♪十五夜お月見にゃん仔
「"ちゅうしゅうのめいげつ"ですねえ、ちょーこーどの。」
「ああ、今宵は…特に月が良く見えるな。」

ベランダへ長椅子を出し、淮にゃんは雲ひとつ無い星空の中で一際美しく浮かぶ月を見上げて。
十五夜の、お月様。
そのまま見上げ続けていると、何時しか吸い込まれてしまいそうな名月。

「まんげつ…では、ないんですよね。」
「そうだな、今年の場合…確か満月は明日の筈だ。」

その。
真円に欠ける歪が、妙。

「そら、出来たぞ。」
「にゃあ♪おいしそうですねえ、"げっぺい"ですか。」

淮にゃんの隣に張コウは腰掛けて、出来立ての月餅を猫に手渡す。
ずっしりと中身の詰まった、食べでのあるひとつを淮にゃんは嬉しそうに手に取って、早速一口。

もふもふ。
むぐむぐ。

「…ちょーこーどのがつくられる"げっぺい"は、"ぺきんしき"っぽいのですにゃあ。」
「月餅の好みがあったか?」
「いえいえ、おいしいですよ。」

もぐもぐ。
むぐむぐ。

「…ふ…あまり食べ過ぎるなよ、存外に熱量が高いからな。」
「う…そ、そうですにゃあ…」
「ふふ…」

一応、一言添えてみたが。
張コウは、淮にゃんが自分の作るものを美味しそうに食べる様を見るのが嫌いではないし。
みるみる内に欠けてゆく小さな掌の中の月に、悪い気はしない。

「それにしても、ほんとうにきれいな つき ですねえ。」

自分の月は、既に上弦の半月。
餡子を口の周りに付けながら、ふと、思い出した様に再び夜空を見上げ。
淮にゃんは、ぱたぱたと関心と感心を交えて尻尾を揺らす。

「にくがんでも、すごくはっきりと うさぎ がみえますねえ。」
「そうだな。」
「う〜ん…いまにも、くろいうさぎが そらからふってきそうな


ガッシャアアアァァァアアアン!
…ひゅるるるる…
ドッシャアアアァァァアアアッ!


「狽、わあっ!?」
「……ギ、ギギ…う、うでをあげたな、むすめよ……」
「りょ、りょふさん?」
「もはや、ようしゃせぬぞ…!」

ズダダダダダーッッ!!

「りょふさん、みみにガラスがささって…ああ、いっちゃいましたよ。」
「…相変わらず、壮絶な親娘喧嘩をしているな上は…」
「あんな、ダッシュではしっていったら また りょきさんに"げいげき"されますにゃ…」
「その方が、すぐに大人しくなって良いと思うがな…それに、話していた通り月より黒い兎が降って来たのではないか?」
「りょふさんは"れいがい"でおねがいしたいですよ…」

確かに。
ガラス戸を突き破り宙に舞ったうさ呂布は、瞬間、月と重なり。
とてもとてもゆっくりと、天よりの使者が地へと降り落つが如くを双眸は捉えたものだが。

「しかし何だな、お前は月の模様が兎に見えると思うのだな。」
「にゃ?ちょーこーどのは ちがうのですか?」
「そうだな…特に俺はこれと想う訳ではないが、国が変われば見える感性も違うというからな。そういう意味の話だ。」
「ふ〜ん…たとえば、うさぎのほかに なにがあるのですかね。」
「例えば、か?そうだな……蟹、だとか。」
「……かに?」

カラカラカラ…

「ほっほ!おや、おや。お隣もお月見ですかな?」
「…」「…」
「?どうされましたかの、御二方。そんなに私を凝視されては、照れますなあ。ほっほ!」

いや、その。

「……まあ、蟹度は若干低いが良しとするか……」
「…そうですにゃ。」
「かにど?はて?」
「気にするな、こっちの話だ。」
「そうですか?ほっほ!」

取り敢えず、張コウと淮にゃんは月と徐庶を交互に見てみたり。

「かくわい。」
「にゃ、ほーとーどの こんばんはですにゃ。」

徐庶の後ろから、ひょっこりと統にゃんが顔を出す。
その手には、綺麗なピラミッド状に積み上げられたまんまるの月見団子が盛られた器。

「…きみのところは、"だんご"ではなくて"げっぺい"なのか?」
「そうですよ、よかったら おひとつどうぞですにゃ。」
「ああ、いただこう…こちらの"だんご"も、よかったらもらってくれ。きみの しゅじんのようには、つくれていないだろうが…」
「いえいえ、もちろん おいしくいただきますよ。…ええと…」

淮にゃんは、統にゃんを椅子に座らせようとしたのだが。
生憎と長椅子は二人掛けで、猫とはいえ一人分に二匹は少々狭い。

「俺は構わんぞ、此処に座れば良かろう。」

それを察した張コウが席を離れようとする。
と。

「いいのですよ、ちょーこーどの。すわっていてください。」

淮にゃんは張コウを引き止めて、自らが席を外す。
それならば、と遠慮を述べようとした統にゃんだったが。

ぽすん。

「さ、すわってくださいですにゃ、ほーとーどの。」

座る張コウを新しい椅子にして、てしてしと空いた場を叩いて促す。

「…あ、ああ。それでは…」
「…徐庶が座るのが、先ではないのか?」
「え、ええっ?」
「そうですにゃー、じょしょさんから いすにどうぞですよ。」
「ほっほ!それでは失礼させていただきますぞ。」
「お、おい じょくん…!」

よもや、張コウからその辺りの事を問われるとは思わず。
くりっと双眸を驚き開かせて張コウと淮にゃんを見上げている間に、統にゃんは徐庶に抱え上げられていた。

「では、では。」
「うう…」

そのまま。
徐庶は椅子に腰掛け、統にゃんの座り心地を優しく整える。

「…お、おとなしくすわっているから、だきしめなくてもよい…」

整え終えても自分を抱き締めたままの徐庶に、恥ずかしいのか統にゃんはちょっと俯きながら一応抗議してみたり。
おおよその見当、無駄だとは思うのだが。

「ほっほ!良いではないか、良いではないか。郭淮殿も張コウ殿の腕の中、なのだしの。」
「そうですよ、ほーとーどの。」
「…ううむ…」

ちら、と。
横目に淮にゃんの様子を窺うと、張コウの腕の中にとっぷりと浸かる様にして背を預けている。
こころよりの信頼を持つ、その様に触れ。
統にゃんも、ほんの少しだけ徐庶の腕の中に身体を収めた。

「…はい、ほーとーどの。」
「…うむ…もらってくれ。」

まんまるの月餅と、まんまるの月見団子は、月の光を浴びてちいさなちいさなお月様。
飼い主さんの腕の中から、猫はお月様の交換を。



もぐもぐと、掌の中の月はすぐに欠けてしまったけれど。
天上の名月は変わる事無く、まるで祝福する様にふたりと二匹へ柔らかな光を贈っていた。

■終劇■

◆…思ったよりも、取り扱っている面子がお月見ネタ向きな件。
呂親娘をどうしたいんだ僕は(笑)
でも、実際ねたが出たのって本当にうさぎと蟹だけで…(苦笑)
とてもじゃないけれど纏められない気がしたから、短い会話文でどうにかしようとしたのですが…その方が返って面倒だったり。
毎度オチに四苦八苦して力技みたいなのばっかりですが、ちょびっとでも楽しんでもらえれば幸いですぞ…(*・ω・)

2008/09/14 了



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