交わるは色の取り、綾の如し
彼は誰と判別付かぬ、誰そ彼時。
とうに月も顔を見せているというのに、誰と問う彼の姿は未だ。
早く早く。
色を総て隠してしまう、黄昏時が過ぎ往く前に。


「…じょしょのやつ、かえってくるのおそいなあ…」

夕闇に暮れかける窓の外を見詰めながら、ホウ統はソファーのスプリングを鳴らして腰掛ける。
カーテンを閉めて、部屋の灯りを点けて、夕飯の準備を。
そんな時間なのに、何時もそうしている筈の徐庶が帰らない。

「…カーテンくらいは、しめておいてやるか…」

ぽつりと呟く雛うさぎ。
膝をきゅ、と抱えて窓とも外ともカーテンともつかぬを見る。
でも。
徐庶が、帰ってきて。
徐庶が、するのだから。と。
窓の外を見据えるを止して、一層に強く膝を抱える。

「……ひま、だな。」

読み掛けの書があった気がするけれど、そんな気にはなれない。
ひとりの時は。
まだ、ひとりだった時は―――どうしていたんだっけ?

しゅる…

「やるの、ひさしぶりだな…」

ホウ統は冠を外し下ろすと、何本かを結い集めて一つとしていた紐をひとつ解し、ふたつの先を結び合わせて輪を作り出す。
ピン、と。
輪の中に掌を差し入れて張り詰めさせれば、結び目は解ける様子無く輪を維持し続けて。
結び目の強度を確認したホウ統は、そのまま指と紐とに交差を作り、徐々に徐々にかたちが宿る。

「…かにー…なんてな。」

両の5本の指と紅い紐が創る、誰と問う彼を模した赤い蟹。


―――はじめて。
初めて、徐庶に会った時。
「徐庶」って名前も知らなくて。
だけど、売れ残っていた俺を通り過ぎに見て行くだけの連中とは…絶対に違うと、想った。
それで―――
それで、創ったんだっけ。

彼は誰か。
取り合えず、蟹かな。


「…雛。」
「って、うわああああ!なんだ じょしょ!かえってきたんなら、もうすこし けはいをだせよ!」
「…いや、灯りも点けずに居たから、寝ているものかと…」

何時の間にか帰ってきていた徐庶に声を掛けられ、ホウ統は飛び上がる勢いで徐庶に抗議して。
慌てて指の中の蟹を崩し隠そうとするものの、焦っている為に指から外れず絡まってしまう。

「…?…綾取りか?雛。」
「…ひ、ひまつぶしにな…その、たまにやっていたからよ…」

ホウ統にとっては幸いというのか、徐庶に見られたものの形はある程度崩れた為に蟹だという認識はされなかったらしい。
カチ、と徐庶が灯りを点すと指の中の紅は鮮やかを取り戻し。
ホウ統の知らぬ内に、夕闇は既に落ちていた様だ。

「……お、おそかったな。」
「ああ…少々手間取ってしまってな…悪かった…」
「べ、べつにいいけどさ。」

自分の隣に座られてしまい、最早隠し様の無い紐をどうしたものかとホウ統は持て余していると。
徐庶は、そのホウ統の指に絡む紐にそっと触れてしげしげと。

「…綾取り…は、得意なのか?」
「とくい、ってんじゃないけどな…だいたい、どくがくだし。つくりかた、たぶんムチャクチャだとおもうぜ。」
「その方が凄いと思うが…良かったら、俺に教えてくれるか…?」
「え、あ…い、いいぜ。」
「では…」

ふ、わ…すとん。

「ちょ、な、なんでおれを ひざにのせるひつようが…!」
「向かい合わせよりも、この方が分かり易いかと思ったのだが…」
「…そ、そうかよ…ところで、ひもはどうすんだ?かんむりのだと、じょしょにはみじかいよな。」
「それでは…ホウ統の髪を結いているのでは駄目か?」
「ん…これ、か。」

髪を結わいていた紅の紐をしゅるりと解けば、はらはらと徐庶の胸元にホウ統の髪が流れ落ち。
伸びるうさぎの耳を揺らして振り向くと、紅を徐庶へ。
そうして受け取った紅を、徐庶は両端を合わせ丁寧に結ぶと。

「じゃあ、まずはかんたんなやつからだよな…」

雛がするすると指を交わらせ、紅を交わらせ、有機も無機もかたち有るをひとつひとつ工程を蟹さんに伝えながら生み出して。
ひとつひとつ、蟹さんは雛の指先が創るを追って生み出す。
小さなと大きな、ふたつがかたちを持って生まれてはまた変わり。

「…じょしょ、おまえさん のみこみがはやいな。」
「そうか?…俺は、雛の教えが良いからだと思うがな…」
「きほんじゃねえかとおもうことは おしえたからよ、なにかじぶんでつくってみたらどうだ?」
「…ふむ…」

ホウ統がそう告げると、徐庶はこれまでの事を応用して某かのかたちを創ろうと試行錯誤を始めた。
紐を取る音がホウ統の頭の上でシュシュと響き、黙々と。


嗚呼、きっと。
そうだよな。


「…雛。」
「なん…」

不意に、紐の音が止して徐庶の声が響いた。
振り返っても良かったけれど、その時はどうしてか天井を天上を見上げる様に顔をいっぱいに上げて徐庶の顔を見付け…
た。
と、思ったら口唇が降っていた。
額に、だったけれど。
さらさらとはらはらと結びの失った髪が、一層に流れ落ちる。
流れを聞くその時も、柔らかな口唇はずっと。

ちゅ…っ…

「……な、なん…だ、よ……」
「…何…とは、完成したから呼んだのだが…」
「そ、そうじゃねえっての。…いや、もう、いいけどよ…」
「雛も…また、何か創っていた様子ではなかったか…?」
「んー…へへ、どうせわかってるんだろ?おれも、だけどよ。」

徐庶の膝に乗っているホウ統は、膝から落ちぬ程度に向きを変えて徐庶と向き合う姿勢を作り。
お互いに創り出したかたちを差し出し見せれば。



雛の手には、ちいさな蟹さんが。
蟹さんの手には、おおきな雛が。


"ほら、やっぱり。"
そう言う雛が笑えば、蟹さんも。



―――綾、とは。
交わりの意を持ち縁を成す。
それを取るのが赤きであるなら、きっと巡り逢うが必然と。

■終劇■

◆…約2ヶ月振り…ですか(爆)
いやはや、ちょぼちょぼと会話文を書いてはいましたが書き方なんてのは忘れますね!(…)
これはイカンと、リハビリ書きで御座います…
少し前にやってみた新境地系のバトンで、あやとりが趣味の軍師雛という組み合わせが出て。
あ、いいなーって。
そしてうさぎさんの方ならもっといいなーって(笑)
ちょっと伏線というか、雛うさと蟹さんの出会いの様子も少し。
いや、本当ならサボってた分としてそっちの小噺も一緒に上げて消化するつもりだったのですが明らかに無理だったというかorz
また次の機会に。
うむー、雛うさの方は大体背景とか出来ていて書いているのですが、蟹庶っちはかなりフワフワな状態です。未だに(苦笑)
職種も決まってないぞ!

あと、本日5月23日はキスの日なのですと。
日本で初めてキスシーン有りの映画が公開された日。
蟹さんと雛のチュウはおデコが基本だと信じて疑ってませんよ!…唐突に詰め込んだ感が有るのは否定しませんが(苦笑)
そこに雛のおデコがあれば、そりゃあチュウするだろう普通(…)

2009/05/23 了



あきゅろす。
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