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淮にゃんの対応に口元を綻ばせ。
ゆらり、猫耳と同じ真白の尻尾を快の意味で猫は揺らすと。
軽く笠を上げて目元を晒し、視線をもって改めて礼を示した。

「おれたちに、なにか"ようじ"ですかね?」
「ああ、ちょっと"さがしもの"をしているんだがね。」
「"さがしもの"…ですか?」
「"ひと"と"みち"なのだがな。」



「え〜と、もうちょっとくわしく おしえてくださいよ。」
「つまりだ、おれの"かいぬし"と"かえりみち"をみうしなったのだが、それらしいのをみなかったかと おもってな。」
「…要するに。」
「…迷子、ですかな?」
「まあ、そんな"いいかた"をするかもしれんがね。」
「…それいがい ないだろう…」

どうやら正体は迷子中の猫。
当人の様子を見る限り、さして切羽詰り困っている風ではないが…
もう大分、遅い時間でもあるし。
飼い主が居るというのであれば、見付けてやりたいとは思う。
だが。

「う〜ん…それらしいのは…」
「みておらんのう…」

生憎と淮にゃんにも統にゃんにも、そして張コウと徐庶にも。
心当たりとなる人物は思い浮かばず、顔を見合わせるばかりで。

「…じゃまをしたな、べつのばしょを さがすことにするか。」

その様子に総てを察したのか。
白い猫は、一礼を残してこの場を去ろうと―――

「ま、まってくださいにゃー。"かいぬし"さんとは、このあたりで"はぐれた"のですかね?」
「…そうだな。」
「ならば、此処で花火でもしておれば…その飼い主殿も私達に聞きに来るかもしれませんぞ。一緒に居てはどうかの?ほっほ!」
「にゃあ、それがよいですよ。」
「…いさせてもらっても かまわないなら、そうするがね。」
「もちろん、はい!"はなび"をどうぞですにゃ。」
「ふふ、ありがとう。」

パチパチ。
手持ち花火の権勢が、再び星空を凌駕して。
煌めきと闇の織り成しはお互いの距離を縮めて饒舌にさせる。

「それにしても、"かいぬし"さんって…どんなかたですかね?」
「ん、"げんちょく"か?」
「…え…げ、"げんちょく"…?」
「ほっほ!何じゃ急に、呼んだかの?ほう…いや、士元や♪」
「ち、ちがう!きみじゃない!」

猫同士で寄り添い花火に興じていた中での会話だというのに、流石にそこは耳聡いというか。
少し離れて見守っていた筈の徐庶は、字で呼ばれたと。
そう、字。

「んん?しかし今、確かに元直と呼んだじゃろ?」
「そ、そうだが…しかし、きみではなくて"かれ"の…」
「…もしかしなくても、なまえを"じょしょ"といわないかね?」
「ほっほ!おや、おや。紹介してくれておったのか?」
「い、いや…ちがう。」

一連の流れに話は噛み合っておらず、一体これは如何な事なのか。

「…じゃあ、"ほーとー"は…あんたが そうかね。」
「な、なぜ、わたしの"な"を?」

謎は深まるばかり。
…かと、思われたが。

「なるほどな、ほんとうにおなじ"な"と"あざな"なのか。」
「…どういうことなのだ?」
「じつは、きょう ひっこしてきたんだが…"じょしょはもういる"とか"ひっこしや"とのあいだで こんらんしてな。」
「あっ、それじゃあ…マンションのまえに とまっていたのは…」
「なんだ、おなじところにすんでいるのかね?」
「にゃ!きっと そうですよ。」
「まったく、"かいねこ"の"な"までおなじときた…ふふ、おれも"ほーとー"なんでね。」
「そ、そうなのか…」

これで総ての糸が繋がった。
淮にゃんが聞いた"徐庶"の名はお隣さんではなく、この―――真白い統にゃんの飼い主の名で。
新しい御近所付き合いが生まれる事になる様子。

「しかしこれで、"みち"のほうは どうにかなるか。」
「…最悪、俺達と一緒に帰れば良いだけの話だからな。」
「そのとおり。」
「で、でも、こうしているあいだにも さがしているんじゃあ…」
「それいぜんに、そういや…げんちょくのやつ、"ほうこうおんち"だったようなきがするな。」
「だ、だめだろう それは…」

何をどうして、ここまで悠々と構えているのやら。
これもまたひとつ、信頼の形と思えばいいのやら。
とにかく、淮にゃんや統にゃんからしてみれば自分たちが今まで見てきた飼い主との関係性とは…一味、違う様に映って。
不思議そうにしながら真白の統にゃんの話を聞いている、と。

「士元ッ!」

突然、バサァ!と植え込みが盛大に揺れて、もうひとつの影。
猫のものとは違う大きなそれは、他に何も見えていないかの様に…真白の統にゃんへと駆け寄る。

「ったく、探しただろうが!まだよく知らねえ街で、いきなりフラっと消える奴があるか!」
「ふふ、そういうな。」
「言うわ!…って、すまん、もしかしてお前さん達…コイツの面倒を見てくれていたのか?」

