└A
決めポーズのまま、若干、陶酔している様だったので。
その隙に、思った素直を猫同士は小声で漏らしてみたのだが。
バッチリ聞かれていた。
…しかし、その言葉通り朶思大王は特に傷付く風でも無く、少し思案したかと思うと猫に問う。

「アナタ達に飼い主さんって居るのかしら?」
「いますよ、おれにはちょーこーどのが。ほーとーどのには じょしょさんがいますにゃ。」
「飼い主さんって男性?」
「そうですね。」「うむ。」
「じゃあ…そんな飼い主さんの事が、好き?」

朶思大王は少し膝を曲げ、猫の目線に近付けると。
導く様、問いを並べて。

「もちろんですよ、だいすきなのですにゃ♪」
「…う…ま、まあ…きらいでは…ない、のう…」
「ホホホ。それなら、アナタ達もアタシと同じだわ。」
「ふにゃあ?」

導きは、朶思大王の思惑通りであったのか。
猫の答えを聞くと、意を得た様に機嫌を良くして笑む。

―――そうでしょ?

「恋とは違うかもしれないけれど、好きの気持ちに同性も異性も無い事を分かっている筈よ。」
「にゃあ、なるほど…それもそうですね。」
「ホホ、分かってくれた?」

納得した猫の様子に朶思大王は満足すると。
曲げていた膝を正し、猫達が外へ出られる様に道を開ける。

「さっ、そろそろ此処での初公演準備をしないといけないから。」
「じゅんび ですか。」
「そうよ、身支度…の前に、お風呂にも入らなくっちゃ。ステージはアタシの勝負の場なの。」
「な、なるほど。」
「そして勝負のネイルは赤と決めているのよっ!」
「…は、はあ。」

今一度、美麗なターンを決めっ。
今度はバルボアちゃんもずり落ちず、完璧と書いてパーフェクト。
そんな朶思大王に、流石の淮にゃんも付いていけなくなっている。
統にゃんは、もっと前から。

「え〜と…では、そろそろ…」
「あっ、待って頂戴。コレを持っていって。」
「にゃあ?」

おいとましようとした猫達を朶思大王は引き止め。
ヒラヒラと、某かの紙を振る。

「なんですかね?」
「このサーカスの割引券よ。良かったら、アナタ達の大好きな飼い主さんと観に来てほしいわ。」
「わ、ありがとうですにゃ。…はい、ほーとーどの。」
「あ、ああ…ありがとう…」

朶思大王から手作り感満載の割引券を受け取った淮にゃんは。
統にゃんと、仲良く半分こ。

「おねがいして、ぜったいにみにきますからね。」
「ホホホ、待ってるわよ。」

小さな手を振り振りして、猫達は朶思大王にさようなら。
―――さあ。
飼い主さんへの、おねだりを考えなくっちゃ。ね。


―――…


「ふにゃあ…すごいですねえ。」

夜。
おねだりに成功した淮にゃんと統にゃんは、飼い主さんと一緒に初めてのサーカス鑑賞中。
様々な演目が繰り広げられ、今は白象に跨る猛獣使いによるショーが最高潮を迎え終演した。

「木鹿大王による猛獣の宴…如何だったであろうか?」

獣達が最後まで規律を保ち。
奥へと消えた後のステージには、開演より進行を務める男性が姿を現し、客席に問うと。
たちまち沸き起こる拍手が賛辞を伝える様にテント内を包む。
その中には、淮にゃんや統にゃんもぱちぱちと。
満員御礼であった為、それぞれ張コウと徐庶の膝の上に座って惜しみない拍手を送っている。
…の、だが。

「…ねえ、ほーとーどの…あれは、やっぱり…」
「…そうなのかのう…?」

どうも猫達には、開演した当初から気になる事が有る様子。
その原因は。

「…バルボアちゃん…」
「…だと、おもうが…」

昼間、自分達の事を捕食しようとした蛇が。
進行役である男性の身体に大人しく巻き付いているのである。

「…だっしーさんの いうこと しか…きかないって…」
「…いっておった…のう。」

朶思大王が、バルボアちゃんに対してその様に言い付けている…という考え方は勿論、出来る。
だが、そもそも何故こんなに混乱してしまっているのかといえば。
バルボアちゃんが巻き付いている、その男性が。
昼間の朶思大王と一致するやらしないやら、だからである。

