♪Jelly-frog
しとしと、シトシト。
梅雨の雫は絶え間が無くて。
幾つも降り落ちる雨粒を窓から見上げる猫は、つまらなそう。
早く早く、晴れれば良いのにな。
「そうやっていても、すぐに雨が上がる訳ではなかろう。」
「…たしかに、そうですけど。」
キッチンからリビングに居る淮にゃんの様子を見に来た張コウは。
てるてる坊主の量産にも飽きて、じいいぃぃいいっと窓に手を付き雨粒を見続けていた猫の背中に向かって話し掛ける。
雨上がりのキラキラした景色の中を淮にゃんは散歩したいのだが。
許してくれない梅雨空に、すっかり御機嫌ナナメ。
くるりと振り向いた淮にゃんは、ぷくぅと膨れっ面。
「……ふ……」
「…なにか おかしい ですかね。ちょーこーどの。」
「いや…ふふ。」
何かと言われても淮にゃんの膨れ顔しか原因は無い訳で。
呆れと可笑しさを綯い交ぜた笑みを張コウは零す。
けれど、あまり笑っては更に猫の機嫌を損ねてしまうだろう。
機嫌を取らなくちゃ。
「そんなに暇だというのならクイズでもするか?郭淮。」
「クイズ…ですか。」
「例えばこのケーキは何をモチーフにしたのか、とかな。」
「ふにゃ、ケーキ…?」
てるてる坊主が散乱するテーブルの上に、コトリと張コウが作りたてのケーキを乗せた皿を置けば。
表情に出す前に、淮にゃんの尻尾がぴこんと反応した。
窓から離れて興味津々な様子でテーブルへ近付くとソファーへ座り、雨粒よりも余程真剣に皿の上のケーキを見詰め始め。
一目見て、ベリー系が主役と分かる二層で円筒のムースケーキ。
しかし底側の層は上の層よりも薄く、抹茶仕上げの模様。
上層のムースはストロベリーやラズベリーのピンクをしていて。
何より目を引くのは、一番上に飾られた沢山のブルーベリー。
「あっ、わかったですにゃ…これは"あじさい"ですかね?」
「ふっ…少々簡単だったな。」
張コウが作ったのは、梅雨の時期に一括りで想われる事が多いであろう紫陽花がモチーフのケーキ。
こんもりと丸みを帯びて盛られたブルーベリーが特徴を捉える。
「せいかいですか?…ふふ、それじゃ とうぜん "ごほうび"にケーキをたべて いいですよね。」
「そうだな…解答が早かったから、これもやろう。」
「にゃっ?」
得意顔で既にフォークを手に取る淮にゃんに。
張コウは正解に対する更なる御褒美をケーキの傍へ、そっと。
「わ、"かえる"さんですよ。」
雨上がりのキラキラは遠いけど。
猫を慰める様に、ゼリー細工の可愛い蛙はキラキララ。
「もったいないですにゃ…さいごに いただきます♪」
「食べる順番は任せるがな…」
わざわざ宣言をした上でフォークを構える飼い猫の姿を目にしては、張コウの顔も綻びるというもの。
だが淮にゃんは、この度の笑みは気にしていない様子。
構えたフォークをケーキに向けて、ゆっくりと切り出す。
…はむっ。
「…う〜ん…あまずっぱくて、とても おいしいですにゃ。」
「それは何よりだ。」
猫は生クリームが大好きだけれども、じめじめの時期には軽いムースとベリーの酸味が心地好い。
紫陽花のブルーベリーは、次々と淮にゃんのお腹へ消えてゆく。
「ところで、これは"しんさく"のケーキなのですかね?」
「試作品の1つ…というところだな、紫陽花のモチーフは。」
「じゃあ ほかには どんなケーキが あったのかな…」
ちらちら。
ケーキが大好きな猫にとっては、大変気になるところ。
「…ドーム状のケーキに色付けしたチョコレートで花弁を付けてゆく、とか考えてみたのだが…」
「ボツですか?」
「想像しただけで手間でな。」
「あらら…でもソレ、ひとつくらい みてみたいですよ。」
「ふっ…見るだけで済むか?」
「いただきます。」
「調子の良い奴だ…ふふっ…」
猫が構えたフォークは、まだ見ぬ次のケーキを見据えてる。
雨はまだまだ、止みそうにない。
手間なケーキを作るには丁度良いのかもしれない。
ゼリー細工の蛙も。
賛成する様に、皿の上からふたりを見上げてキラリと輝いた。
■終劇■
◆小品ですが、一応は小噺の形で三国志側の話を書くのが何時振りなのかと思うと本当…(頭抱え)
スミマセン余裕で1年以上振りです、2011年は書けてないorz
戦国に現つを抜かしていたというか数を揃えていたというか。
遅筆なもので…(´・ω・)
大変久し振りですが、しかしちょこ淮への愛は変わり無しです!
という訳で…あにまる的に基本としている、季節とケーキと日常な飼い主さんと猫のお話でした。
2012/06/某日 拍手御礼
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