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「……しげん……」
「…ん……げん……ちょ、く…」
そうして辿り着くのは君で、降り立つ先は君で。
ゆっくりと開く双眸には、変わらずに笑む君が映る。
そんな君は―――まるで。
ホウ統の額にひとつ、長く長く徐庶は口唇を落とす。
漸くに離した、その時。
するりと伸ばされていた腕が首へと回り。
触れるだけのちいさな口付けを、ホウ統は徐庶の口唇へ届けた。
―――…
「……す、ぅ……」
「…余程、疲れていた様だな…」
仮にではあるが身を清め。
軽く着物を羽織り、他愛も無い話を交わしていたのだが…程無くホウ統からは安らかな寝息が漏れ落ち、徐庶にもたれ掛かる。
起こさぬ様、肩をそっと寄せて。
労わる様に擦りながら寝顔を覗き見れば、愛おしさが。
「…何時か、必ず…お前さんを身請けに来るからの……その時は―――」
自分の行おうとしている事は、雛をまた新たな籠に閉じ込めてしまうだけではないのか、と。
それを想えば、先を紡ぐのが憚れて言の葉を止す。
黙し、ただただ徐庶は眠る雛に愛惜の情を持って抱き留めて。
「―――…先を…教えてはくれないのか?…徐君…」
「…ほっほ!起きていたとは、存外人が悪いな…ホウ統。」
「ふふ…」
双眸は閉じられたまま、口唇だけが僅かに開き。
紡ぎ終えれば、形作る三日月。
「…待つのには、慣れている。」
「それだけでは―――」
どうと表したものか。
申し訳無いとも、困惑ともつかぬ表情を徐庶は浮かべ。
伏したまま、その顔を見ずとも声の色からホウ統はそれを察して。
「……馬鹿者。」
身を返し、徐庶の胸元にホウ統は縋り寄る。
きゅうとひとつ、しっかりとしっかりと君を抱き締め。
「…ホウ統…?」
「…要らぬ、心配だ…」
―――君は、決して籠では無い。
羽を休め、安息をもたらす大樹の止まり木なのだから。
■終劇■
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