「それでは、次の演目に移らせていただこう。」

まず、この、喋った時点で別人だと思ったのだが。
腕を広げ、観客の期待を煽る。
その、指先。

「…しょうぶの…」
「…ネイルは…」


…赤、だ。


ますます、混乱するばかり。

「"ひげ"とかは、それば…」
「そとがわは、たしかに ばけることが できるかもしれんが…」
「ほっほ!どうしたんじゃ?さっきから…内緒話かの?」
「…つまらんのか?」
「いっ、いやいや そんなことは ありませんよ。とてもたのしんで いますにゃ♪ねえ。」
「うっ、うむ。」

混乱したままではあるが、しかし考え過ぎては場が楽しめない。
それでは連れてきてくれた飼い主さんにも申し訳ないし、朶思大王であるか否かは一先ず置き、次の演目へ胸躍らせる事にした。

「次は、客席の中の何方かに象へ乗っていただきたいのだが…」
「ええっ、"ぞう"にのる?」

きらん、と。
淮にゃんはその言葉に、本日最高に瞳を輝かせる。

「2名お願いしたい、如何だろう。我こそはという方は?」
「はいはい、ここにいますよ。」

張コウが押さえていなければ膝の上から落ちてしまいそうな勢いで、名乗りを上げる淮にゃん。
その様子を隣で見る徐庶は、ならば、と。

「ほっほ!折角なのだからホウ統も上げてはどうだ?ほうれ♪」
「ひ、ひとのうでを かってに あげないでくれ、じょくん!」
「2匹で選ばれれば良いの!」
「わ、わた、わたしは そこまで のりたいわけでは…!」
「おや?今宵は随分と可愛らしい客人もいらっしゃる様だ。」

ぐるりと、ステージ上から観客席を見回す男性に。
意味合いは異なるが、必死な様子の猫は目に留まったらしい。
片方の猫は、全力で挙手をしていて飼い主が膝の上から落ちてしまわない様に留めているし。
片方の猫は、飼い主が強制的に挙手させるに対して全力で抗おうとして全然抗えていないし。
とにかく、騒々しいのは確かで。
目を引くのも、確か。

「では、そこの2匹の猫達に象との共演を願いたい。」
「おれたちですか?わあ、やったですにゃ。」
「な、なぜ こんなことに…」

猫達が居る観客席近くまで男性が歩み寄ると、掌を差し伸べてステージ上への招待を示す。
飼い主さんに見送られて、猫が男性に近付くと。
まずは淮にゃんを抱え上げ―――

「…ホホホ。観に来てくれて嬉しいわ、猫ちゃん。」
「あっ…やっぱり、だっしーさん だったのですね。」
「そうよ、気が付いてくれた?」
「そうかな、とは…でも、ひるとは ぜんぜん ちがいますね。」
「ホホ、言ったでしょ?このステージはアタシの勝負の場だって。決める時は決めるのよ。」

大人しく座り待つ象の元に寄り。
その背に備え付けられた大きな鞍と、小さな淮にゃんとを、朶思大王は一度交互に見やると。

「アタシの一存だけれど、演目上という形でならアナタ達を象に乗せてあげられるでしょ?約束を守ってくれた御礼よ。」

パチリとひとつ、ウインク。
次は統にゃんを迎える為に、くるりと決めたターンは。
猫が昼に見たターンと。


全く、同じだった。


―――…


「ガハハハハ!肉持ってこーい!お前ら、どんどん食え!」
「ちょっとあんた!猫は肉より魚の方が良いんじゃないのかい?」
「何を言うか!魚なんぞ腹の足しになるか!肉だ肉!」
「おかまいなく、"おにく"もだいすきですよ。」
「そうかい?」

