!」って歌うんだ。

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