甘え上手はにゃん仔上手
「かくわいと あるじどのは、なかがいいのう…」

ぬくぬくと炬燵に入り、ご近所付き合いお茶の時間。
ず、と一口。
程良く煎れられた緑茶を口にして猫たちは世間話をしていたが、不意に統にゃんがぽつりと呟いた。

「にゃ?ほーとーどのと じょしょさんも、なかがいいじゃないですか。」
「まあ、そうかもしれんが…なにか、きみのところとは ちがうというかのう…どこがちがうものか…」
「う〜ん…」

ずず。
もくもく。

今日のお茶請けは、お手製田舎饅頭。

「…ほーとーどのには、あまえるのが たりないからじゃないですかね?」
「な、なに?」
「ほら、いつも じょしょさんのほうからべったりじゃないですか。」
「…まあ、そうかもしれんな。」

もぎゅもぎゅ。

ほくほくのつぶあんが、ほっこりと顔を出して。
皮に含まれた黒砂糖が、ほんのりと咥内に優しく広がって。

「…しかしのう…むしろ、いまいじょうに べったりになりそうなきが…」
「なにごとも、やってみなければわかりませんよ。」
「……うむ……」

こぽこぽ。

お茶も進みます。

「ぐたいてきに、どうしたらいいのかわからないのでしたら……まずはこう、ぎゅむりと。」

ぎゅむぎゅむ。

「それから、たたみかけるように すりすりと!」

すりすり。ぐりぐり。

「そしてとどめに、あいらしく"にゃあ"と!」

にゃあにゃあ♪

「これで かんぺきですよ♪」
「……お前は、どさくさに紛れて何をしておるのだ……」
「ふふふ、なんのことやらですにゃ ちょーこーどの。はなしませんよ。」

張コウさんは和菓子も作れます。
というか、居たみたいです。

「とまあ、こんなかんじで やってみてはどうですかにゃ?」
「…う、うむ…?」

甘え下手…とでも言うのか。
統にゃんには、やはり今一つ合点がいかない様子。
湯呑みを持ったまま「?」を浮かべ、小首を傾げて固まっている。

「…まあ、何だ…」
「にゃっ?」

びったりと自分に張り付いたままの淮にゃんを、仕方なしといった風ではあるが張コウは優しく抱え上げると。
二、三度頭を撫でてから、統にゃんへ言の葉を向ける。

「これの言う事を、総て鵜呑みにせんでもいいとは思うがな…しかし、偶には甘えてみるのも良かろう。」
「むー。おれのじょげんは てきかくですよ、ちょーこーどの。」
「偶に、だからいいのであって…お前は何時もだろうが。」
「う…いつもは めいわくですかね?」
「…ふ…」

少し、しょんぼりとした淮にゃんに。
ひとひらの口付けを、張コウは猫耳に落とす。

「…甘えられる事、それ自体に悪い気はせん…ホウ統が徐庶の奴にそうしてやるのなら、尚更だろう。」
「……そう…かのう……」

ずずっ、と。
少し冷めた緑茶を飲み干すと、統にゃんはごそごそと炬燵を後にし始めて。

「…じゃまをした、そろそろ じょくんがかえってくるから…これでしつれいする。」
「さようならですにゃー、ほーとーどの。また きてくださいね。」
「うむ。」

ぱたん、と閉められたドアに張コウは淮にゃんを抱えたまま戸締りをすると。
炬燵へと向かい直し、膝の上に猫を乗せたままぬくりと当たる。

「……うまくいきますかにゃあ。」
「さあ、な。」
「それにしても このまんじゅう、ちょーこーどのに にていますねえ。」
「……色の話か……?」

もうひとつ、黒糖色の塊を手に取って。
事の発端を作った猫は、もふもふと幸せそうに饅頭を食していた。



―――さて、一方お隣では。



「そろそろ、寝るとするか。」
「う、うむ…」

結局、帰ってからも夕食を過ぎても風呂を過ぎても…
統にゃんは甘える好機が分からず、1日が終わろうとしていて。

「ほっほ!そら、一緒に寝ようぞホウ統!」

毎晩の話として、両手を広げ添い寝を希望する徐庶ではあるが。
まず毎回、統にゃんはそれを無視して床に就いていた。
そして起きた時には、ぎっちりと抱き締められているのも毎朝。

しかし今日は―――これこそ好機なのかもしれぬ、と。

「……じょ、じょくん……その…っ…」
「ん?」

徐庶が、如何な表情をしたのかを見届ける事は無く。
ぽふりと、統にゃんは広げられた腕の中の胸元に飛び込んだ。
教えられた通りに…というよりも。
飛び込んだはいいが、思考の方がどうしたらいいのやら理解出来ていない事からの反射なのだろう。