もぎゅもぎゅ。もぐもぐ。

「そうだ、すてきなアクロバットでしたにゃ♪しゅくゆうさん。」
「あら、ふふ…それは嬉しいね、ありがとう。」

くぴくぴ。

「…ふむ、すこしかわった"さけ"だのう…」
「ガハハハハ!好きなだけ呑んで構わんぞ!」

猫と象の共演は、本日一番の盛り上がりを見せた演目となり。
淮にゃんと統にゃんはこの地での初公演成功の立役者として、公演を終えるや否や即開始された宴の中に招かれていた。
成功しようがしまいが、取り敢えず盛り上がっておく流儀らしい。

「楽しんでくれてる?」
「あ、だっしーさん。もちろんですよ、にぎやかですね。」
「ホホ。まあ、家族同然っていうか…そうよねえ、優ちゃん。」
「ぶふっ!?…優ちゃん呼ぶな!というか、せめてその格好の時は普通に喋ったらどうなのサ。」

傍で帯来洞主や忙牙長が呑み交わしている輪の中。
朶思大王は孟優にのみ目線を送り、話を振る。

「アタシとしては、どっちも普通なんだけど。」
「…そうだろうけどサ。」
「おーい!我が弟よ!肉が足らんぞ!ガハハ!」
「…やれやれ何で俺なのサ…兄貴がお呼びだから行ってくる。」
「はーい、優ちゃん。」
「…あのなあ…」

ブツブツと、納得しかねる小言を零しながら。
孟獲の為に新たな骨付き肉を取りに向かった孟優の背中を見送り。
ぽそり。
朶思大王は猫達に零す。

「…優ちゃんって、ギャップ萌えは無いのかしらね。」
「…ど、どうですかねえ。」
「す、すまん、もういっぱい。」

ギャップ萌えというのは、そういう意味か?という事も含めて、ちょっと判断が難し過ぎて。
淮にゃん、精一杯の回答。
統にゃん、呑むに逃げる。

「朶思大王。」
「あら何か?金環三結殿。」
「ソノ猫ノ飼イ主達ガ迎エニ来テイルノダガ。」
「えっ、ちょーこーどのが…」
「じょくんが…」


象さんの背中は。
広くて、大きくて、安心出来て。

だけど―――


「…名残惜しいけれど、そろそろさようなら、ね。」
「にゃあ…ざんねんですけれど…きょうは とても たのしかったですよ。ありがとうですにゃ。」
「ホホ、そんな顔をしないの。」

知っている筈、でしょ?
誰の傍に居れる事が、幸せか。

アタシが―――此処に居れる事が、幸せである様に。

「アタシ達、暫くは此処で公演しているから。アナタ達なら遊びに来てくれるのは大歓迎だわ。」
「ときどき…かくわいと、あそびにこさせてもらう。」

2匹の猫は、昼と同じ様に朶思大王へ手を振ってさようなら。
テントの外へと走り出せば、待っていてくれているのは。


象さんよりも。
広くて、大きくて、安心出来て、あったかい背中で迎えてくれる。
大好きな大好きな飼い主さん。

■終劇■

◆大変今更ながら。
毒泉朶思大王お帰り記念です♪

◆ええと…僕、朶思たんの事を恋する乙女だと思っているらしいのですが大丈夫でしょうか(…)
優朶思美味しいです。今回は一応、大戦3仕様の優ちゃん。
という注意も入れた方が良いのか迷ったのですが。
しかし本筋的には特筆しない方が良い様に思えたので、結局記さずでしたが…大丈夫でした、か…
というか、この反省会までお付き合い下さっておりますか。
色々と心配ではありますが、書いた本人は楽しかったです。
そりゃあ、こんだけ好き勝手に書けばそうだろう(苦笑)
毒泉朶思たん=軍師朶思たんという、軍師朶思たんが出た時に考えた事が形に出来て良かった♪
軍師仕様の時は、朶思たんの勝負服的な時なのかなとか。
大戦2毒泉朶思たんの戦器であった、パパイヤに因んでの8月8日も。話の軸にした、サーカスの日である10月26日も。
見事に過ぎましたがorz
毎度毎度、書き始めるまでが遅過ぎなんじゃよ自分…
しかしその。
南蛮勢によるサーカスがあったら、見てみたいなあ(*´ω`)
パワフルでダイナミック且つ、妖しい魅力に満ちてそうですね♪

2010/11/01 了



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!