248.濾過した泥水/レミー/ガンスト
助けたい。
そう思ったのは、いつからだろう。
ブライアンがとある少年を養子にもらってきた。
研究熱心で子供になんて一切興味もないような人間なのに、その少年には何か特別があるんだろうか?
真夜中三時。
研究所には最低限の人間しか残っていない。
侵入するならこの時刻。
前から用意してあった侵入器具を腰に携えて研究所に乗り込む。
好奇心とブライアンを裏切る背徳感に胸がいっぱいだ。
監視レーダーも差し障りない。
監視員も集中力が切れているのか、叔父の知り合いである私に警戒心はない。
メインステージはあの部屋か。
今は消えている電光番を睨みつける。
「チェックメイト」
そう言って、研究室の扉を足で蹴り開ける。
強靭な脚力の前に鍵は何処かへ飛んで行った。
薄暗い部屋の真ん中に目的のものはあった。
とある少年、だ。
手術台の上で丸くなって眠っている。
研究室は幸いにも出払っている。
「鎖も何も繋がっていないってことは」
まだ人体強化はされていないのか。
手術器具の間に挟まっている資料を摘み上げる。
「君は、レミーというのか」
すると少年は小さな呻き声をあげながら薄っすらと瞼を開いた。焦点が定まったところで、私の顔をまじまじと見つめる。
「あんたは?」
「ユーリだ。ハジメマシテ」
ブライアンに仏頂面だと一瞥されたことを思い出し、一つ結にしていた髪を解いて、にっこりと笑ってみせる。
御構い無しに彼は座り、髪の流れを指す。
「炎みたい」
「実験の後遺症だ」
「僕の瞳とお揃い……」
少年とは思えないような捨てた笑顔を向けてきた。
彼にブライアンが何かしたのは間違いなさそうだ。
レミーの資料を元の場所に置いて、彼のいる実験台に座る。
「見たところ普通の少年だな、君は。寧ろ可愛いほうに入る」
「何言ってるの?」
少年は眉を顰める。
「ブライアンが君のどこに興味を持ったのかなと思って」
「……!」
何か逆鱗に触れてしまったようだ。
少年は俯いてわなわなと肩を震わせて、実験台を震わせて、手術器具を震わせた。
「こういう能力か」
青い電磁を放ちながら宙に浮かぶ鋭利な機器たちにそっと触れる。すると突然肩をがっしりと掴まれて、危うく台から転落するところだった。
「僕のコレが怖くないの……」
「だが痛いのは嫌だぞ?」
「そうだよ、ね」
「捨てられた子犬みたいな顔をするな。君を嫌だと言ったわけじゃないんだ」
宙に浮いたハサミを手に取ると、先程までの事象は嘘のようにピタリと止んだ。
「じゃあ、好き?」
「興味はある」
わざわざ監禁覚悟でココまできたのだから。少年は無邪気な笑顔を向けて、あんたは変わってるねと嬉しそうに言った。
その後、ブライアンの部下たちが飛び込んできてどうにかなった話など語るに値しないくらい、レミーの笑顔は綺麗だった。
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