209.大人味のキス/flat/鈴木
それは帰宅路でのこと。
鳩が堂々と横切ったので少し驚かしてやろうと、わしっと掴んだ時だった。
「いっさましいなー、佐藤が惚れるわけだ」
「えーっと、鈴木さんだっけ?」
くるっぽくるっぽー。
「なんで知ってんのかは突っ込まないが、これやる」
「チョコレート? バレンタインはずっと先だと思うんだが、君の暦は2月あたりかい」
「馬鹿に済んな。例えその日でもお前には無い好意を示すほど暇じゃないのでね」
「あらひどい人」
「鳩に虐待してるお前よか俺のほうがずっと親切だと思うけどな」
「あ、これ詫びの品か。気にしなくていいのに」
「全く違う人間から時間差で同じ台詞を聞くなんてあるんだな」
「不登校女なんて、まさに私にぴったりの言葉だと思うわ!」
「……言いすぎた」
「あーまあそんな気にしなさんな。ありがとうねチョコレート。ちょうど一個足りなかったところなの」
「足りないってどんだけ食うつもりだよ」
「ひみつ」
「……」
「代わりに私の名前を教えよう。ユーリだ」
「どうでもいい情報すぎる」
「あーまあそんな気にしなさんな! 気が向いたら呼んでやってちょうだい」
「気が向いたらな。 とりあえずその鳩をそろそろ離してやることをお勧めするぜ」
「あーい」
鳩は空高く飛んでいった。
「ちょっとこわがらせちゃったかな」
「さあ?」
「まあ過ぎたことだし、そろそろ帰りますか。チョコレートご馳走さまー」
そうやって私はまた帰路についた。
(律儀な人)(変な人間)
(でも少しは喋れるかも)
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