余程、猫を探し回ってようやく見付けたからか。
どうやら本当に、周りの状況までは見えていなかったらしい。
ここで初めて、自分の猫以外にも猫とその飼い主と思しき人間が居る事に…徐庶?は、気付いた。

「…まあ、間違いではないな。」
「それは悪かったな。」
「にゃあ、いいのですよ。えっと、じょしょさん…ですか?」
「ああ、そうだが…何だ、士元から聞いたのか?」
「ふふ…よろこべ げんちょく。ぶじに かえれそうだぞ。」
「…オイ待て、どういう事だ?」

走り回った疲れも有るところに、一度に情報が流れ込み。
如何な事になっているのか流石に処理をしきれず、徐庶は頭を掻いて順序立てた説明を求める。

「つまりですね、おれたちは じょしょさんたちが"ひっこし"てきたところと おなじマンションにすんでいるのですよ。」
「…それは助かる…正直、帰り道がだなァ…」
「…本当に方向音痴なのか。」

方向音痴らしい。

「げんちょく、それともうひとつ…"じょしょ"と"ほーとー"だ。」
「うん?…そうか、先に全く同じ名前で住んでいるのが居るってのは…お前さんたちの事か。」
「ほっほ!宜しくですぞ。」
「うむ、よろしく…」
「フーン…」

同姓同名、字も同じ。
それが会するのはやはり珍しく想うものか、後からの徐庶は交互に先の徐庶と統にゃんと…自分の統にゃんとを、見比べて。

「…なあアンタ、士元を交換する気はないか?」
「そういうことは、せめて おれに きこえないようにいってはどうかね?げんちょく。」
「どうせ本気で言っていない事くらい、分かってるんだろ。」
「ふふ、もちろんだ。」

飼い主が現れても、やっぱり。
淮にゃんや統にゃんからしてみれば、不思議な関係性に見えるが。
しかし交わす言葉の端々には、こういった形の信頼性というのも有るものかという事を感じさせる。


―――自分たちと、変わらない。
大好き、なんだろうな。


「さて、どうする?花火も粗方を終えてしまったが…」
「そうですなあ、もうすっかり遅くなりましたしな…」
「きょうのところは おひらき ですかね。」
「そうだのう。」

気が付けばすっかり話し込んでいた内に、時刻は日を跨ごうかという頃になってしまっていた。
そんな時刻も手伝い、今日は夕方から色んな事があって―――
猫たち、には。

「…げんちょく。」
「何だ?」
「げんちょくを さがして つかれた。おぶってくれないかね。」
「お、お前なあ…どう考えても、俺の方が大変だっただろうが。」
「ねむい。」

こてん。
むぎゅう…っ…

「…コイツはよ…」


―――…


「…すー…すー…」
「…本当に寝るとはな…」
「…引っ越して来た初日だ、実際、疲れもあるだろう…どちらかといえば問題は、お前の猫より…」
「ほっほ!まあ、まあ。」

3人の飼い主さんが帰路に就き。
その背中には、自分たちの愛猫。
淮にゃんは便乗する形で、統にゃんは徐庶が勝手に背負う形で。
そんな過程はどうあれ、今の3匹はみんな等しく安らかな寝息を立てて飼い主さんの背に揺れる。

「…そういえば、ついでなのだが…実はこの街には、もう一組の徐庶とホウ統が住んでいてな。」
「なっ、何ぃ?」
「飼っておるのはうさぎですがな、ほっほ!」
「…此処は徐庶とホウ統が集まる様に出来てるのか?」
「ふ…さあな。まあ、その内…猫が紹介してくれるだろうさ…」



―――星空は、まだまだ瞬いて。
飼い主さんの揺り籠に掛かる天蓋の様に猫たちを包み込む。
逢える夜、逢える夜。
出逢えた夜。

猫たちは同じ夢を見て。
貴方の為に夜想曲を紡ぐ。

■終劇■

◆七夕でも雛命日でもなくなった様な気がしますけれどorz
もう今の気持ちとしては、とにかく侠者と天人を出したい!まずは、あにまるから仲間にー!
…って思ったんですけれど、侠者の出番が遅過ぎて影の薄い事ときたらハハハごめんよ(;´ω`)
い、一応は雛がメインの日だし…
2年続けて、しんなりな小噺を書いてきましたが…やはり性根としては、皆仲良く幸せに!とか思いながら書く方が性に合って。
暫く、がっつりとあにまるを書いてなかったし(汗)
WBの稼働は本当に丁度良かったなと、個人的には思います。
これから先、侠者庶っちと天人統にゃんもちまちまと書いていきたいと思っておりますので…
見守って頂ければ幸いです。

そして雛には、安らかな眠りを願うばかりです。

2010/07/07 了



あきゅろす。
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