204.ラブチェンメール/vocaloid/Oliver


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自室でサイト巡りをしている時だった。画面に映った一行のメッセージ。何も考えずにクリック。その途端、ディスプレイが眩く光って私は意識を手放した。

ふと気が付くと、私は丁寧に寝かされていて、身体に痛みもなく健康そのもののように思えた。さっきまでのは夢だったんだろうか。起き上がって飲み物を取りに行こうとした時だった。

「あの…」

部屋の一角から声が聞こえる。目をやると、隠れるように小さくなっている少年を見つけた。金髪で、ウィーン合唱少年団のような服を着ている。外人?不法侵入?とかなんとか色々思ったが、あまりに怯えているその様子が哀れに思えて、追い返す選択肢は消え去った。

「あの…」
「とって食わないから大丈夫だよ。どこからきたの?」

私が喋ると彼の肩が極端に動いた。そして恐る恐るパーソナルコンピュータを指差す。

「僕、信じてもらえないかも知れないけど、歌うソフトウェアなんです」
「えっと、じゃあもしかしてoliver?」
「あっ、」

少年は目を見開いて私を見た。のも束の間、また俯いてしまう。Oliver。海外組ボーカロイド。2525動画で稀に目にする程度の認知度だが、彼を知っていた。というもの、自分はその動画サイトを巡回するのが日課になっている。


「そっか、理由はともあれ君の容姿も声もなんとなくわかるから…えっと、よく日本語話せるね?」
「いえ、僕は…多分英語で話しています」
「本当? 私、喋るほど英語得意じゃないんだけどなあ」
「…」

オリバーが黙る。言語の話など今はどうでもいいか、彼をどうするかが問題だ。まあ、此処は地方でご近所とも隣接していない上、一人暮らしだ。幸い自分は社会人で、この子を養う余裕はあ…いや待て、どういう理屈だ自分。

「どうしよっか」
「…」
「オリバーはパソコンの中に帰りたいよね。マスターでもない私のところに居てもしょうがないんだし」
「Master…」
「え?」
「僕、まだシリアルコード入れてないから誰のものでもないです…」

捨てられた子犬のような目で此方を見ている。誰のものでもない、つまり私的所有物にするのも可能ということだ。誰とも知らない彼を。

「そのコードはどうすれば入手できるの?」
「多分届いたメッセージにあると思います」

邪が差した人間のそれからの行動は早かった。パソコンを立ち上げて、すぐ出てきた胡散臭いメールを舐めるように見て、コードを探し出した。4桁が4つ。

「で、これをどこに入力すればいいの?」
「ここ、です…」

そういうと彼は後ろを向いて背中が見えるように捲り上げた。元ソフトウェアだからなのか、美少年だからなのか知らないがその馬鹿みたいに綺麗な肌を無意識的に指でなぞっていた。

「んっ…」

彼の後ろ姿から見える赤い耳を見ると、背徳感否罪悪感が芽生える。ようなそうでもないような。

そんなくだらないことを思いながら、背中に空で入力する。英数字はオリバーの背中に溶け込んで、すっと消えてなくなった。

「認証、した。マスター」

彼は服を直して、私に向き直る。紅い頬のままにこりと笑う。私は理性をフル稼働させて、彼の頭をぽんぽんと撫でた。

「不甲斐ないマスターだけど、よろしくね」
「ぼ、僕こそよろしくお願いします」


新婚初夜みたく、互いに深々と頭を下げた。


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あきゅろす。
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