♪マタタビ★にゃんにゃん
「じょしょさーん、こんにちはですよ。」

コンコン、と。
何時もは玄関より隣の徐庶の元へと赴く淮にゃんなのだが、本日は猫らしくベランダをえいやっと越えて来訪する事にしたらしい。
ガラス越しにそっと中を覗けば、統にゃんの姿は見えないがソファーに腰掛ける徐庶が窺えて。
二、三のノックを試みる。

「おや、おや。こんにちはですぞ郭淮殿。ほっほ!」
「こんにちは。ほーとーどのは いますかにゃ?」

ノックに気が付いた徐庶が目線を運び、淮にゃんの姿を認めるとガラス戸を開けて迎え入れ。
室内に入った淮にゃんは、徐庶を見上げて統にゃんの在宅を問う。

「…それがですなあ、居るには居るのですがの…」
「にゃ?」

すぐ返答が成されるものと思っていたのだが、徐庶の返りは意外に鈍く。
如何したものかと、淮にゃんはきょとんとして小首を傾げる。
そうして言葉の先を待っていたのだが、それよりも早く。

「……じょしょ……ふに……」
「ほ、ほーとーどの?」

くてん、と。
ソファーの肘掛に身体を預ける様にして統にゃんが姿を現した。
しかしながら、その様子は何時もと違っており…どこか、意識の希薄さを感じさせている。

「ど、どうしたのですかね?びょうきですか?」
「いや、いや。どうも…採取して来た植物の中に、マタタビが入っていた模様でしての。」
「…またたび?」

淮にゃんは、徐庶が農業系の教職に就いている事を以前に統にゃんから聞いていた為。
植物採取というのは、その一環なのであろう事は想像出来た。
だが、それと今の統にゃんの様子はまだ繋がっていない。

「猫にマタタビ…と申しましてな、マタタビは猫の好物として知られているのですぞ。」
「そうなのですか?」

ちら、と今一度統にゃんの方を向けば、確かに幸せそうな顔。
好物というのは、食物としての意味合いではなく精神的な作用の事を指しているのだろう。
酔った様に、しかし確実に酩酊とは違うそのとろりと蕩けた双眸。

「…じょしょー…」
「ほっほ!はいな、はいな。此処に居るぞホウ統。」
「……にゃう…じょしょ……」

ころころとソファーの上で悶えながら徐庶の名を幾つも呼ぶ統にゃんは、そのままころりと転げ落ちそうになる。
それを徐庶は支えて隣に座ると、今度は徐庶の身体の上に乗ってころころすりすりと。

「…ずっと、このままなのですかにゃ?」
「いや、いや。10分もあれば直ぐに醒めますぞ、常習性もありませんしの。ほっほ!」
「ふ〜ん…」

徐庶に続き統にゃんの様子を窺い近寄る淮にゃんは、まだ少しその豹変具合に心配する目線。

「しかし困りましたのう。」
「いやいや、じょしょさん あきらかにうれしそうですよ。」
「ほっほ!そうですかの?」

甘え下手の統にゃんが、淮にゃんの目も気にせず甘え寄っているのだから当然といえば当然。
擦り寄る統にゃんの頭を徐庶はくりくりと撫でて。
それに気持ち良さそうに"にゃあ"と鳴き、尻尾を揺らし応える。


と。


「…じょーしょ……ちゅう…」

あみあみと、しがみ付く徐庶の腕を甘噛んで。
ふにふにふにゃんと、身体全体を蕩けさせながら口付けを強請る。
愛らしさを余す事無く見せる誘いは、何者の心も解す様。

「……ちゅう、してあげないのですか?おれのことでしたら おかまいなく、ですよ。」
「そうですなあ…」

徐庶は、少しだけ困った様な色を浮かべながら笑むだけで。
柔らかな三日月を作る口唇を、統にゃんに落とそうとはしない。
淮にゃんの手前…と思ったのだが、口唇とは言わずとも耳辺りになら寧ろ何時も落としている。
一生懸命強請る統にゃんをなだめる様、背中を二度三度擦り、淮にゃんの質問に答えるべくゆっくりと徐庶は口を開き。

「…結局は、マタタビの作用でこうなっている訳ですからなあ…矢張り、本心で言うてくれませんとな。ほっほ!」
「なるほど…」


何時か、本当に。


「…だいじょうぶですよ、しょうきでなくても…ねこは、きらいなひとに あまえたりしないですからね。」
「ほっほ!そうですかなあ、でしたら嬉しいですな。」
「…じょしょ〜…」
「ととと。これ、これ…」

ぎゅ、と。
徐庶の胸元にしがみ付いたままの統にゃんは、自分から甘え寄せるだけでは足りないのか…くいくいと引っ張り寄せて。
勢い余ってころりとソファーに背を付きつつも、しっかりと服の端を握り離そうとはしない。

「やれ、やれ…流石にそろそろ切れると思うのじゃがの…」
「…じょーしょ、じょ…」





「おや?」
「……ちょっ、な…な、なな、なにをしてるんだ じょくんっ!」

マタタビの効果から醒め、統にゃんは一気にすっきりと目覚める。
それで目覚めたらソファーに横になっており、目の前には自分に覆い被さり気味の徐庶。
大変分かりやすく誤解した統にゃんは、瞬時に顔を赤くしてぽすぽすと徐庶の胸元を叩き始めた。

「もとにもどったですにゃー。」
「って、か、かくわいっ!その、これは、なんだ、だからその!」
「ほーとーどの、"さそいうけ"のそしつが ありますよ。」
「な・ん・の・は・な・し・だ・ーッ!!」


―――…


「……と、いうわけで。なかなか たいへんだったですよ。」
「ほう。」
「いやはや、ほーとーどの おおあばれでしたにゃー。」

それは、「お前の一言が余計だったからではないのか。」という事は黙しておくとして。
ソファーに腰掛ける自分の太腿に身体を預け、尻尾をゆらゆらさせながら今日あった事を話す淮にゃんに張コウは耳を傾ける。

「おれも、またたびをかぐと あんなかんじになるのですかね。」
「…ふ…お前はマタタビなぞ必要無かろう。」
「じょしょさんにも、にたようなことをいわれましたよ。」

ころころ。
ふにゃん。

「…そうですにゃあ。ちょーこーどのがいてくれれば、おれはまたたびがなくても しあわせになれますにゃ♪」
「やれやれ…甘える口実を見付けるのは一級品だな、お前は。」
「さて、なんのことですかね。」
「……ふふ…まあ、良いか……」



とろとろ。
ふにゃん。

貴方が傍に居てくれれば、猫は何時もしあわせマタタビ要らず。
だからずっと、ね。

■終劇■

◆マタタビって子猫や去勢したにゃんこには効かなくて、雄猫に良く効くんですね。へー。
雄にゃんこには、性的活性作用…媚薬的作用が働いているのではなかろうかと。ほっほー。
という訳で、にゃん仔ならこんな感じで効くのではなかろうかと統にゃんに与えてみました(…)
しかし庶っち、それがマタタビだと分かるだろうに。
さては確信犯か(笑)
ちょびっと遅くなりましたが、今月のにゃん仔日小噺という事で。

2008/08/31 了



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