♪Coffee Sugar Brownie
「淡雪夢想」の後日談

ユラユラと、ユラユラと。
下から上へ、仄温かく立ち上る湯気は幽玄の白。
じっと見詰めれば、視界を朧に捉われ狭間を忘れそうになる。
現つか、夢か。

―――あれは、夢だった。

「……ど、の。ほーとーどの!」
「…っ、え…あ、ああ…なにかよんだか?かくわい。」
「そんなにかきまぜたら、コーヒーが さめてしまいますにゃ。」
「…ああ、そうだな。」
「まあ、"ねこじた"ですからね。それくらいまぜても、いいかもしれませんけれどにゃあ。」

今日の3時のお茶は、張コウさんのお宅でまったりと過ごし中。
2匹の猫は、用意してもらった珈琲とお茶菓子を炬燵へ乗せて、こぽこぽとカップへお湯を注ぎ。
広がる深いブラウンと芳ばしい香に包まれて、角砂糖をひとつ。
くるくるとスプーンを回し、溶け消えた白い立方体を確認すると。
淮にゃんはソーサーへスプーンを置き、ふうふうと程好い熱さにするべく息を吹き掛けて。

ふ、と。
統にゃんの手元が、見えた。
くるくると、今だにスプーンを回し続けていて。
不思議を思い顔を上げれば。
無心の様で、しかし、何かに意識を囚われている様な姿が映る。
これは一声掛けても良いものなのか、少々躊躇われるその様に。
淮にゃんは結局、声を掛け統にゃんの意識を引き戻す事にしたのである。

「…すまぬな。」

スプーンを止めれば、深いブラウンの液体は慣性によってちいさな渦をカップの中で描く。
―――また、引き込まれそうな。

「…なにか、かんがえごとですかね?ほーとーどの。」
「いや…なに、その…しょうしょう、ふしぎなゆめをみてのう…」
「ゆめ?」
「ああ、だから―――かんがえたところで、なににもならぬのだがな。」

しかし、矢張り、覚えている。
胡蝶の夢とは、よくも言い。
何とも何とも、不可思議な心地を統にゃんは持ち続けて。

「…ミルク、いれないのか?」

話を逸らしたい訳ではないが、自分自身でも説明の付かなさから合間に一息を入れたくなり。
何か良い切っ掛けはないものか、統にゃんが目線を巡らせると。
何時もは既に琥珀色をしている筈の淮にゃんの珈琲が、ブラウンのままである事に気が付いた。
ミルクポットに手を掛け、淮にゃんへ手渡そうと。

「…きょうは、いれないでのもうかと おもいましてね。」

柔らかに断りを入れ。
代わりなのか、真白い角砂糖をもうひとつ沈める。

「…めずらしいのう。」
「…じつは、おれも…けさ、ふしぎなゆめをみたのですよ。」
「ほう?」
「おれが"にんげん"で、ちょーこーどのが"ねこ"にいれかわっていた ゆめだったのですにゃ。」
「…えっ?」

淮にゃんの話に、統にゃんは驚きを隠せず。
思わず声を上げる。

「にゃっ?…もしかして、ほーとーどのがみた"ゆめ"って…」
「…きみがおもっているとおりで まちがいはあるまい。」

程良く冷めた珈琲を、一口こくりと飲んで。
果たして相手の主人はどんな猫になったのか、暫しの沈黙。

「…じょしょさんは、"ねこ"でも うまくやっていけるんじゃないですかねえ。」
「きみも、そうおもうか?」

夢想いの話を共有出来るとは思わなかったから。
驚きながらも、嬉々とした様子が二匹の言葉の端に浮かぶ。

「しかしのう…きみのしゅじんが"ねこ"なのは、ちょっとすぐにはけんとうがつかぬな…」
「そんなことはないですよ、かわいかったですにゃ。」

益々分からん。

「…まあ、そのあたりのかんせいは それぞれだからのう…」
「ほんとうですよ…そう、ちょうど…こんな、コーヒーいろをした、みみとしっぽでしたにゃ。」

―――嗚呼、成る程。
だから、か。
琥珀色へ変える事を拒んだのは。
貴方の色が、そこには。

それは―――とても、よく解る。

「おれのパジャマをかむな、といって おこされましたよ。」
「…かんでいたのか?」
「おれとしては、ちょーこーどのの"ねこみみ"を めでていたはずだったのですがねえ。」
「ふふ…きみらしいな。」

張コウと淮にゃんが交わした朝のやりとりを想い浮かべれば、統にゃんの顔には自然と笑みも浮かび。
もう一口、珈琲を楽しむと。
出されていた、真白い本日のお茶菓子を口に運ぶ。
と。
ふわり、それはすぐにすぐに、軽やに溶け消えてしまい。


そんな。
まるで。


「……のう、きょうのこれは…なんという"おかし"なのだ?」
「ええと…たしか、"あわゆき"って いっていましたよ。」
「あわゆき…」

淡雪…?

「ゼラチンをいれて、マシュマロのはずだったのですがね。」
「あ、ああ。」
「なかったから かわりに"かんてん"をいれると、そういう おかしになるみたいですにゃあ。」
「…そうか。」

これもまた、奇遇という事か。

「…ほーとーどののくちには、あいませんでしたかね?」
「いや…むしろ、すきだ。」

淡雪が?
淡雪、も。
淡雪の向こうに見る、君も。

「それなら、じょしょさんにつくってもらうと いいですよ。」
「そうだな…」

真白の淡雪。
深いブラウンの珈琲。
猫が見た、猫の夢に愛でた色。

「…だけど、ほーとーどの。」
「ん?」
「やっぱりおれたちは…"ねこ"で いるべきですよねえ。」
「…そうだ、な。」

だいすきな。
だいすきな。
貴方が撫でてくれるから。


二匹の猫は顔を見合わせて、淡雪と珈琲をそっと含む。
夢のように、夢のように。
真白と深いブラウンは、猫の中へと消えてゆく。

■終激■

◆淡雪夢想を上げる際に、一緒に上げるつもりでしたとも(滅)
…ちょこにゃんと郭淮さんも、実は淡雪夢想の中で出す予定だったのですが…収拾がつかなくて。
なので、後日談としてちょっとだけ出したいな、と。
…さぞかし男前なにゃん仔でしょうな、ちょこにゃん(笑)
あと淡雪もね、本当に雪の方を調べようとしたらお菓子の方がヒットしまくりで(;´∀`)
ならばいっそ、ネタとして使うべしですぞ、と。

2008/11/15 了



あきゅろす。
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