249.なかったことになんか、しないで /D/アレン
砕けたのイノセンスではなく、私の心だった。目の前で友人が惨殺された。戦場にいるから分かっているつもりだった。でも違った。現実は想像を遥かに上回って、残酷に時を進めた。

集中力の糸がほつれる。アクマの強烈な攻撃をその身体に受ける。イノセンスに守られて大きな外傷がなかったが、変わりに聴覚と視力を失ったようだった。

何も見えない。何も聞こえない。私は暗闇の中だ。もうこれで戦わないでいいんだと思えば、少し気が楽になるような気がした。ただ気がかりなのは彼のこと。

見えないところで彼は責めていないだろうか。聞こえないところで彼は泣いていないだろうか。そんなことさせたくなかった。それに、誰かが彼のそばにいて彼を慰めていると思うと胸が張り裂けそうだ。

私の居場所をとらないで。私の存在理由をとらないで。私には彼しかいないの。でも、私はこの有様。そう思うと途端に悲しくなって、誰がいるかも分からないのに、泣き始めた。涙が勝手に落ちるんだもん。しょうがないわ。

すると、ふわり、聴こえてくる彼の匂い。ぎゅっと抱きしめられる身体。あたたかい。あたたかい…。でも貴方の声が聞こえないの。貴方の顔が見えないの。でも、それでも、やっぱり。貴方が愛しいの。こんなに近くにいてくれる貴方が愛しいの。

お願い。お願いよ、私を見捨てないで。こうやってずっと抱きしめていて。



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