235.99.9%の悪意と、/ハリポタ


私はスリザリンに縁があるのだろう。落ちた先がスリザリン寮。第一発見者が原作で悪名高いスリザリン首席リドル。

まあ、いいんだ。読んでて自分がホグワーツ生だったらスリザリンって叫ばれるだろうなあって思ってたから。本当はちょっぴり、明るいグリフィンドールとか賢いレイブンクローとか期待してたけど。夢だよ所詮。


「どうしたの君、疲れた顔してるね?」


リドルの優しい声(笑止)を無視して、轟々と荒れる外を見る。休暇中か。ある意味ありがたかった。


「それに……姿くらまし術でも使ったのかな?でも杖はないみたいだし」


リドルは赤い瞳を神妙そうに輝かせて、私と私の周囲を見ている。美男子だけど、性格はちょっぴり残念なんだよね。そこがいいって言われたらイエスって答えるけどさ。

起き上がって制服のスカートを叩いて整える。リドルに向き直ると、同じくらいの身長だと気がついた。私はこれでも20代なんだけど……縮んだようだ。彼は状況理解をしていないようで、にっこりと笑った。可愛い子が笑うと絵になるな。


「アルバスに飛ばされたの。どこ? 所定地かしら」


嘘八百。此処に来たのは自分の意思で来たのだ。現実世界に嫌気がさして。それは追い追い。


「ダンブルドア先生の知り合いなんだ? いいよ、僕が連れて行ってあげる」


優しいな。苦手と発言してた人のところに案内してくれるとは。これで裏がなければ完全に主人公より人気が取れる脇役だのに。彼の生い立ちからして無理な相談だろうが。言うだけタダだ。


「よろしくお願いします」
「いいよ、僕も一人で退屈してたんだ」


本で読んでいても土地感覚というのは実際歩いて見ないと分からない。ましてやホグワーツって幾つ部屋数があると思ってるんだ。知らない。


「そういえば名前聞いていなかったね、僕はトム・M・リドル」
「ユーリって呼ばれてる」
「君は呼ばれないと名前がないの?」
「名前って呼ばれるためにあるからいいんじゃない?」


着々と階段を登りながら他愛ない会話を交わす。リドルは猫被りの侭だが、本人が苦じゃなければ別にいい。会話内容的にさほど気を遣わないだろう。


「此処だよ。書斎にいると思う」


傾げて、ね? っていう表情は本当に可愛い。作中で女子がキャーキャー言っていた場面は理解しよう。まあ、私は思わず撫でてしまったが。

リドルは扉に向き直ってノックをしようとした姿の侭で固まった。そりゃそうだよな。初対面の女子に、ぽんぽんって。舐めてんのかって思うよね。


「稀に出てくる母性から無意識にやってしまった。無礼だった、すまない」


どこの中堅か。


「ユーリって変だね。いいよ、気にしてないから。じゃ、ダンブルドア先生の部屋に案内するよ」


見事。当たり障りなく返してくれてありがとう。私の手はこれに懲りて、以後慎むように!


「先生、入りますよ。客人が」
「アルバス!!」


リドルを押しのけ感動の再会を装う。


「それじゃ僕は失礼します」


さすがリドル。気の利くコだ。扉をパタンと閉じて早々と退室。そしてアルバスに飛び込む動作を辞めた私は先生の顔をじっと見た。相手も同じようだ。


「どこかでお会いしたかな?」
「いいえ。でも先生が冗談と真実が通じると思ってあいにきました。お時間頂けますか 」
「よい」


鐘の高い音が鳴った。アルバスの前にあった書類が一斉に片付き、代わりにティーカップやソーサーが現れた。甘い匂いが一気に立ち込める。スプーンが回っている。適温になるまではお預けらしい。


「先生、何で三人分なんですか?」
「君はなんだか疲れているようだ。紅茶を飲みながらゆっくりと話をしようじゃないか。トムいるのじゃろう! 来なさい」
「はい、ダンブルドア先生」


やけに素直だな。音も立てず開いた扉を見ると、微妙な表情を浮かべたリドルが。抜け目ないなこのジジイは、とか思ってるのかな? 君も大概だと思うよ。


「ね、先生。私のプライバシーは?」
「君が語るのは御伽噺じゃろ。大丈夫。真に受けるほどリドルは馬鹿ではない」


目の前で紅茶を飲み始める先生。左ちょっと後ろには立ち聞きするリドル。なんだこのとても嫌な状況は。思いつく案件の少なさから起きた惨劇なわけだが。


「天国施設の管理役員に逆らって此処に来たんです。気付いたらリドルのいるスリザリン寮に居たんです。アルバスって名前を知っていたのは、管理役員のデータ画面に載っていたからです」


貴方たちの人生は物語で、原作も映画も見て結末全部知ってるんですけどね。あ、終盤でリドルに殺されますよ先生。って言ったらどうなる? 御伽噺どころじゃなくなるね。此方のがまだ夢があっていいよね。

後ろでリドルの冷たい視線を受けながら


「ふぉふぉふぉ、実に面白い。君は天国施設に行く前は誠実な人間だったのじゃの」
「神様も間違える時があるんですよ、きっと」


私は笑って言うと、リドルもおかしそうに笑っていた。



長い付き合いの短い始まり


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