ぎゅう、と。
しっかりしがみついて。

「…ほ…急にどうした?ホウ統…」

暫くの間、空に置かれたままの両の手は。
するりと統にゃんの髪に指を通され、手櫛は梳いて同時に撫でられる。

―――そんなのは、何時もの事なのだけれど。

どうしてか、何時もと違い。
自然と、その身を摺り寄せたくなる衝動。
それに任せた刹那、ふと見上げた目線は徐庶の顔を捉えて。

きょとん、として二度三度瞬いた目元が愛し。
嗚呼、そんな表情もするのだなとか。
きゅうと一層に強くしがみ付きながら、やはり結局どうしていいやら解らぬままの思考と反射だけが勝手に独り歩く。

「…ほっほ、愛い愛い…」

そんな統にゃんの様子に、撫でていた掌は抱きすくめる腕へと変わり。
徐庶は、幾度も猫へと口唇を落として。
口付けに身悶えた所為もあるのだろうが、ふるりと震えた様にして統にゃんはすりすりと徐庶に身体を寄せ続け。

「…さて、今宵はこのまま寝ても良かろう?ホウ統…」
「う、む…い、いや…にゃ、にゃあ……じょくん……」
「ほっほ!何時もこうならいいのだがなあ。」

満足気な徐庶の笑顔を、瞬間に垣間見たのが最後。
胸元に抱きすくめられたそのまま、ぽすりとベッドの中へと潜り込まれる。



―――そういえば、何時も目を覚ませば抱き締められていたけれど。
向かい合ってというのは、初めてだった。



だから。
何時もより息苦しさを感じるし。

結局。
甘えてみて何か変わったのかも…よくは、解らなくて。

けれど。
優しく跳ねる徐庶の鼓動を聞き、徐々に眠り落ちるその心地。





愛し君の、現と夢の狭間に想い。
嗚呼―――この幸せなるを抱いて"にゃあ"と鳴く。

■終劇■

◆毎月22日はにゃんだぶるの日。
何時まで続くのかは、決めておいて分からない(滅)
だけど来月の22日はそれこそ猫の日なので、せめて来月くらいはまた。
…2月2日もか…?

それにしても、庶統はまだ良く掴んでないなあ…喋り方も双方…orz
数をこなしていくしかないですね。
そして統にゃんは甘え下手だと思うんだー、という一点突破な小噺。
実は分類的に一番よく分かっていないのってホウ統さんだよなあ。
ツンデレ気味ではあるけれど、それだけじゃないというか…素直じゃない様で素直だったりするし。
だから淮にゃんの言う事を聞いちゃったりする訳で(笑)
これもまた数をこなして、ですね。

まだまだ発展途上なにゃん仔たちですが、ここまで読んで下さってありがとうございました!
…僕も張コウさんにすりすりしたいぜ。
くそう、黒糖饅頭を食べてやる(笑)

2008/01/22 了



もう一度お隣さん

もむもむと饅頭を食し続ける、猫の様子を膝の上より感じ。
張コウからは、その表情なりを垣間見れる訳では無いが…幸多き笑顔をしているのであろう、とは容易く想う。

「…ふ…」

何とも可笑しさを感じて零れた微笑。
軽く抱いてやれば、炬燵よりも心地良い。

「…なんですか?ちょーこーどの。」
「…何でも無い、大人しく食べておれ。」
「……そうですか?」

抱かれている為、少しキツそうに振り返りながら淮にゃんは笑みの理由を問うたがはぐらかされて。
少々釈然とはしない様だが、またくるりと向き直して幸の時間。

かと思いきや。

「ちょーこーどの。あんこがついたので、とってくださいですにゃ。」

今一度、振り向いた淮にゃんの口の周りにはべったりと餡が付いていた。
というよりも、明らかに自ら付けていた。

「…何をしているのだ、お前は…」

く、と。
先程より、もう一段上の笑み。
いっそ、笑わせようとでも思ったのか。

「……生クリームやらでやるのは、聞いた事もあるがな…餡子というのは、そうそう聞かぬな。」
「…にゃ…」

猫の所望通り、頬にまで及びそうな餡子を優しく口唇で拭い。
丁寧に舌を這わせて舐め取れば。

「…くすぐったいですにゃ…でも、きもちいいですにゃあ。にゃあにゃあ♪……にゃっ……んっ……」

するり、と。
重なる。


重なったりも、する。


ちゅ…っ…

「……ちょーこーどの。いま、したがはいった…ですにゃあ……」
「ふ…口を減らさんで喋り続けるからだ。」
「むー……」

ぎゅむ、と。
恥ずかしいのか照れているのか、張コウの胸元に顔を埋めて。
いやいや、それはいいけれど。

「…郭淮、まだ完全に綺麗になった訳ではないぞ。」
「え。あらら?」

今度は、張コウの服に餡子がべたり。

「……やれやれ。」
「ごめんなさいですにゃあ。」

炬燵は暖かいし、猫はぬくぬくだし。
抜け出るのは億劫だけれど。


しょうがないので、今からは洗濯日和。

■終劇■

◆にゃん仔には、まだ純情が残っているらしい(笑)
通常の淮なら寧ろウエルカム、寧ろ自分からでも可の襲い受けクオリティ。

2008/01/30 了



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