雛うさぎさんの耳
ぴょこん、と。
綺麗に伸びた、うさぎの耳。
ふわふわのそれは、何時も真っ直ぐ天を向いている。


「…んん…むにゃ…」

炬燵に当たる、というよりも。
どちらかといえば「浸かる」という表現の方が正しいかもしれない。
ぽかぽかの炬燵は、冬の様相を呈している外の空気が在るからこそ、一層に心地良く感じられて。
ホウ統は全身に広がるじんわりとした温かみに眠気を覚えて、こくりこくりと船を漕いでいた。

「…雛…」
「……んー…?」
「眠いのであれば…首まで埋めて横になって寝ても…」
「……んんー……」

ホウ統の正面で、徐庶も炬燵に当たっている。
このままでは、何時かガツンと炬燵台に額をぶつけてしまいそうだから。
一声掛けてみるものの、うさぎは既に八割方の夢心地。

ぷるぷる。

「……雛。」

天を向いているうさぎの耳。
それが、船を漕ぐ度につられてかくんと斜めを作り。
徐庶の前でふるりと揺れている。

…さわさわ。

「っ、ひあっ!?…なんだよ、かってに みみをさわるなって。」
「……すまん。」

思わず手を伸ばして触れてみると、驚いたのか擽ったかったのか。
びくんと身体を震わせてホウ統は覚醒し、徐庶に抗議する。

「…何時も…綺麗に耳を立てていると思ってな…」
「…ん…ああー…デカイじょしょには、わからないだろうよ。」
「何故だ…?」

てしてしと自分のうさ耳を2、3度撫でて。
ホウ統は眠り落ち掛けるを邪魔された事から、少し不機嫌そうに。

「…おれは、ちっちゃいから。たててりゃ、ちょっとは せがたかくみえるかとおもってよ…」

それだけを告げると、もぞもぞとホウ統は炬燵の中に潜り込んだ。
今度こそ眠り落ちてしまおうと。
思った、のに。

「(かんじ、わるかったかな…)」

ほんの少し、冷静を取り戻した意識で自分の言を反芻すると。
徐庶に当たっている様で悶々。
かといって、どうしていいかも分からなくて悶々。

「……雛……」
「わっ、な、なんだよ!?…ちょ、ま、まて!せまいだろ!」

どんどんと醒める意識は、しかし周囲が見えてはおらず。
不意に呼び掛けられたホウ統が気付いた時には、すぐ傍で徐庶が自分の事を覗き込んでいて。
どうと返す間も無く。
ホウ統が埋まっている炬燵へ、徐庶は窮屈そうにしながらも同じく横になって埋もれる。

「お、おい…」

狭いから、自然と密着するし。
そうこうしている内、徐庶はホウ統をそっと包む様に腕を回して。

「…大きいとか、小さいとか…横になれば関係あるまい…そら…」

そう言うと、ほんの少し回した腕に力を籠めて。
けれどそれは…抱き寄せるものではなく、徐庶が、ホウ統のちいさな胸元に縋り寄る様にして。

だから、ホウ統の方が徐庶の頭に顎をちょこんと乗せて。

「…だ、だれがとんちのはなしをしろ、っていったんだよ…この…ば、ばかかに…っ…」


俺は、うさぎなんだから。
心臓の音、これで普通なんだよ。

速くなんか。


「…じょしょ、もしかして こたつからあしがでてないか?」
「…ああ…だから、な…雛…」
「ん?」
「…大きいのも、そう…良い事ばかりではないだろう…?」
「へへ…そうかも、な。」

ぴんと伸びる、うさぎの耳。
貴方よりも大きな今だけは、へにゃりと地を向いて。

■終劇■

◆うさの日は23日でどうかなとかナントカです。
蟹さん初自引き記念も兼ねておりますともー。いえあー。
雛なうさぎさんは、普段ちっちゃいのを気にして頑張って耳を真っ直ぐ立てているのですよ、と。

2008/12/23 了



あきゅろす。
無料HPエムペ!